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××高校に入学出来たのは、ほとんど奇跡のようなものだった。
進学校で競争率も高く、本当なら俺みたいなのが入学出来るはずがなかった。
莉子が目指していた高校だったので、入試をダメ元で受けてみたら、莉子が予想していた問題が多く出題されており解くことが出来た。
高校生になっても、バスケ部に入部した。
本当は別の部活に入るつもりだったけれど、部活の顧問から声を掛けられて、まあいいかと軽い気持ちで入った。
部活では注目された。
特待生でもないのに、彼らを凌ぐ実力で活躍すればそうなるだろう。
「お前、××中の中川だろう? 何で大濠行かなかったんだ?」
バスケ部の特待生から聞かれた。
福岡にはバスケの強豪校がある。
そこから誘いは来ていたけれど、俺は行かなかった。それは、彼女がいるからとかではなくて、単純に実力が足りていないと感じたからだ。
俺は体格に恵まれているが、特別にバスケが上手いわけじゃない。他の人に比べたら拙い技術を、身長とパワーでカバーしているようなものだった。
強豪校でも、俺みたいな体格の奴は珍しいだろう。
でも、いないわけじゃない。
そいつらは、才能もあって努力も怠らない。
体格だけじゃ通用しないことくらい、俺でも分かる。
だから俺は、地元に残ることを選んだ。
部活でそこそこ活躍して、学校生活を送る。
こんな日々が続くのだろう。
そう思っていたが、世間は許してくれないらしい。
中学で数人を病院送りにした話が回り、俺の周りから人が居なくなった。
部活でも危険人物のように扱われ始めて、居心地が悪くて辞めてしまう。
自業自得なので納得しているが、部活を辞めると途端に暇になる。
だからという訳ではないのだけれど、十六歳の誕生日を迎えると直ぐにバイクの免許を取りに行った。
悪ブルつもりは無く、ただ以前に、莉子とツーリングしたいなという話をしていたから。
それ以外の理由は、何も無かった。
学校に行って、休みの日は親のバイクを借りる。
いろんな所を見て周り、一人だとこんなにつまらないんだなと虚しくなる。
そんな無意な日々を過ごして、二年になる。
勉強は何とか付いていけており、それなりにやっていた。
「大輔、莉子ちゃんのお母さんが亡くなったんだって」
二年になって直ぐに、母さんから聞かされた。
何でも、莉子と同じように自ら命を絶ったらしい。
葬儀に行くと、莉子の親父さんがやつれた顔で座っていた。
久しぶりに見た親父さんは、まだ四十代のはずだけど、白髪だらけで六十代のように見えた。
自殺の原因は、遺書にただ一言書き記されていたらしい。
【莉子の所に行きます】
やるせない気持ちが溢れて来る。
莉子はそんなこと望んでいないはずなのに、母親がその選択をしてしまった。それがどうしようもなく、悔しかった。
葬儀が終わり、葬儀場を後にしようとすると、親父さんから呼び止められた。
「大輔君、今日は来てくれてありがとう。……すまない。君にはもっと早く謝るべきだったのに、ここまで遅れてしまった。すまない、本当にすまない……」
俺は、何に謝られているのか分からなかった。
知ろうともしていなかった。
ただ、「別に、親父さんのせいじゃないですよ……」そう慰めるように言っていた。
この時、もっと詳しく聞いておくべきだったと後悔する。
三ヶ月後、親父さんも後を追ってしまった。
◯
幸せな家庭が崩れて行く。
愛した人が消えて、その家族が消えてしまった。
空虚な気持ちになりながら、高校に向かう。
人が亡くなっているというのに、世間は何も変わらずに進み続ける。
俺にとって親しい人達が亡くなったのに、どうして笑っていられるんだと、周りの奴らに怒りが湧く。
これが理不尽な思いだというのは分かっていても、どうしようもなく感情が揺さぶられる。
それもこれも、あいつらのせいだろう。
莉子を暴行した奴らの、それを指示した奴のせいだ。
そして……気付かなかった俺のせいだ。
鬱屈とした思いを抱えて、再び日常に戻る。
体格が大きいだけの俺は、学校に行くことしか出来ない。
そんなある日、隣のクラスで騒動があった。
数人グループが、一人の女子を嵌めて遊んでいたそうだ。
最低な行いに、多くの人達が嫌悪感を抱く。
かくいう俺も、そいつらを殴り飛ばしてやりたくなった。
だが、部外者である俺に資格は無い。
それに、嵌められた女子はやられてばかりの人ではなかった。
クラスで会話をする友達がいない俺は、時間ギリギリまで教室の外で過ごす。
別にいてもいいのだけれど、俺が居ると教室に妙な緊張感が生まれてしまう。それもこれも、尾鰭の付いた噂が流れているからだろう。
人を殺した、年上と付き合っている、女を捨てた、根も葉もない噂を否定したいところだが、誰とも会話をしない俺ではそれも不可能だった。
これを信じたクラスメイトからしたら、俺は肉食獣のような危険人物なのかもしれない。
チャイムが鳴る前に戻ろうと教室に向かっていると、階段の踊り場から話声が聞こえて来る。
覗いてみると、そこには噂の騙した男と騙された女子がいた。
男の方は、噂とは裏腹に本気で惚れていたようで、女子に執着しているようだった。だが、女子は至って冷静に男を拒絶している。
どんな事情があっても、裏切った奴を信じるつもりは無いのだろう。
言葉の端々に、そういう強い意志が伝わって来る。それに、しっかりとそう断言していた。
男の雰囲気がおかしくなり、これはまずいかと思ったが、女子はしっかりとやり返していた。
「やるな……」
素直にそう称賛する。
力で勝る相手に、しっかりと反撃する覚悟がある。
これは、そう出来ることではない。大抵の場合、相手を興奮させないように話を合わせて宥める。
それを、足を踏んで反撃した。
この女子が騙されたなんて、嘘なんじゃないかと疑ってしまう。
それだけ気が強そうだった。
「なあ、通っていいか?」
いい加減時間も危なかったので声を掛けると、酷く驚かれた。
すれ違いざまに男に告げると、顔を真っ赤にしてどこかに行ってしまった。
「マジでカッコ悪いな」
思わずそう呟いてしまった。
何はともあれ、これで教室に戻れると思ったのだが、意外な人物から話し掛けられる。
それは女子からで、お礼を言われた後に不思議な話をされた。
「あなたには過去に戻って助けたい人はいますか? もし、過去に戻れるのなら、誰を助けたいですか?」
そこから告げられたのは、到底信じられないような内容だった。
満月の日に、関門トンネルの県境を午後八時に通過する。
その時に、電子機器を持っていてはいけない。
戻りたい当時の写真を所持しておく。
これらを実行する前に、和布刈神社にお参りをする。
「私は、これでお母さんを助けられた。そして、私自身前に進めるようになった。どうするかは、あなた自身で決めて下さい」
女子の瞳は輝いており、真っ直ぐで力強かった。
とても嘘をついている人の目には見えないのだけれど、内容はとても信じられる物ではない。
女子は頭を下げて去って行く。
俺は、その後ろ姿を見送ることしか出来なかった。




