2-10
他人の色恋沙汰には興味無いのだけれど、どうにも気になる。
今回、たまたまそうなったのならいいのだが、前でも付き合っていたのなら、どうして秘密にする必要があっるのだろうか。
揶揄われるのが嫌だった?
二島が嫉妬されるのを庇った?
他に付き合ってる奴がいる?
三つ目は無いにしても、二つはありそうな気がする。
正直、こんなこと考えても意味は無いのは分かっている。でも、前に無い新しい情報なので興味を引かれてしまうのは仕方ないだろう。
それに、莉子が死んで不登校になった三人のうちの二人だから、余計に何かあるんじゃないかと勘繰ってしまう。
いろんなことを考えていると、服を引っ張られる。
「ねえ、なんで仏頂面してんの?」
隣を見ると、莉子が不満そうにしていた。
「仏頂面って……、少し考え事してただけだよ」
今いるは、鹿児島本線門司港行きの電車の中。
本日は関門海峡花火大会の日で、昼間から莉子のお祖母さんの家に向かっている。
花火大会までは時間があるが、その頃になると電車も混むので、早い時間に移動しようとなった。
それに、門司港には見て回る所も多いので、デートには持って来いの場所だろう。それに、あの神社にはもう一度行っておきたいと思っていた。
そう計画していたのだけど、その考えを改める。
「……人多いね」
「ああ……それに、今日は一段と暑い」
最高気温が四十度目前という予報で、とてもじゃないけど外で活動出来るような環境ではなかった。
俺達は景色を楽しむでもなく、海峡プラザに直行した。
しかし、同じ考えの人は多いのか、すでに人で溢れていた。
元々観光名所な上に、今日は花火大会。それはもう人が集まるだろう。
このまま移動すると、逸れてしまった時が怖い。
「莉子って、位置情報アプリは入れてるか?」
「うん? 入れてるけど、どうして?」
「俺とも共有してくれないか?」
「えっ、どうしたの? 前はあんなに嫌がってたのに……」
そう言われて、ああと思い出す。
居場所を特定すると、莉子を束縛しそうで怖くて断ったんだった。
「まあいいじゃん、ここで迷子になっても怖いしさ」
「それもそうだね。いいよ共有しても」
莉子の同意を得られたので、位置情報を共有する。
これで逸れても安心だろう。
海峡プラザの中を見て回りたいが、難しいだろう。せめて冷たい飲み物でもと考えるのだけど、それも厳しそうだ。
どこかないかと外に視線をやると、門司港レトロの展望室が見えた。
「莉子、展望室行かないか? ここじゃ、ゆっくり出来そうにないし」
「うんいいよ、連絡しとくね」
莉子と一緒に海峡プラザを出ると、はね橋の【ブルーウィングもじ】を二人で歩いて展望室に向かう。
建物に入ると、展望室に繋がるエレベーターに向かおうとするのだけれど、莉子に止められてしまう。
「待って、どこ行くの?」
「どこって、展望室だろう?」
「お祖母ちゃん家に来たんじゃないの?」
その意味が直ぐに理解出来なくて、少し考えてしまう。
そして気付いて、さっきの言葉はそういう意味だったかと納得する。
「お祖母さんって、ここに住んでるのか?」
コクンと頷く莉子。
この展望室は、最上階以外はマンションになっているが、まさかここに住んでいるとは思わなかった。
莉子がインターホンで到着を告げると、扉が開いてエレベーターに乗り込む。目的の階は二十七階と高い位置にあり、昇降する時間を長いと感じてしまった。
「こっち」
そう誘導されて扉の前に立つ。
莉子が部屋のインターホンを押すと、直ぐに扉が開いて高齢の女性が顔を出した。
「莉子ちゃんいらっしゃい」
優しい声と、優しい笑み。
莉子の親父さんに似ている気がするけれど、この人の方が明るくて柔らかい雰囲気だ。
「うん、お祖母ちゃん。こっちが話してた中川大輔君」
「中川大輔です」
そう頭を下げると、お祖母さんはポカンと口を開けて驚いているようだった。
「大きいわね〜。最近の子ってみんな大きいの?」
「そんなわけないよ、大輔が特別大きいだけ」
二人に注目されて居た堪れなくなり、俺はもう一度頭を下げた。
部屋の中に案内された先では、関門海峡の景色が広がっていた。
天気が良いのもあり、下関の姿がよく見える。
ツーリングをしていた時は、あそこまで行ったなと思い出してしまう。
「花火はここからでも見えるから、ゆっくりしていってね」
そうお祖母さんに言われて、「ありがとうございます」とお礼を言う。
出されたスイカを食べながら雑談する。
どうでもいい話しから、昔話、どの高校を目指しているとか、俺の部活での話し。莉子の学校での様子など、いろいろと話した。
雑談をしていると、莉子がお手洗いに立つ。
俺と二人きりになると、お祖母さんはぼそっと呟いた。
「あの子も、別れて戻って来たらいいのに……」
「え?」
「あっ、気にしないで、こっちの話しだから」
微笑むお祖母さんだけど、今の言葉で少し怖いと思ってしまった。
莉子が戻ると、お祖母さんはこれからの予定を聞いて来る。
「花火大会までここにいるの?」
「大輔どうする?」
莉子が俺に聞いて来る。
門司港レトロを回りたいけれど、人が多いのとこの暑さで諦めるしかない。でも、一箇所どうしても行きたい場所がある。
「和布刈神社に行きたいんだけど、いいか?」
「神社? 大輔ってそんな趣味あったっけ?」
「趣味じゃないけど、お世話になったからな……」
「お世話?」
「何でもない」
過去に戻れたのがあの神社のおかげなら、感謝の意を込めて祈りたかった。
そんな俺の話に、お祖母さんがあることを教えてくれる。
「和布刈神社は、導きの女神様を祀ってるから、受験生なら行っておいて損は無いかもしれないわね」
「えっそうなの? それなら私も行きたい」
ということで、俺と莉子は和布刈神社に向かうことになった。
ここからは少し離れており、この暑さの中何も無しに歩いて行くのは中々に危険だ。なので、莉子はお祖母さんの日傘を借りて、俺は濡らすとヒンヤリするタオルと手持ちの扇風機を借りて出発する。
「タクシー使わないか?」
でも、外に出て大通りに着いた時点で辛くなった。
多少お金はかかってもワンメーターくらいなので、許容範囲だろう。
今回も、多めにお小遣いは貰っているしな。
「ダメ、こういうのは歩いて行くから御利益があるの」
「そうなのか?」
「そんな気がしない?」
「いや、しないかな」
それは気のせいだ。
もしそうなら、バイクで行った俺には御利益が無かったことになるじゃないか。
ここにこうして俺が居るのだから、苦労するしないはきっと関係無い。
歩いていると、ちょうどコンビニが見えたので飲み物を購入しに向かう。
店内で少し雑談をして涼むと、再び神社に向かって歩き出す。
歩くこと二十分ほどで、和布刈神社に到着する。
真夏だというのに神社には人が来ており、関門海峡を背に写真を撮っていた。ツアー客らしき集団の姿も見えて、あの日の夜と違って賑やかな場所になっていた。
鳥居を潜って中に入る。
「っ⁉︎」
「どうしたの?」
「いや……何でもない……」
脇腹に鋭い痛みが走った。
触れてみても何も無いのだけど、この痛みには覚えがある。
あの日、暴走族の一人に刺された時の痛みだ。
まるで、この痛みを忘れるなと言っているようで、嫌な予感がしてしまった。
境内の前には何組か待っており、お詣りの順番が回って来るまで関門海峡を眺めて過ごす。
海が近いのもあり、風が吹き込んで来る。海の流れがとても早く、これを泳いで渡るのは不可能だろう。
目を細めると、タンカーが関門橋の下を通って行くのが見える。日に五百隻以上通るというのを、何かで見たのを覚えている。
順番が回って来たので、前を向くと、莉子に似た女性の姿を見た。
「あっ……」
息を呑む。
その人は、高校の制服を着ていて、目がとても暗く絶望していた。
「大輔どうかしたの?」
莉子に呼ばれて瞬きすると、その人は消えて、いつも通りの莉子がそこにいた。
「いっ、いや、何でもない……」
嫌な予感がして、背中が冷たくなる。
あれが幻だと自分に言い聞かせて、神様にお願いする。
どうか、どうか莉子が無事に生きていけますようにと、そう願わずにはいられなかった。




