2-15
莉子を自宅の団地まで送り届ける。
一週間送っているが、後を付けられているとか、見られているというようなことはなかった。
だが、荷物は相変わらず無くなっている。
タイミングは移動教室の時で、犯人を特定出来ていない。
一度、教室の隅にスマホを録画モードにして隠したのだが、仕掛けたのを見られていたのか、何もされなかった。
何の為に莉子の荷物を盗むんだ?
ただの嫌がらせ?
目的があるのか?
分かっているのは、同じクラスに犯人がいるということ。
でも、それが誰か分からない。
物が無くなった時に、誰が居なかったのか見ていたが、何人か来るのが遅かったり、前回居なかった人が次は居たりするので、犯人を断定出来なかった。
早く手掛かりを見付けないとと焦ってしまう。
物が無くなるのが続いて、莉子の調子が悪くなっているのだ。
「もう少し待っててくれ、必ず犯人捕まえるから」
「無理しなくていいよ。大輔は勉強に集中してて……」
微笑みながら莉子は言う。
その顔は、前の時に勉強を教えると言ってくれた時の表情に似ていた。
あの時にはもう、莉子はいろいろと抱えていた。
今はどうなんだ?
「……なあ、もしかして、何か隠してないか?」
「何も無いよ、心配してくれてありがとう」
その言葉が、余計に疑念を抱かせた。
でも、追求は出来ない。
俺が出来るのは、莉子が話してくれるのを待つことだけだから。
◯
ある日、莉子が体調不良で学校を休んだ。
メッセージには、ただの風邪だと聞いたけど、心配で仕方ない。
早く帰ってお見舞いに行きたいところだが、これまで俺を避けていた二島から呼び出された。
場所は使われていない空き教室。
昔は使われていたそうだが、生徒数の減少により使用されていない教室が多くある。
その一つに入ると、二島が一人で待っていた。
「一人か?」
「そうだけど、なに?」
「いや、俺を避けてたから、会うなら北方も一緒だろうなと思っただけだ」
「充は塾で忙しいから居ないよ」
「そうか……。じゃあ、俺を呼び出したのって北方は知らないのか?」
「知らない。言ってたら絶対止めるでしょ? だけど、もし私に何かしたら、警察に行くからね!」
「しねーよ。何だよ、俺を危険人物みたいな言い方しやがって……」
そんなに怖がらせるようなことしたかと思い返してみる。
だが、そんな行動をした覚えはない。
あるとすれば祭りの日の一件だが、そこに二島はいなかった。
それに、そんなに警戒する俺を呼び出して、どうするつもりなのだろう?
「んで、何の用? 早く帰りたいんだけど」
早く莉子のお見舞いに行きたいと告げる。
すると、二島は激昂した。
「ねえ、まだ分からないの⁉︎ 莉子迷惑してるんだよ⁉︎ 莉子の物盗んでいるのだって、どうせあなたでしょ⁉︎」
「何言ってんだ? 俺が莉子の物盗むわけないだろう。それに、迷惑って何だよ。迷惑なんて掛けてないだろう⁉︎」
意味が分からない。
俺がそんなことする必要が無いのは、こいつだって分かっているはずだ。それなのに、どうしてこんなことを言う。
第一、迷惑なんてあるか! 俺は莉子の彼氏だ。俺があいつを守らなくて、誰が莉子を守るっていうんだ!
「迷惑だから言ってるの! いつも莉子にべったりで息苦しそうにしてるの見えないの⁉︎ それに中川君さあ、あの不良グループのお兄さん病院送りにしたんでしょ? あなたが側に居たら、莉子にまで危害が及ぶかもしれないじゃない‼︎ もう莉子と別れて上げてよ‼︎ 莉子が可哀想だよ……」
頭の中が混乱する。
莉子が息苦しそう? 迷惑? 可哀想? 別れる? そんなことあるのか? 俺は彼氏だから、莉子を守らないといけないのに、俺が追い詰めていた? 不良グループに狙われる? 俺が危険に晒しているのか?
もしかして……莉子が……。
「……自殺した原因は、俺?」
「えっ?」
そう口にすると、心が冷たくなる。
違うと分かっていても、その可能性を考えてしまい目眩がする。吐き気を覚えて、水場でえずく。頭痛がして、鉄の臭いが鼻に付く。何だと鼻を拭うと、手の甲に血が付着していた。
どうやら、鼻血を流していたみたいだ。
「待って! ねえ! 今自殺って⁉︎ 莉子が、莉子が自殺したの⁉︎」
二島の甲高い声が頭に響いて不快に感じる。
触れられる感触も気色悪くて鳥肌が立ってしまう。
触るなと腕を振るうと、小柄な二島は転んでしまった。
もう一度えずくと、ハアハアと息を吸っては吐いてを繰り返す。
何度も繰り返して、ようやく考えられるまで落ち着いた。
二島は怯えた顔で俺を見ており、やってしまったと後悔する。
「……悪い、ティッシュ持ってるか?」
「うっ、うん……」
二島にティッシュを貰って、鼻血を拭き取る。鼻血は止まっていて、鼻に詰めなくてよかったと安堵する。
俺は残ったティッシュを返そうとするが、「いいよ」と受け取るのを拒否された。
どうやら、俺のことが本当に怖いようだ。
「すまん、嫌なこと思い出して取り乱してしまった。莉子は自殺なんてしないから安心してくれ」
「えっ、でも、さっき自殺って……」
「するわけないだろう! 俺がそんなことさせない! その為にっ⁉︎ ……あっ……。すまん、また……」
駄目だ。今は駄目だ。
どうにも考えが纏まらない。
嫌な言葉に反応してしまう。
自分から言い出したことなのに、他人に当たってしまいそうになる。
大声を出したから、二島は怯えてしまい耳を塞いでいる。
俺は片膝を突いて二島と目線を合わせる。
それだけの身長差があるんだ、俺が威圧したりしたら、それは怖いだろう。
目線を合わせると、二島はゆっくりと目を開けて俺を見る。
落ち着いた声で、冷静になるよう自分に言い聞かせながら俺の意見を告げる。
「二島の言うことは分かった。俺は、莉子を束縛していたのかもしれない。もしそれが嫌で、莉子が別れたいって言うのなら俺は受け入れる。それでいいか?」
俺の言葉に、二島はそれでいいと頷く。
「ただ、これだけ教えてくれ。不良グループのは誰から聞いた? そいつの兄を病院送りにしたってやつだ」
この質問が意外だったのか、二島は不思議そうな顔をして教えてくれた。
「みんな言ってるけど」
「みんなって誰だ? 二島は誰から聞いたんだ?」
「えっと……充君だったかな?」
「北方?」
俺が不良グループに連れて行かれたのは、結構な人達に見られていて知っている。
でも事情は話さなかった。
被害者である汐井もいて、不安にさせるべきじゃないと説明しなかった。不良グループの奴らが話したのかと考えたが、いくらあいつらでも、恥を晒すような真似はしないだろう。
そもそもの話し、俺は否定している。
警察も公表しない以上、知る手段は無いはずだ。
「すまん、どうして病院送りにしたか事情は知っているか?」
「それは、知らないけど……」
「……」
どうして事情まで知らない?
誰が流した?
汐井は知っているのか?
「北方に聞いた方が早いか……」
そう考えて、俺は二島から離れる。
教室から出ようとして、一つ聞きたいことがあるのを思い出した。
振り返ると、二島も教室から出ようと後ろを着いて来ており、危うく見落とす所だった。
「なあ、二島はどうして俺を避けるようになったんだ?」
そう尋ねると、二島は俺を見上げる。
「……悪い噂を聞いたから」
「悪い噂?」
「女子を無理矢理彼女にしてるとか、人を虐めているとか、泥棒してるとか……」
「それも北方からか?」
そう尋ねると首を振って否定する。
そして、スマホを取り出して、俺の知らないクラスのSNSを見せてくれた。
「これに書き込まれてた。誰が作ったのか知らないけど、クラスの半数は使ってるよ」
「そんなのあったのかよ……」
匿名をいいことに、人の悪口ばかり書かれている。
とても胸糞悪いグループだ。
二島に招待してもらって、俺も参加する。
投稿はせずに、ただ内容を確認する。
そこには、俺の根も葉もない噂が並べられており、怒りを通り過ぎて笑いが込み上げて来そうだった。
スマホを見ながら、二島と一緒に教室を出る。
この時、もっと警戒するべきだった。
二人で出た所を写真に撮られて、翌日このSNSに投稿されていた。




