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門司港タイムトラベル  作者: ハマ
2.中川大輔タイムリープ

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17/38

2-3

 荒唐無稽な話を聞いて、俺の中に希望が芽生えてしまう。


 過去に戻れるはずないのに、もしかしてと考えてしまっている。


 莉子は亡くなっていて、両親も後を追ってしまった。

 報復したとはいえ、莉子を暴行した奴らは今もまだ生きてどこかにいる。そして、指示した奴は、今ものうのうと生きている。


 許せない。


 決して許してはいけない。


 そして何より、莉子を助けられなかった俺が最も許せない。


「もし……もし過去に戻れたら? 莉子は救えるのか?」


 もしかしたらという淡い希望を見てしまい、スマホで満月の日を調べてしまう。


 次の満月まで、あと二十五日。

 その時間が、とてつもなく長く感じてしまう。


 変化の無い日常が、期待する日々に変わる。

 空虚な日常に灯がともる。


 どんなに口では言っていても、心は期待してしまっている。

 これは、本当に過去に戻れるかどうかは問題じゃない。そう思わせられた時点で、俺は変化していた。


 スマホに残っている写真をプリントアウトする。

 満月の日に、どう行動するのか計画を立てて行く。


 今のうちに調べておかないといけないことはないか?

 過去に戻ったら、何をするべきか?


 それらを一つずつ考えて、莉子を救う手段を考える。


 そんな日々を過ごしていると、隣のクラスで変化があったようだ。


 クラスの中心人物が変わった。

 人を騙して揶揄うような奴らだと知られて、学校中から軽蔑の眼差しを向けられるようになったのだ。一部の生徒は、この状況に耐えられなくなり、学校に来ていないらしい。

 代わりに中心に立ったのは、俺に関門トンネルのことを教えてくれた女子だった。


 本人は気にもしていないようだが、美しい彼女は無条件に人を惹きつける魅力を発していた。


「中川君、どうするか決めた?」


 あの日から、たまに彼女から話し掛けられる。

 頷いて答えると、「そっか、頑張ってね」と言って去って行く。


 他にも二、三言会話をするだけなのだが、新しく変な噂が広まってしまう。


 俺が彼女と付き合っている。

 馬鹿みたいな話だが、名前も覚えていないような人物と恋人関係にされてしまった。


「俺に話し掛けない方がいいぞ」


「あはは、噂なんて気にするだけ損だよ」


「そうかもしれないが……」


 俺は慣れているが、お前は違うだろう?

 そう伝えようとしたのだけれど、彼女はどこまでも強かった。


「私は、周りの目ばかり気にして失敗したんだ。だから、もう気にしない。するだけ無駄だって分かったからね」


「……そうか」


「うん、そうだよ」


 あっけらかんとしている様子に、こいつは大物になるかもしれないと思った。

 だからか、名前を知りたいと思ってしまった。


「なあ、名前教えてくれないか?」


 そう言うと、彼女は驚いた顔をする。


「……知らないで、これまで話ししてたの?」


「悪い、高校入ってから誰の名前も覚えてないんだ。みんな俺を避けるからさ」


「……そっか、それなら仕方ないね。私は黒崎香織、よろしくね中川君」


「よろしく、黒崎」


 握手を交わして、高校に入って初めて友人が出来た。




   ◯




 時間が過ぎて行く。

 黒崎と友人になっても、時間の流れはとても遅く感じてしまう。

 バイクに乗っても、柔道を再開させて身体を疲れさせても、それは変わらなかった。


 それでも、満月の日はやって来る。


「明日、黒崎に言われたことを実行するつもりだ」


「うん、彼女助けられるといいね」


「必ず助ける。もし、本当に戻れるなら、俺は命に変えてでも……」


「死んじゃダメだよ。そうなったら、次は彼女が悲しむからさ」


「……そうだな。今度は、二人で黒崎に会いに行くようにするよ。莉子は、黒崎と気が合いそうな気がするんだ」


「そっか、楽しみにしてる」


 俺は黒崎を忘れない。

 たとえどんなことがあったとしても、高校で出来た唯一の友人を忘れるつもりはなかった。



 その日はとても晴れていた。


 ツーリング日和というのもあり、親が仕事に行ったタイミングで戻ってバイクで出発した。

 父さんに許可を取らずに乗っているので、帰って来たら怒られるだろうな。


 それでも、今は必要なんだ。


 バイクを走らせて、関門トンネルに向かう。

 国道199号線を走らせ、心地いい風を感じる。このまま山口に入り角島まで行けたら、さぞ気持ちいいだろう。

 海を見ながら走り、角島大橋を渡る。距離もそんなに離れていなくて、一時間半もあれば到着する。


「これが、莉子と一緒だったら、もっと楽しいんだろうな……」


 一人も悪くないけれど、二人だったらその楽しさは倍増する。


 早く会いたい。


 焦れる思いを抑えるように、アクセルを回す。

 

 料金所で金を払ってトンネルを走行、約六分という時間を掛けて下関市に到着する。


「関門トンネルの中央を二十時に通過。電子機器の持ち込みは不可で、歩いて渡る必要がある……どうやるんだよ……」


 中央までは三分だろうか?

 でも渋滞していたら、どうしたらいいんだ?

 スマホ無し、時計も無しでどうやったら二十時に通過出来る?


 どうにか方法はないかと考えるけれど、良い案が思い浮かばない。


 黒崎はこれを、どうやってやったんだ?

 歩いて渡るのなんて不可能だ。

 左側に避難用通路はあっても、車両を停めておくスペースが一切無い。

 もしやるなら、他の車両の通行を妨害する必要がある。


 そんなことやれるのか?


「……やるんだ。莉子を救う為だ。捕まるくらい大したことじゃない!」


 覚悟を決める。

 巻き込んでしまう人達には申し訳ないが、数分の時間を俺に譲って欲しい。

 気に入らなければ殴ってくれていい。

 その後で、警察に突き出してくれても構わない。


 だから、俺の我儘に付き合ってくれ。




 二十時になるまでの時間、俺は門司を走り回った。

 門司港レトロなんかには寄ることはあっても、他に行くことがなかったから、いろんな物が見れた。


 駅近くの鉄道記念館。そこから少し行けば、関門海峡ミュージアムもある。

 一人で中に入るのは勇気が必要で、俺は行けなかったけれど、次は二人で行ってみたい。


 燃料も少なくなってきたので、ガソリンスタンドに寄って給油する。

 給油中、ヘルメットを取っていたからか視線を感じる。

 これは今に始まったことではなく、この身長もあり、注目されることがある。


 高身長の人が珍しくない世の中でも、百九十センチ以上となると多少目立ってしまう。


 だから気にしていなかったのだが、この時もっと注意しておくべきだった。


 同じようにバイクに乗っている奴らの中に、俺に恨みを持った奴がいることに気付けなかった。


 コンビニでパンとコーヒーを買って、和布刈公園で残りの時間を潰す。

 門司港と関門海峡の景色を見て、内ポケットに入れた莉子が写った写真を取り出す。

 それは中学三年夏、バスケの大会の時に二人で撮った写真。


「懐かしいな……」


 ポツリと言葉が漏れる。


 この時は、まだ莉子に変化は無かったはずだ。

 暴行を受けた映像では、長袖を着用していた。少なくとも、夏ではない。

 もし何かあるとしたら、二学期から。


「……行くか」


 時間まであと三十分。

 和布刈公園を降りて直ぐに、和布刈神社がある。そこでお参りして、関門トンネルに向かおう。


 そうしたかったのだけれど、ここで一つ問題が発覚した。


「……人道?」


 和布刈神社に行く途中で、関門トンネル人道なる物を発見してしまった。


 バイクを停車させてスマホで調べると、関門トンネルには車両専用と歩行者専用の二つがあると発覚した。


 これは、どっちだろうか?

 黒崎に聞きたい所だが、連絡先までは聞いていなかった。


「どうするかな……」


 一旦、和布刈神社に行きお参りする。


 どうか、莉子に会わせて下さい。お願いですから、あの日に、莉子が生きているあの日に戻して下さい。


 そうお参りするのだけど、黒崎が言っていたような変化は起こらなかった。


「過去に戻れるなんて、ある訳ないよな……」


 元々荒唐無稽な話しだった。

 そんな、SF映画のようなことが、実際に起こるはずがない。


 でも、黒崎が嘘をついたとも思えない。

 あいつは本当に戻れて、俺にはその資格が無かったのだろう。


「……帰ろう」


 スマホには、帰宅したのか父さんから着信が入っていた。


 電話をすると、勝手にバイクに乗ったことを怒っており、もの凄く怒鳴られた。ごめんごめんと適当に謝って、通話を切る。


 バイクに跨り、エンジンを吹かして発進する。


 何やってんだろうな……。


 期待していた分、落胆が大きかった。


 頭が考えるのを止めていたせいで、異変に気付かなかった。


 信号で止まっていると、前方には五台のバイクが走っていた。そいつらは暴走族と呼ばれる集団で、騒音を撒き散らすダサい奴らだった。

 いつもなら、そのまま走り去って行くのだけど、今回違っていた。


 そいつらの標的は俺だった。


 すれ違おうとすると、並列されて囲まれる。

 その中に見覚えのある顔があって、つい笑いそうになった。


「中川ーっ‼︎」


 五台のバイクはそれぞれ二人乗車していて、後方に座っている一人が俺の名前を叫んだ。

 手には警棒が握られていて、俺を狙って来る。


 そいつは、中学の頃に病院送りにした奴で、よほど強い恨みを持っているのか目が血走っている。


「……逃げるか」


 速度を落として、やり過ごすとUターンして逃げる。


 少し行った先に警察署があったのだけど、父さんのバイクを許可も無く使っている上、傷まで付けてしまったら殺されてしまう。


 車線を変えて、再び関門トンネルを目指す。


 流石に、料金を払ってまでは追っては来ないだろう。


 そう思っていたのだが、甘かった。

 料金所を無視して追って来たのだ。

 そもそもゲートバーも無いので、侵入を防ぐことも出来ない。カメラは設置されているが、それを気にするような奴らなら、暴走族なんてやってないだろう。


 車を挟んで走っているから、早々追い付かれないと思っていたのだが、この時間帯は思っていたより車両が少ない。


 対向車線に飛び出して、奴らは迫って来る。


「ちっ⁉︎」


 舌打ちをしても状況は変わらない。

 奴らに追い付かれて、警棒の一撃を喰らってしまう。


「ぐっ⁉︎」


 痛みは大したことない。だが、打たれた衝撃でバイクの操作をミスしてしまった。

 バイクから放り出されて地面を転がる。

 全身に衝撃と痛みが走り、呼吸をする余裕も無い。


 それでも生きているのは、速度を落としていたのと、この頑丈な体のおかげだろう。それに、後続車が危険を察知して止まってくれたのもある。

 そうじゃなかったら、大型トラックに轢かれて死んでいた。


 軽トラくらいなら耐えられる自信はあるが、流石に大型トラックには耐えられる気がしない。


 それはまあいいのだが、問題は他にある。


「……くそっ、父さんのバイクに傷が入っただろうが‼︎」


 この傷は、謝って許されるレベルじゃない。

 キッチリ弁償させないと、俺が父さんに殺される。


 それに、着ているジャケットはボロボロになっていて、ポケットに入れていたスマホが壊れてしまっている。マジで最悪だ。


 奴らはUターンして、俺を襲おうとやって来る。


 先頭の車両は鉄バッドを持っており、俺を殴る体勢に入っていた。

 俺はあえて前に出て、鉄バッドを持つ腕を掴む。そして、力任せに引き摺り下ろすと、バイクは衝撃でバランスを崩して転倒してしまう。運転手はバイクの下敷きになったせいか、動かなくなった。


「ちょっ待っ⁉︎」


 バッドを持った奴を投げ飛ばして、顔面を踏み付けて黙らせる。

 更にバッドを奪うと、俺を最初に襲ったあいつ目掛けて投擲。

 残念ながら本人には当たらなかったが、バイクの車輪に巻き込まれ動きが鈍った。

 そこに走っていき、ドロップキックでバイクごと蹴り倒す。


 倒れた運転手は無視して、未だに警棒を持っている奴を捕まえて立たせる。


「よう、久しぶりだな」


「くっ⁉︎ 中川ぁー‼︎‼︎」


 怒りに満ちた目を向けて来る。

 それだけのことをした自覚はあるが、俺もお前に対する怒りは少しも萎んでない。


 警棒を奪い取ると、壁に叩き付ける。

 この様子を見ていた残りの奴らに目を向けると、怯んで逃げてしまった。せめて、倒れている奴くらい回収しろよと言いたくなる。

 見捨てるということは、こいつらの繋がりも所詮こんな物なのだろう。


 視線を戻すと、恨みが込められた目と合う。


「お前のせいで俺達は滅茶苦茶だ! あの日、テメーがボコした奴らがどうなったのか知ってるか⁉︎」


「知るか。いきなり襲って来やがって、バイクに傷が入っただろうが!」


 お前らのその後なんて興味は無い。

 引き篭もっていようが、どこに逃げようが、莉子を暴行した奴らがどうなろと知ったことじゃない。


 可能な限り、地獄を味わって欲しい。


 ただそれだけだ。


 俺の気も知らないで、こいつは他の奴らがどうなったかを語りだす。


 結論から言うと、こいつ以外は人前に出るのを極端に恐れるようになった。外に出ると、俺に会うのではないかと怯えているそうだ。県外に逃げた奴も、結局は北九州に戻って来て、同じようになっているという。


「……それがどうした。お前らが莉子にやったこと分かってんのか? あれが原因で自殺したんだぞ! 楽しむことも苦しむことも出来ないんだよ!」


 頭の中にあの映像が流れる。

 腕に力が入りこいつを押し潰しそうになる。

 どうしようもないほどの怒りが湧いて、こいつらを殺したくなる。


「言え! お前らにやらせたのは誰だ! 莉子にあんなっ⁉︎」


 衝撃と共に、腰に熱が宿る。

 振り返ると、そこには倒れていたはずの奴が俺に寄り掛かっていた。


「なんだ……?」


 金髪の頭が、そっと離れて行く。


 そいつは、顔を酷く歪めて俺を見ている。

 こいつらの中に知り合いなんて居ないのだけど、その顔をどこかで見たような気がした。


「くそっ……」


 腰に見慣れない突起物がある。

 熱の正体はこれで、ナイフで深く刺されていた。


「はっ、ははっ! ざまあねっ⁉︎」


 笑う奴を殴り倒して黙らせるが、その衝撃で激しい痛みが走る。

 肺から血が迫り上がって来て、口から漏れる。


「これ、まずいな……」


 視界が歪む。

 暗いはずなのに、辺りが青白く見える。

 あの世が近くなっているのかと思うと、恐ろしくて堪らない。


 俺を刺した奴がまだいるはずだが、その姿が見えない。恐ろしくなって逃げたのだろうか?


「まあ、いいや。とにかく、病院に……」


 バイクに乗って行こうと視線を巡らせると、懐かしい人物が立っていた。


「……莉子?」


 記憶にある懐かしい姿。

 会いたくて会いたくて堪らなかった大切な人が、そこにいた。


 気付けば、フラフラと歩いて行っていた。


 もう一度、その声が聞きたい。

 もう一度、君に触れて温もりを感じたい。

 もう一度、莉子と同じ時間を生きたい。


 その思いだけで、俺はここに来た。


 ああそうか、黒崎が言ってたのって、こういうことなのかな……。


 そんなことを思いながら、俺は意識を失った。

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