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門司港タイムトラベル  作者: ハマ
2.中川大輔タイムリープ

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28/38

2-14

 連れられて来たのは校舎の中でも、人が寄り付かないトイレ。

 教室から最も離れた場所にあるトイレで、使用するのも音楽などの移動教室くらいだろう。


 誰もいない静かなトイレに、俺を先頭に男四人で入る。


「で、何の用?」


 振り返ってそう尋ねると、男が酷く激昂していた。


「っざけんなよ⁉︎ テメー、俺の兄貴病院送りしただろう⁉︎」


「は? 何の話し?」


 いきなり意味が分からない。

 こいつらの兄貴なんて知らないし、家族になんて興味も無い。


 今、こいつらに関心があるとすれば、さっさと潰した方が莉子の安全を確保出来るんじゃないかという点だけだ。


 こいつらは、いつか莉子に暴行を加える可能性がある。

 前もそうだったんだ。

 今回が違うなんて保証は、どこにも無い……。


「わっしょい百万の日、お前何してた⁉︎」


「何だよ? 彼女と夏祭り行ってたけど……」


「そこで喧嘩しただろう⁉︎ 兄貴はな、足に障害負ったんだぞ‼︎」


「は? 知らねーし。そもそも喧嘩なんてしてねーよ」


 そうきっぱり言い切ると、そいつの勢いは萎んでしまった。

 背後にいる二人も顔を見合わせていて、どうするべきか迷っている様子だった。


「……本当か?」


「喧嘩なんかするか」


 俺が断言すると、こいつらの一人が「こいつじゃないんじゃない?」と人違いを疑い始める。


 喧嘩なんかしない。

 やったのは悪者退治だ。


「……本当に違うのか?」


「何回も言わせるな、お前の兄貴なんて知らない。もういいか?」


 そう言うと、横にズレて道を開けた。


 トイレを出ようとすると、また呼び止められる。


「おい待て! これを見ろ」


 振り返ると、そこにはスマホが掲げられていた。

 その画面には、前に見た悪者の顔が映し出されていた。


「俺の兄貴は右だ、左の友達と一緒にやられた。本当に見覚えが無いんだな⁉︎」


 俺はジッと画面を見て返答する。


「いや、無いな」


 素直に答えようかと逡巡したが、何かするにしてもここではまずいと判断した。


 不良グループを残して教室に戻っていると、ふと気になった。


「……誰に俺のこと聞いたんだ?」


 汐井を襲った二人組には余罪があり、回復次第逮捕されると警察は言っていた。

 そもそも、俺がどこの誰かなんて情報は、あの二人には渡っていない。もし渡っていたとしても、どうして弟が来るんだ?

 あの犯罪者の仲間ならまだ分かるが、力の無い奴が来て何の意味があるというのだろう?


「聞いとけばよかったな……」


 足を止めて戻ろうか迷う。

 だけど、それは出来なかった。

 クラスメイトから聞いたのか、心配した先生が階段を駆け上がって来たから。



   ◯



 あれから数日間は平和だった。

 莉子と一緒に帰り、勉強をして、体が鈍らないように父さんとミット打ちをする。


 このまま何も起こらず、中学を卒業出来たら俺の目的は達成される。

 そうなったら俺は、どうなるのだろう?

 このままあり続けるものだと思っていたけれど、もし違っていたらどうなるのだろう?


 考えれば考えるほど不安になる。


 元の世界に帰るのだろうか?

 それとも、記憶を失って、何事も無かったかのように過ごすのだろうか?


「戻りたくないな……」


 孤立した高校生活。

 莉子の居ない日常。

 怒りと後悔に染められた感情。


 莉子との時間を過ごしていると、あの生活が地獄に思えて来る。


 一人は辛い。

 どんなに強がっていても、一人というのは耐えられない。

 俺はもう、あの日々を耐えられない。


 だからどうか、このまま居させてください。


 そう願ってしまう。



   ◯



 十月下旬、莉子の様子がおかしくなった。

 荷物を(しき)りに確認したり、周囲を警戒したりするようになったのだ。


「莉子、どうかしたのか?」


「その、気のせいだと思うんだけど……誰かに見られているような気がして……」


 周囲を見回す莉子は、不安そうな顔をして教えてくれた。


 帰り道、俺と別れたあと一人で歩いていると、誰かから見られているような視線を感じるそうだ。

 それだけでなく、鞄の荷物が無くなっていたり、その無くなった物が机の中に入っていたりするらしい。最初は気のせいかと思っていたそうだが、頻繁に続くので、誰かにやられているんじゃないかと思ったらしい。


 来た。

 ついに来た。

 莉子を自殺に追い詰めた犯人が現れた。


 ……どうしてやろうか。


「教えてくれてありがとう、家までは俺が送って行くよ。荷物はどうするか……」


 何の目的でそんなことをしたのかなんて関係無い。

 犯人が誰であろうと容赦しない。


 莉子が死ぬくらいなら、犯人、お前が死ね。


「大輔、ちょっと顔怖いよ……」


「うっ……そんな怖い顔してたか?」


「うん、人殺しそうなくらい怖かったよ」


「そうか……気を付ける」


 顔を拭って気持ちを落ち着ける。

 焦るな、莉子はまだここにいる。

 それに、前は教えてくれなかったことを、今回はこうして教えてくれている。


 変わるはずだ。

 未来は変わるはずなんだ。


 それなのに、どうしてかあの暗い顔が思い浮かぶ。


 莉子に似た人が絶望したあの顔が……。

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