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門司港タイムトラベル  作者: ハマ
2.中川大輔タイムリープ

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25/38

2-11

 花火大会が始まる。

 ベランダに椅子を出すと、三人揃って腰を掛ける。

 部屋の電気は消しており、夜景が映えていて思わず写真を撮ってしまう。

 下を見ると、門司港レトロから見ている人も大勢おり、数時間前には展望室に向かう為の列が出来ていた。

 それだけのスポットに、こうして無料で参加出来るのはとても幸運なことだろう。招待してくれた莉子とお祖母さんには、感謝しても仕切れない。


 オープニングは下関側のドローンショーから始まり、その様子はマンションからでも薄らと見える。音楽はそれほど届かないが、それでもこれから行われる打ち上げ花火を期待させてくれる。


 二十時になると、火の玉が上がり空中で弾けて空を彩る。


 花火大会の開始である。


 門司と下関の観客数は合わせて百万人に達すると言われており、それだけの人達を満足させる為に、両側の岸壁から一万五千発もの花火が打ち上げられる。

 

 多種多様な花火が音楽に合わせて空を彩り、その度に歓声が上がる。


「わあー……」


 隣を見ると、莉子が花火を見て目を輝かせている。


 その目に、あの幻で見たような絶望は無く、純真さだけが宿っていた。


 俺も花火を見て、その美しさを堪能する。

 響く爆発音は、鼓動と連動しているかのように感じられて、今ここに生きているんだと自覚させてくれる。


 だからか、つい願ってしまう。

 神社でもお願いしたのに、また願ってしまう。


 この幸せが、いつまでも続きますようにと。


 莉子が幸せに生きていますようにと。

 



   ◯




 花火大会が終わると、少し時間を置いてお祖母さん家からお暇する。


「泊まって行けばいいのに……」


 そう言ってくれるけれど、これ以上お世話になるのも申し訳ない。

 それに、俺は莉子と違って部外者でしかない。そんな奴がいつまでもいたら、迷惑でしかないだろう。


「またいらっしゃい」


「お世話になりました」


「お祖母ちゃん、また来るから」


 最後に「ありがとうございました」と頭を下げて、エレベーターに乗り込んだ。


 帰りの電車は、時間を置いたにも関わらず人が多かった。

 いつもの乗客数を知っているわけではないけれど、座席に座れないくらいの人は乗っていないだろう。今のプラットホームには、それだけの人数がいた。


「あっ、チサだ」


「ん?」


 莉子の視線に釣られて見てみると、そこには二島の姿があった。その隣には北方の姿があり、どうやら二人もデート中だったようだ。


「声掛けるか?」


 そう聞くと、莉子は首を振って否定する。


「やめとこう。二人に取って、大切な思い出なんだしさ」


「それもそうだな」


 俺は同意して頷くが、それは俺達にも言えることじゃないかと思ってしまった。


 とりあえず、二人を見なかったことにして電車がやって来るのを待つ。だが、俺達の気遣いは無駄だったようで、あちらから声を掛けて来た。


「あっ、莉子じゃん⁉︎ 中川君も一緒だね!」


 明るい声が響いて、二人がこちらにやって来る。

 俺達は苦笑して、そっと手を振った。


 近付いて来る二人の表情は違っていた。


 二島は笑顔なのだけれど、北方は二人の時間を邪魔されたからか、不機嫌な顔をしていた。


 二島は楽しそうに莉子の手を取っており、一緒に帰ろうよと提案して来る。せっかく彼氏とのデートなのに、それでいいのかと言いたくなるが、断る理由がないので「うん」と苦笑しながら了承する。


「中川君目立つから、直ぐに分かったよ! 身長大きいって便利だよね」


「頭ぶつけて不便なことも多いけどな」


 悪気の無い二島の言葉に、笑って返す。

 無駄に目立つというデメリットはあるけれど、役に立ってもいるの事実なので、この身長に不満は無い。


「二人も花火大会に来てたんだよね? どこで見てたの、和布刈公園にいなかったよね?」


 そう尋ねられて莉子を見る。


「私のお祖母ちゃんが近くのマンションに住んでるから、そこから見たんだ」


「ええっ、いいなぁ。人混み凄かったからさ、私達苦労したんだよ」


 ねー、と言いながら二島は北方に目配せする。


「押し潰されそうで大変だった。熱中症になりそうでやばかったよ」


 北方はそう疲れたように、二島と莉子を見ながら答えていた。


 雑談をしていると、電車がやって来て乗り込む。

 電車の中でも会話は続いて、大きな声になりそうな二島を諌めて小声に戻す。


 二島はとても楽しそうで、見ていて気持ちがいい。

 こいつが居てくれるだけで、周りを明るくしてくれる。

 少し空気を読まない所はあっても、それも愛嬌だと受け入れたら一つの魅力になるだろう。


 こういう子だから、北方は好きになったんだな。


 そう納得して北方を見ると、その目に違和感を覚えた。


 視線は二島に向いているのだけれど、無関心というか、何とも思っていないような無機質な物に感じてしまう。コンクール本番前に、部員に声を掛けていた熱い奴と同じには見えなかった。


 だから、つい聞いてしまった。


「なあ、二人はいつから付き合ってるんだ?」


 混雑した電車の中だけど、これくらいなら許してくれるだろう。


「えっ⁉︎ ここで聞いちゃうの⁉︎」


 照れたように二島は言うけれど、その顔はとても嬉しそうだった。


「ちょっとサチ、声落として。周りから見られてるから」


「あっごめん。でも、どうしよっか……?」


 二島は北方を見て、視線だけで問い掛ける。

 すると北方は男らしく、きっぱりと言い切った。


「部活が終わって直ぐに、俺から告白したんだ」


 澄ました顔で答えており、周囲の女性陣からも小さな拍手が送られていた。

 二島は嬉しいのか、俺の体をバンバン叩いて来る。痛くはないけれど、叩くなら北方を叩いて欲しい。


 それを聞いて、今度は莉子が質問する。


「へー、サチのどこが好きになったの?」


「明るいところ。チサが吹奏楽部で周りを盛り上げてくれてるのを見てたら、自然と目で追うようになってたんだ。そしたら、いつの間にかって感じ」


 それを聞いて、莉子は納得していた。

 どうやら、吹奏楽部では二島の存在が大きかったみたいだ。


 俺達から聞いたからか、今度はこちらの番と北方は聞いて来る。


「浅野さんは、いつから中川と付き合ってたんだ?」


「えっ、私?」


 今度は莉子が俺を見て来る。

 どうする? と目で訴えて来るので、代わりに俺が答える。


「二年の三学期に、俺から告白して付き合うようになったんだよ」


 経緯は大したことない。

 部活で足を挫いて保健室に連れて行かれた時、その処置をしてくれたのが保健委員をしていた莉子だった。

 包帯を巻いてくれている姿を見て、この人しかいないと直感で悟り、「好きだ、付き合ってくれ」と告白した。


「え? 莉子それでOKしたの?」


「してないよ。ちゃんと断ったけど、顔を合わせる度に言って来るから……」


「その気になったんだ?」


 二島の問いに、コクンと莉子は頷く。

 多分、十回以上は告白していたと思う。顔を合わせるというより、迷惑にならないように一人で居る時を狙って告白していた。

 莉子とは帰り道が少し被っていて、部活帰りに一緒になることが多かったから本当に助かった。


 もしそうじゃなかったら、莉子とは付き合えていなかっただろう。


「へー、結構粘ったんだね。まるでストーカーだね⁉︎」


「おかしなこと言うな。周りから変な目で見られてるだろうが」


 二島が言うと、体格の大きな俺に視線が集まる。

 他よりも頭ひとつ大きいせいで、周りの人の目が見えてしまい居心地が悪くなる。


 なんとか莉子がフォローしてくれて助かったけれど、そうじゃなかったら、帰りの時間は地獄だっただろう。


 三十分近い時間を電車の中で過ごしたのだけれど、会話をしていたおかげで退屈せずに済んだ。


 二島が、今度ダブルデートしようと言い出すけれど、北方が拒否して無しになった。何でもこの暑い中、外には出たくないらしい。

 その気持ちは分かるのだけど、彼女が言っているのだから、考えてやってもいいだろうと思ってしまう。


 小倉駅に到着すると、モノレールに乗って自宅を目指す。


「じゃあな」


 そう言って北方と二島と別れる。

 莉子を自宅の団地まで送ると、「また連絡するから」「うん」とやり取りをして、莉子の家を離れた。


 この花火大会で、八月のイベントは終わる。

 あとは勉強して、たまに莉子と会って日々を過ごす。


 暑くも幸せな時間が過ぎて、ついに二学期を迎えた。

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