2-9
救急車が到着すると、男二人が運ばれて行く。
当初、警察が到着した時、俺が警戒されてしまった。
莉子が誤解を解いてくれて、男二人を拘束しようとしたのだが、二人とも気を失っていた。
何をやったのか聞かれて正直に答えると、やり過ぎだと怒られた。
確かにそうかもしれないが、俺は何度同じ状況になろうとも、同じように行動しただろう。
どんなに怒られようと関係無い。
関係無いのだけど……。
「やり過ぎだ! こん馬鹿タレが!」
警察署に呼び出された父さんが、顔を赤らめて怒声を浴びせて来る。
赤いのは酒のせいかもしれないが、とにかく俺の行いに怒っていた。
「いやでも、あいつら悪人なんだし……」
「悪人相手だろうが、人を殺すような真似すんなって言ってんだよ! 受け身も取れない素人に一本背負ってなあ、下手すりゃ死んでんだぞ!」
それは分かっている。
分かった上で、やった。
女を襲うような奴は、人でなしの獣と変わらないから。
「じゃあ、見捨てろっていうのかよ」
そう言うと、拳骨が飛んで来た。
頭に直撃して、目に星が散ってしまうほど痛い。
「馬鹿タレ! 人殺しになんなって言ってんだよ! 手加減しろ手加減。人殺したら、莉子ちゃんと会えなくなるんだぞ……」
それは困るな。
あと、父さんや母さんに、そんな顔もしてほしくない。
「分かった。次からは気を付けるよ……」
頷くと、父さんは俺の肩に手を置いて、
「まあなんだ。……よく友達を助けたな、よくやった」
「……おう」
褒められると、照れてしまうから困る。
父さんに連れられて警察署から出ると、汐井とその両親が待っていた。
頭を下げられて、娘を助けてくれてありがとうと、感謝の言葉を告げられる。汐井からも泣いて謝られたけれど、正直気まずかった。
助けた時、汐井は放心状態で状況を飲み込めていないようだった。
莉子が寄り添ってくれたから良かったけれど、俺だけだと怖がらせるだけで何も出来なかっただろう。
一応、襲われた経緯も聞いた。
友達と行った夏祭りの帰り道に、男二人に声を掛けられたらしい。怖くて無視して通り過ぎたようだが、それが癪に触ったのか男達から因縁を付けられたそうだ。
その場は、周りの人達に助けられたが、男達は諦めていなかった。
一人が汐井の後を追って、もう一人が逃走用のバイクに乗って来たそうだ。それに気付かなかった汐井は、あの場所で襲われた。
俺達が通り掛かったのは、その直後だったという。
「もし中川君が助けてくれなかったら、私……」
汐井が、また涙を流し始める。
助けられなかったらと考えると、ゾッとする話だ。
あの時、莉子を送って行ってよかった。
汐井はもちろん、莉子も巻き込まれてしまっていたかもしれない。
そうなったら、と考えていると、あることに気付いた。
「……あっ」
「どうかしたのか?」
「いっ、いや、何でもない……」
動揺してしまい、父さんに心配される。
車に乗り込む汐井を見送ると、ペットボトルの水を飲んで、残りを頭に振りかける。
父さんに驚かれるが、嫌な予感を流したくて止められなかった。
それでもこの考えは消えてくれない。
おかげで、血の気が引いて、体が冷えて行く感覚を覚える。
今回はたまたま助けられた。
「じゃあ、前は?」
そう口にすると、吐き気を覚えた。
◯
夏祭りの翌日、莉子から電話が掛かって来た。
昨日、警察署に連行されたのは俺だけだったので、莉子には帰ってもらっていた。
ことの顛末はメッセージで伝えているけれど、もしかしたら直接聞きたいのかもしれない。そう予想して電話に出るのだけど、まるで違っていた。
『昨日の犯人、お母さんが勤めている病院に運ばれたみたいなんだけど、二人とも骨が折れてたみたい……。それで、大輔に投げ飛ばされた人なんだけど……リハビリが必要なくらいダメージ受けてるんだって』
「……そうか、教えてくれてありがとう」
リハビリが必要。
考えられるのは、歩行が困難になるとかそういうのだろうか。
死んでもいいなんて思いながら一本背負いをしたけれど、後遺症があると言われると、やり過ぎたと考えてしまう。
今後は、もう少し手加減をしよう。
『あっ、それはいいんだけど、汐井さん大丈夫だった? メッセージじゃ大丈夫ってあったけど、ああいうのって引き摺るみたいだから……』
「昨日は泣いてだけど、安心してって感じだったから大丈夫じゃないか? 気になるなら、今度会いに行くか?」
『え? 汐井さんの家知ってるの?』
「いや知らん。莉子なら知ってるんじゃないかと思ったんだ」
確か、同じ小学校だったはずだ。
『私も知らないって。汐井さんと同じクラスになったの、今回が初めてだし』
「そうか、なら次会った時に聞くしかないな」
『うん、そうだね』
汐井のメンタルが心配だけど、それは今度会った時に聞いてみよう。
辛そうだったら、可能な限り力になってやろう。
これで会話を終わらせようかと思ったのだけど、一つ気になったことがある。
「莉子さ、もし俺と一緒に夏祭り行かなかったら、昨日どうしてた?」
『昨日? んー……チサ達と一緒に回ってたんじゃないかな。どうして?』
「いや、何でもない。ただ、今度から帰りは送って行くからな」
『心配しすぎだって。私は大丈夫だから、大輔も勉強に集中して』
そうかもしれないけれど、俺にとって一番優先するべきは莉子だ。
どんなことがあっても守りたい。守らないと、俺の存在理由が無くなってしまう。
とはいえ、余りしつこくしても、莉子を不安にさせてしまうだろう。
「……分かった。でも、夜遅くなったら呼んでくれよ」
『心配性だな〜。分かった、その時はお願いします』
「おう」
呆れた声で、仕方ないとお願いされる。
昨日、あんな現場に立ちあったせいで、いつもより過敏になっているのかもしれない。
『あっそうだ。実は、チサに彼氏が出来たんだって』
「おお、そうか。受験前なのに大丈夫なのか?」
『それ言ったら、私達もでしょう?』
それもそうだ。
二島チサは、クラスでも身長が低い方で、小動物を彷彿とさせる可愛いらしい女子だ。
莉子とも仲が良いから、彼氏が出来たというのは素直に応援したい。
『その彼氏がね、実は北方君なの』
「……あの北方が? 本当に?」
疑わしい内容に困惑してしまう。
『本当だって、チサから二人でいる写真送られて来たし』
前は、北方に彼女なんて話聞いたことがなかった。
俺だけはぶられていたなんてないだろうし、もしそうだとしても、噂くらい流れてくるはずだ。
もしかして、隠していたとか?
「なあそれって、内緒にして欲しいって言われなかったか?」
『別に、そんなこと言われてないけど』
「そうか……」
なら、バスケと同じように、少しズレているだけかもしれない。
あとは、「次は関門海峡花火大会だな」と話をして通話を切った。
その日の晩、莉子から『やっぱり秘密にして欲しいんだって』というメッセージが届いていた。




