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門司港タイムトラベル  作者: ハマ
2.中川大輔タイムリープ

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18/38

2-4

「大輔! 大輔大丈夫か⁉︎」


 心配する声に呼ばれて、ハッとする。

 目を開けると、高く広い天井が見えた。

 ここはどこだと視線を巡らせると、懐かしい顔が並んでいた。

 それは、中学時代のバスケ部の仲間達。顧問の先生の顔もあって、何が起こったのか分からず混乱する。


「なっ、なんだ……?」


「覚えてないのか? お前、相手選手と当たって倒れたんだよ」


「相手? 俺、刺されて……」


「おい救護班呼んで来てくれ! 頭を強く打ったみたいだ!」


 顧問の先生がそう告げると、一人の仲間が走って行く。


 頭が混乱して、どういう状況なのか理解が追い付かない。


 確か俺は、関門トンネルで襲われてナイフで刺されたはずだ。


 そうだ、傷は?


 そう思い腰辺りを触ってみるが、何も無い。ナイフも刺さっていなければ、痛みも無い。


「……夢?」


「おい、大輔動くな、安静にしてろ!」


 顧問に心配されるが、それを振り切って起き上がり辺りを見回す。


「ここは……総合体育館?」


 また、懐かしいという思いが込み上げて来る。

 市立総合体育館に来るのは、中学三年でバスケの大会で利用して以来だ。


 今度は観客席を見てみると、心配そうに俺を見る父さんと母さんの姿がある。そして、その隣には莉子の姿があった。


「莉子……莉子⁉︎」


 思わず大きな声で呼んでしまう。

 そのおかげで、俺も莉子も注目されてしまい、莉子は顔を赤くして伏せてしまった。


「……おいおい、いくら彼女が見に来てるからって、そんな興奮しなくていいだろう?」


 そうツッコミが入り、仲間達から笑われてしまう。


 でも、俺はそれどころじゃなかった。


 莉子がいる。

 あの頃の、当時のままの姿で、莉子があそこに座っている。


 我慢なんて出来なかった。


 俺は勢いよく立ち上がり、走り出そうとする。

 周囲が止めようとする中、視界が歪んで倒れてしまった。


「あっ、おい⁉︎ 救護班早く来てくれ‼︎」


「たっ、立てん……」


「こりゃ三半規管やられてるな、気分悪くないか? とにかく安静にしてろ、救護班も来たからな」


 何が起こったのかも分からず、俺はタンカーに乗せられて移動させられてしまう。


 必死に頭を巡らせる。

 何が起こっているのか、必死に考える。

 これが夢なのか、今まで見ていたのが夢なのか、それとも本当に……。


 医務室に父さんが来て、大丈夫かと心配されるが、大丈夫なはずなかった。


「ごめん、俺って何歳だっけ?」


「はあ? 十五だろう、そんなに強く打ったのか?」


 心配されるけれど、どれだけの強さで頭を打ったのかなんて分からない。

 それでも、これで分かった。


「莉子って、まだいる?」


「廊下で母さんと待ってるよ、俺より彼女に会いたいのか?」


「うん、会いたい」


「……分かった。呼んで来るよ」


 呆れた顔をした父さんは、「莉子ちゃん、大輔が会いたいんだって!」と大きめの声で言っていた。

 絶対わざとだろうな、父さんはそういう奴だ。


 医務室に入って来たのは、私服姿の莉子。

 メガネを掛けていて、顔を真っ赤にしている。


「……大輔、大丈夫?」


「……」


「大輔?」


「あっ、ああ……大丈夫だ」


 つい見惚れてしまって、返答がおかしくなってしまった。

 それでも安堵したのか、ほっとした表情をして俺に近付いて来る。そして、俺の腹にパンチして来る。


「うぐっ⁉︎」


「馬鹿! あんな所で名前呼んだら注目されるでしょう! 私がどんなに恥ずかしい思いしたか分かる⁉︎ みんなから笑われてたんだよ⁉︎」


 よほど恥ずかしかったのか、更に顔を赤らめて手で顔を覆ってしまう。


 きっと俺は悪いことをした。

 それは分かっているんだけど、どうしても我慢出来なかった。


 俺は莉子の手を掴んで、抱き寄せる。


「ちょっ⁉︎ 大輔⁉︎」


「ごめん、今は許してくれ……」


 抵抗する莉子だけど、謝ると受け入れてくれた。

 今はただ、この温もりを感じていたい。

 本当にここにいるんだと、確かめたい。


「……大輔、泣いてるの?」


「泣いてない……。でも、今はごめん」


 もし、彼女が言っていたように過去に戻れたのなら、俺は何としても莉子を守り抜く。


 たとえ、どんなに困難が待ち構えていたとしても、どんなに危険な行為だったとしても、たとえ俺の手が汚れようとも、絶対に守り抜くと誓う。


 これこそが、俺がここにいる理由なのだから。




   ◯




 しばらく抱き締めていると、莉子からいい加減離せと叩かれた。


 二人きりなのだから別にいいだろう、と不満に思っていたら、扉の方にバスケ部の奴らが立っていた。


 それも、怒りに震えて。


「おい大輔ぇ、俺ら頑張ってんのに、何いちゃついてんの?」

「勝ったって報告してやろうって来てやったのに、テメー何やってんの?」


「……ごめん」


 こればかりは、何も言い返せなかった。


 バスケ部の奴らに一通り叩かれて解放されると、試合の状況を聞いた。

 試合内容は、記憶にある物とほとんど一致している。

 違っているのは、俺が退場したかどうか。

 前の時は、相手の選手との接触は確かにあったけれど、俺は平気で、相手側が転んで足を捻って退場しただけだった。


 そこだけが、決定的に違っていた。


「なあ、今日って何日?」


「はあ? 七月××日だろう? 午後もあるんだからしっかりしろよ」


 俺が持っていた写真の前日だった。

 これは、誤差の範囲なのだろうか?

 彼女に聞いてみないと分からないな、戻れたら聞きに行こう。


 莉子に視線を送ると、「なに?」と不満そうにしている。


 もし何かあるとすれば、二学期になってから。そう予想していたが、実際の所は分からない。もし一学期から何かされているとしたら、夏休み期間中も油断は出来ないだろう。


「莉子、一学期から今日まで、何か変化は無かったか?」


「あった」


「あったのか⁉︎ 何されたんだ⁉︎」


 そう言うと、莉子の指が俺を向く。


「今の大輔が変なことになってる」


「…………」


 何も言えなかった。

 確かに、当時の俺からしたら考えられないような行動だ。

 言っては何だが、俺は莉子にべったりとするようなタイプではない。するにしても二人きりの時で、そんな時でも抱き締めるような真似はしなかった。


 無言の俺を見ていた部活の仲間が、ため息をついて告げる。


「大輔、今から病院行って検査して来い。頭打って、おかしくなってるんだろう」


「おかしくなっとらんわ。でも、病院には行っておくか……」


 他校の試合が終われば、午後にもう一試合あるのだけれど、顧問も倒れた奴を試合に出したりはしないだろう。

 なら、明日に備えて準備しておいた方がいい。


 これは中学最後の大会なんだ、悔いの無いように全力を出そう。


 その後は、莉子を守ることに集中する。


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