2-13
帰宅すると、莉子に今晩相談があるとメッセージを送る。
汐井には悪いが、俺一人で抱え込める内容ではない。
北方と二島からは、付き合っているのを秘密にしてくれと口止めされている。
ここだけの話と汐井に教えるのは簡単だが、そこから広まる可能性が十分にある。
それは、明確な裏切り行為だ。
秘密にすると頷いたからには、筋は通しておきたい。
話すにしても許可を貰ってからだ。
それに、莉子と二人で話し合えば、何かしら答えが出るだろう。
『困ったねぇ……』
「……だな」
何があったのか説明すると、莉子も頭を悩ませていた。
こういうのは、その人の思いの問題なので、部外者が考えた所で答えが出るような物ではなかった。何を言ったとしても、惑わせるか傷付けるだけの結果に終わってしまう。
もし、幸福な結末を叶えるのなら、北方と二島が別れた所に入り込むくらいしかないだろう。
『汐井さん、どんな感じだった? 直ぐに告白しそう?』
「一応受験生だし、よく考えてから行動したほうがいいとは言っているが……、いつ告白してもおかしくないと思ってる」
『そっかー……』
「どうする? 付き合ってるって教えるか?」
『それはチサに聞いてからがいいけど、言ったら言ったで喧嘩になりそうだしなぁ……』
「北方に言っておくっていうのはどうだ?」
『それはどうなんだろう? 彼女がいるの伝えていいか聞くのはいいけど、告白されるかもって言って意識させるのもまずいかも』
「あいつが意識するか?」
結構な人達に告白されて、全て断っていると聞いたことがある。そんな奴が、また告白されると知った所で動揺するだろうか?
『え、しないかな?』
「しないんじゃないか」
『大輔は意識しないの?』
「俺はしないな」
もう莉子がいるし、面倒だなくらいにしか思わない。
『えー、男子ってそうなの?』そう不満そうな声を上げる莉子だが、『そういうことなら、北方君に話ししてみるよ』と納得してくれた。
汐井には悪いけれど、今回は諦めてもらうしかない。
◯
二学期は、始業式の日に汐井から相談された以降、何事もなく過ぎて行く。
莉子に変わった様子も無く、相変わらず二島が睨んで来る以外は何もない。汐井もいつも通りの様子で、元気に過ごしていた。
九月が平和に終わり、十月の上旬。
三日間の中間テストが始まる。
テストの手応えはかなりあった。
というより、二年前とはいえ二度目のテストだ。
問題の内容を思っていたよりも覚えており、全て正解してもおかしくないほどだった。
正直な所、前とはテスト問題も変わっているだろうと思っていた。これまでにも、色々と違う出来事が起こっており、テストもそうだろうと予想していた。
それなのに、テスト問題は全て同じだった。
「どうだった?」
全てのテストが終わり、莉子と一緒に帰っていると手応えを聞いて来る。
「まあまあかな……」
罪悪感を覚えた。
莉子や他の人達は真っ当に試験勉強をしてテストを受けているのに、俺は二回目だった。
これはズルだ。
非難されてもおかしくない行為だ。
わざと間違えようとも思ったが、受験を考えるとそういうわけにもいかなかった。
前回は、平均点より少し下くらいの成績だった。
それに危機感を覚えて、莉子に勉強を教えてもらおうと頼みこんだんだ。
「これから復習しない?」
テストの解答は、問題用紙にも書き込んでいる。
この答え合わせをして、自分の弱点を知りたいのだろう。
「いや、俺はいいかな……」
罪悪感から、俺は目を逸らしてしまう。
「何かあったの? そんなに悪かったとか?」
「そういう訳じゃないんだが……。すまん、今回は見逃してもらえると助かる」
もう、そうお願いするしかなかった。
莉子は怪しそうな目を向けて来るが、最後は「仕方ないな〜」と諦めてくれた。
翌日から、中間テストの解答用紙が配られる。
結果、全教科九十点以上。
学年トップの成績を収めてしまった。
「大輔凄いじゃない⁉︎ たくさん勉強してたもんね、これなら××高校より上を目指せるんじゃない?」
何も知らない莉子が、純粋な気持ちで褒めてくれる。
それが、とても辛かった。
「……そうだな、ありがとう莉子。でも、俺は莉子と同じ高校に行きたいんだ」
「そっか。じゃあさ、今度勉強教えてよ。私も大輔と同じ高校がいいからさ」
「おう、任せとけ」
入試の問題なら覚えている。
莉子に教えてもらった範囲は出題されていたから、余計に頭に残っていた。
これで、二人で同じ高校に通えるはずだ。
この際、罪悪感は飲み込んで、目標の為に動くべきだろう。
そう決心したのだけれど、テストが帰って来てから五日後、ある噂が耳に入る。
【中間テストで、中川がカンニングしていた】
噂を教えてくれたのは、元バスケ部の仲間だった。
別のクラスのSNSでも流れ始めているらしく、教師の耳にもそのうち入るだろうという。
「調べてみたけど、誰が流してるのかまでは分からなかった。大輔がそんなことしないってのは、俺達は分かってるからな」
「すまん、調べてくれてありがとう」
感謝を告げると、俺は自分の教室に戻る。
中に入ると、軽蔑するような眼差しが俺に向く。
だが、俺が見回すと直ぐに視線は逸らされる。
クラスメイトとは、それなりに仲良くしているつもりだったが、不確かな噂の方を信じているようだった。
クラスメイトを残念に思っていると、北方が俺に近づいてくる。
「中川、噂を聞いたんだが、本当にカンニングしたのか?」
まさか、真正面から聞いて来るとは思わなかった。
「そんなはずないだろう。誰か、俺がカンニングしてる所を見た奴がいるのか?」
いるなら手を挙げてみろと周囲を見渡す。
しかし、誰も動くことはなかった。
「ならいいんだ。さっきまで、中川がカンニングしたのか話題になってたから気になったんだ。これで分かっただろう、この話はデマだ! こんな下らない噂話は、今後一切やめてくれ!」
前半は俺に、後半はクラスメイトに対して言い放った。
これを聞いて、バツの悪そうな顔をしているのは、これまで学年でも上位の成績を収めていた人達。
彼らには、申し訳ないことをした。
塾に通って、必死に勉強しているのに、カンニングよりも酷いズルをした俺に抜かれたのだ。
その悔しさは、俺を陥れたとしても気が治らないだろう。
でも、それでも、やれることはやらせてもらう。
罪悪感は受け入れると決めた。
もう一度、あの高校に莉子と入学する為に、俺は全力を尽くすまでだ。
何事もなく過ぎてくれたらそれが最善なのだけれど、過去の行いが容赦なく襲い掛かる。
「中川ぁ‼︎」
俺の大嫌いな不良グループの奴らがクラスに乗り込んで来た。




