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門司港タイムトラベル  作者: ハマ
2.中川大輔タイムリープ

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22/22

2-8

 北九州の夏は、それなりにイベントがある。


 四百年の歴史を誇る小倉祇園太鼓。

 二百年以上の歴史がある戸畑祇園山笠。

 福岡県の無形民俗文化財に指定されている黒崎祇園。


 そして何より代表すべきは、【わっしょい百万夏まつり】だろう。

 毎年百五十万人以上が集まるこのお祭りは、北九州最大の祭りと言っても過言ではない。

 

 2025年から暑さの影響を考慮して、開催時期を九月に変更されたけど、その熱気に変わりはなかった。


 まあ、それも来年の話。

 今年までは八月に開催されるので、莉子と一緒に回る約束を取り付けている。


 その後は、八月十三日に行われる関門海峡花火大会に行く予定だ。


 ここまで行くと、結構お金を使う。

 バイトしようにも許してくれないだろうし、そもそも勉強を優先しろという話だ。

 それでも、莉子と一緒に行きたいから、お小遣いをくれと両親にお願いするしかない。


 早速お願いすると、母さんからある注文が入った。


「大輔、お祭り行く前に莉子ちゃん連れて来なさいよ。そしたらお小遣いあげる」


「分かった」


 莉子に連絡して、うちに来てもらうように頼むと、快く了承を得た。


「お邪魔します」とやって来ると、「莉子ちゃんこっち」と母さんに連れて行かれる。


 一体何なんだろうかと待っていると、莉子が浴衣姿で現れた。

 どうやら、母さんが昔着ていた物を着せたかったようだ。


「どうかな?」


「似合ってる、とても綺麗だ」


「うっ……ありがと……」


 率直に答えると、莉子は照れくさそうにする。

 母さんはこれを着せたかったんだな、と思いつつ母さんを見ると、何故か笑いながら背中を叩かれる。


「あんた、お父さんに似て来たね」


「何がだよ?」


「恥ずかしげもなく、褒めるところがだよ」


 母さんには悪いけれど、俺がそうしようと思ったのは、前があるからだ。

 気持ちを伝えないと、莉子が困った時に俺を頼っらないかもしれない。前は、バスケの大会で敗退した悔しさから、莉子の変化に気付いてやれなかった。

 何かしら前兆はあったはずなのに、俺はまるで気付けなかった。


 今回は、絶対に見逃したりはしない。

 そして、莉子に頼ってもらえるように、俺は寄り添っていたい。


 浴衣姿の莉子を連れて家を出る。

 俺も莉子に合わせて甚平を着用している。

 まだまだ蒸し暑くはあるが、夜風が通ると幾分心地良い。


 モノレール乗り場に向かっていると、頭上をモノレールが通り過ぎて行った。


「ああ、行っちゃったね」


「次は二十分後だな」


「そうだね……。ねえ、モノレールってなんか芋虫みたいだよね」


 莉子に言われて、モノレールを見上げてみる。

 小さい頃から見ているから、特に何とも思っていなかったけれど、言われてみたら確かにと納得してしまう。

 でも、俺がイメージしたのは、ちょっと違った。


「芋虫っていうか、モスラに似てないか?」


「モスラ?」


「ゴジラに出て来る怪獣なんだけど、知らないか?」


「知らない」


 そう言いつつ、莉子はスマホで調べている。

 直ぐに画像が出て来たのか、目を細めて俺に見せて来る。


「モスラって、これもう芋虫じゃん。なら芋虫でよくない?」


「大きさが違うだろう? それに、芋虫よりモスラの方が愛嬌がある」


「愛嬌?」


 再びスマホを見る莉子。

 続いて芋虫の画像を出して、見比べる。


「……どっちも変わらない。やっぱり、どっちも芋虫だって」


「フォルムも違うだろう? あの凸凹した体が魅力的じゃないか」


「え……キモい」


「……キモくないし」


 まさか、そんなストレートに言われるとは思わなかった。

 小さい頃は、ゴジラが好きなのもあって、モスラ含めた多くの怪獣を格好良いと思っていた。今もその思いに違いはないのだけど、それは男子だけで、女子には不評なのかもしれない。


 この話題は、余り出さない方がいいのだろう。


 モノレールに乗ると、小倉駅より二つ手前の旦過駅で降りる。

 ここからいろいろと見ながら歩いて行き、パレードが行われている市役所方面を目指す。

 当初は、二日前の花火を見に行こうと計画していたのだけど、花火は関門海峡花火大会でいいだろうとなった。


「人多いね」


「莉子、手を繋ごう」


「……うん」


 逸れないように、莉子と手を繋ぐ。

 道は人で埋め尽くされていて、なかなか前に進めない。この人波に飲まれたら、莉子と逸れてしまいそうで怖い。

 前は、人混みを嫌っていたのと、バスケでメンタルがやられていて参加しなかった。だが今考えると、その選択は間違っていなかったのではないかと思えてしまう。それだけ、この人混みがきつい。


 莉子を背にして、少しずつ進んで行く。

 市役所方面に近付くに連れて、人の流れは足を止め始める。

 車道側には多くの人が並んで、パレードを観覧しており、その迫力に魅入られていた。

 パレードでは多くの人が踊り、山笠が戻って来る。

 それをしばらく見ると、「行こうか」と声を掛けて勝山公園まで移動する。

 ここは、比較的人混みが緩和されていて動きやすい。

 屋台もたくさん並んでいて、「飲み物買おう」とドリンクを購入する。


「何か食べるか?」


「何でもいいよ」


「焼きそばでもいい?」


「うん。あっ、その後でいいから、かき氷が食べたいかな」


「おう」


 焼きそばを購入しようとすると、莉子がお金を出して来るので、それは大丈夫だと引っ込めてもらう。


 今回、母さんから結構な額のお小遣いを貰っている。これは、莉子に使えという意味だろう。もし、自分の為だけに使えば、帰ってから怒られると思う。ならば、遠慮せずに使っておいた方が無難だ。


 ちょうどベンチが空いたので、そこで一つの焼きそばを二人で分けると、次はかき氷を購入する。


 かき氷を削りながら食べていると、莉子が話し始めた。


「十三日に関門海峡花火大会行くじゃない。実は、お祖母ちゃん家が門司港にあるんだけど、そこで見ない?」


「俺も行っていいのか? 親父さんとおばさんは行かないのか?」


「お父さんとお母さんは仕事だから……。お祖母ちゃんに相談したら、大輔も来ていいって」


「そうか。じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」


 莉子の両親は共働きで働いており、夜遅くにしか帰って来ない。

 親父さんが運送業で、お母さんが看護師だった。どちらも給与は良いはずなのだけれど、莉子が今住んでいるのは……。


 ふと思い出す。

 最後に莉子の親父さんに会ったら時、俺に謝っていた。

 どうして謝ったんだろうか?

  親父さんは、何か引け目に思うことでもあったのだろうか?

 それは俺と同じように、莉子の変化に気付かなかったからと考えるのだけれど、どうにも違う気がする。


「大輔、どうしたの?」


「あっ、いや、莉子、何か困っていることってないよな?」


「別に無いけど」


「そっか……。何かあったら直ぐに言ってくれ、俺に出来ることなら何でもするからさ」


「うん。前にも言ってたよね、それ。じゃあさ、大輔が抱えているのも教えてよ。何かあるよね、私に秘密にしていること」


 気付かれていた。

 咄嗟に言葉が出ずに、莉子を見てしまう。

 微笑んでいる莉子は綺麗だなと場違いなことを思いつつ、どうしてバレたのかと困惑する。


「どうして……」


「そりゃ分かるよ、最近の大輔おかしいもん」


「……」


 言うべきか迷う。

 莉子の身に自殺を選択するほどの何かが起きると説明して、信じてくれるだろうか? 単に不安にさせてしまうだけじゃないだろうか?

 そう迷っていると、莉子は前を向いた。


「まっ、待ってくれって言われたから待つけどさ、私を不安にさせないでよね」


「……悪い、終わったら全部話すから」


「うん、楽しみにしてる」


 楽しみにする内容じゃないんだけどな。


 そんなことを思いつつ、祭りの夜を二人で眺めていた。



   ◯



 祭りが終わると、来た時と同じようにモノレールに乗って帰宅する。

 家で浴衣から私服に着替えると、莉子を送って行く。

 父さんか母さんに車で送ってもらえたら良かったのだけど、二人とも酒を飲んでいて運転出来なくなっていた。


 黙ってバイクを借りたい所だけど、それは危険だと自重する。

 親に怒られるより、警察沙汰になる方が怖い。成績に影響して、高校に入学出来なくなったら目も当てられない。


「一人でも大丈夫だけど」


「それが一番危ないんだ。何かあったら、取り返しが付かないんだぞ」


「心配症だね」


「そりゃ莉子の彼氏だからな」


 だから仕方ない。

 そんな会話をしつつ、二人で夜道を歩く。


 小倉の喧騒が嘘のように、静かな道が続いている。

 街灯はポツポツとあるのだけれど、灯りが届かずに暗い箇所がある。昼間なら平気な道も、夜になると不気味に感じてしまう。


 何かが出て来そう。そう思うだけで、恐怖は増してしまう。


「この道ね、去年幽霊が出たって話題になってたんだ」


「へー、初めて聞いたな。どんな幽霊?」


「首の無い女の人の幽霊。血だらけで裸足で歩いてたんだって」


「怖っ、そんなのいたら走って逃げ出すわ」


「いやいや、そこは私を守ってよ。彼氏なんでしょ?」


「莉子を抱えて逃げるから大丈夫だ。幽霊と戦うより、よっぽど現実的だろう?」


「あはは、そうだね……待って」


 急に止める莉子。

 もしや、俺を驚かせるつもりなのかと勘繰るが、何か様子がおかしい。


「……何か聞こえない?」


 そう言われて耳を澄ませると、何か呻くような声が聞こえた。それは小さな公園からで、前には不自然にバイクが止まっていた。

 公園の茂みの方から、助けを求める声がする。


 体が勝手に動いていた。

 声がする方に走り出すと、草むらに飛び込む。


 そこにいたのは三人。

 男が二人と、浴衣姿の女性が一人。

 その女性が、男達に組み伏せられていた。


「何やってんだ‼︎」


「やべっ⁉︎」


 男が声を上げると同時に、一人の顔面に拳を叩き込む。

 女性を組み伏せている男の顔面を蹴り上げて、女性から引き剥がす。

 最初に殴った奴が抵抗して来るが、服を掴んで一本背負で地面に叩き付けた。


 普通に考えたら危険な行為だが、こんな奴ら死んでも構わないだろう。


「警察に連絡してくれ!」


 莉子に向かって告げると、逃げようとする男を捕まえて地面に組み伏せる。俺の体重がのしかかり、男は苦しそうに呻く。


 俺の身体は頭をぶつけたりと何かと不便だが、こんな時は、この大きな体躯で良かったと思う。

 技術はなくても、このパワーだけで大抵の奴を倒せるのだから。


 暴漢二人を無力化すると、改めて女性を見る。


 大丈夫ですか? そう声を掛けようと思ったのだけれど、出て来たのは別の言葉だった。


「……汐井?」


 泣き顔で分かりにくいが、そこにいたのは同級生の汐井旭だった。


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