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「大輔! 大輔大丈夫か⁉︎」
心配する声に呼ばれて、ハッとする。
目を開けると、高く広い天井が見えた。
ここはどこだと視線を巡らせると、懐かしい顔が並んでいた。
それは、中学時代のバスケ部の仲間達。顧問の先生の顔もあって、何が起こったのか分からず混乱する。
「なっ、なんだ……?」
「覚えてないのか? お前、相手選手と当たって倒れたんだよ」
「相手? 俺、刺されて……」
「おい救護班呼んで来てくれ! 頭を強く打ったみたいだ!」
顧問の先生がそう告げると、一人の仲間が走って行く。
頭が混乱して、どういう状況なのか理解が追い付かない。
確か俺は、関門トンネルで襲われてナイフで刺されたはずだ。
そうだ、傷は?
そう思い腰辺りを触ってみるが、何も無い。ナイフも刺さっていなければ、痛みも無い。
「……夢?」
「おい、大輔動くな、安静にしてろ!」
顧問に心配されるが、それを振り切って起き上がり辺りを見回す。
「ここは……総合体育館?」
また、懐かしいという思いが込み上げて来る。
市立総合体育館に来るのは、中学三年でバスケの大会で利用して以来だ。
今度は観客席を見てみると、心配そうに俺を見る父さんと母さんの姿がある。そして、その隣には莉子の姿があった。
「莉子……莉子⁉︎」
思わず大きな声で呼んでしまう。
そのおかげで、俺も莉子も注目されてしまい、莉子は顔を赤くして伏せてしまった。
「……おいおい、いくら彼女が見に来てるからって、そんな興奮しなくていいだろう?」
そうツッコミが入り、仲間達から笑われてしまう。
でも、俺はそれどころじゃなかった。
莉子がいる。
あの頃の、当時のままの姿で、莉子があそこに座っている。
我慢なんて出来なかった。
俺は勢いよく立ち上がり、走り出そうとする。
周囲が止めようとする中、視界が歪んで倒れてしまった。
「あっ、おい⁉︎ 救護班早く来てくれ‼︎」
「たっ、立てん……」
「こりゃ三半規管やられてるな、気分悪くないか? とにかく安静にしてろ、救護班も来たからな」
何が起こったのかも分からず、俺はタンカーに乗せられて移動させられてしまう。
必死に頭を巡らせる。
何が起こっているのか、必死に考える。
これが夢なのか、今まで見ていたのが夢なのか、それとも本当に……。
医務室に父さんが来て、大丈夫かと心配されるが、大丈夫なはずなかった。
「ごめん、俺って何歳だっけ?」
「はあ? 十五だろう、そんなに強く打ったのか?」
心配されるけれど、どれだけの強さで頭を打ったのかなんて分からない。
それでも、これで分かった。
「莉子って、まだいる?」
「廊下で母さんと待ってるよ、俺より彼女に会いたいのか?」
「うん、会いたい」
「……分かった。呼んで来るよ」
呆れた顔をした父さんは、「莉子ちゃん、大輔が会いたいんだって!」と大きめの声で言っていた。
絶対わざとだろうな、父さんはそういう奴だ。
医務室に入って来たのは、私服姿の莉子。
メガネを掛けていて、顔を真っ赤にしている。
「……大輔、大丈夫?」
「……」
「大輔?」
「あっ、ああ……大丈夫だ」
つい見惚れてしまって、返答がおかしくなってしまった。
それでも安堵したのか、ほっとした表情をして俺に近付いて来る。そして、俺の腹にパンチして来る。
「うぐっ⁉︎」
「馬鹿! あんな所で名前呼んだら注目されるでしょう! 私がどんなに恥ずかしい思いしたか分かる⁉︎ みんなから笑われてたんだよ⁉︎」
よほど恥ずかしかったのか、更に顔を赤らめて手で顔を覆ってしまう。
きっと俺は悪いことをした。
それは分かっているんだけど、どうしても我慢出来なかった。
俺は莉子の手を掴んで、抱き寄せる。
「ちょっ⁉︎ 大輔⁉︎」
「ごめん、今は許してくれ……」
抵抗する莉子だけど、謝ると受け入れてくれた。
今はただ、この温もりを感じていたい。
本当にここにいるんだと、確かめたい。
「……大輔、泣いてるの?」
「泣いてない……。でも、今はごめん」
もし、彼女が言っていたように過去に戻れたのなら、俺は何としても莉子を守り抜く。
たとえ、どんなに困難が待ち構えていたとしても、どんなに危険な行為だったとしても、たとえ俺の手が汚れようとも、絶対に守り抜くと誓う。
これこそが、俺がここにいる理由なのだから。
◯
しばらく抱き締めていると、莉子からいい加減離せと叩かれた。
二人きりなのだから別にいいだろう、と不満に思っていたら、扉の方にバスケ部の奴らが立っていた。
それも、怒りに震えて。
「おい大輔ぇ、俺ら頑張ってんのに、何いちゃついてんの?」
「勝ったって報告してやろうって来てやったのに、テメー何やってんの?」
「……ごめん」
こればかりは、何も言い返せなかった。
バスケ部の奴らに一通り叩かれて解放されると、試合の状況を聞いた。
試合内容は、記憶にある物とほとんど一致している。
違っているのは、俺が退場したかどうか。
前の時は、相手の選手との接触は確かにあったけれど、俺は平気で、相手側が転んで足を捻って退場しただけだった。
そこだけが、決定的に違っていた。
「なあ、今日って何日?」
「はあ? 七月××日だろう? 午後もあるんだからしっかりしろよ」
俺が持っていた写真の前日だった。
これは、誤差の範囲なのだろうか?
彼女に聞いてみないと分からないな、戻れたら聞きに行こう。
莉子に視線を送ると、「なに?」と不満そうにしている。
もし何かあるとすれば、二学期になってから。そう予想していたが、実際の所は分からない。もし一学期から何かされているとしたら、夏休み期間中も油断は出来ないだろう。
「莉子、一学期から今日まで、何か変化は無かったか?」
「あった」
「あったのか⁉︎ 何されたんだ⁉︎」
そう言うと、莉子の指が俺を向く。
「今の大輔が変なことになってる」
「…………」
何も言えなかった。
確かに、当時の俺からしたら考えられないような行動だ。
言っては何だが、俺は莉子にべったりとするようなタイプではない。するにしても二人きりの時で、そんな時でも抱き締めるような真似はしなかった。
無言の俺を見ていた部活の仲間が、ため息をついて告げる。
「大輔、今から病院行って検査して来い。頭打って、おかしくなってるんだろう」
「おかしくなっとらんわ。でも、病院には行っておくか……」
他校の試合が終われば、午後にもう一試合あるのだけれど、顧問も倒れた奴を試合に出したりはしないだろう。
なら、明日に備えて準備しておいた方がいい。
これは中学最後の大会なんだ、悔いの無いように全力を出そう。
その後は、莉子を守ることに集中する。




