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門司港タイムトラベル  作者: ハマ
2.中川大輔タイムリープ

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15/42

2-1

 中学三年の冬、彼女が死んだ。

 自殺だった。


 大量の薬を飲み、自殺を図ったそうだ。


「大輔! 莉子ちゃんが、莉子ちゃんが病院に運ばれたって連絡が⁉︎」


 母さんから連絡を受けた時、俺は何を言われたのか理解出来なかった。

 莉子とは、昨日一緒に受験勉強をしたばかりだ。

 その時の様子に変わりはなく、いつも通りだった。だから、自殺したと聞いても、誰のこと言っているんだと信じられないでいた。

 それに、莉子の将来の夢は医者になることだ。多くの命を助けたいと言っていた莉子が、自殺するはずないと思っていた。


 でも、現実は残酷だった。


 病院に到着すると、ベッドの上で横たわる莉子の姿。

 病室のネームプレートには、浅野莉子の文字が記されていて、何の冗談だと怒鳴りそうになった。


 自殺した理由は不明。

 俺も警察からいろいろと聞かれたけれど、何も答えられなかった。

 莉子が亡くなったのがショックで、俺は抜け殻のようになってしまい、動くことさえ億劫になっていた。


 もう直ぐ受験なのだけれど、それもどうでもよかった。

 莉子が居ないのなら、どの学校に通っても一緒だから。


 莉子が亡くなって五日後、俺宛に小包が届く。

 小包には浅野莉子の名前があって、母さんが俺に持って来てくれた。


 よく考えたら、これが莉子からの物でないというのは分かるのに、俺は信じてしまった。

 いや、その中にあった物は、実際に起こったことだから信じる他ないのだけれど……。


「……何だよ、これ……」


 それは、莉子が五人の男女に暴行を受けている映像。

 それから、証拠になる写真も大量にあった。


 気が狂いそうになった。


 どうして俺は気付かなかった?

 こんな酷い目に遭っている彼女に、どうして気付かなかった?

 どうして莉子は、俺を頼らなかった?


「……こいつらに聞けばいいか」


 暴行していた奴らには見覚えがある。

 同じ中学で、素行に問題がある連中だ。


 こいつらと莉子の接点は何なのか?

 どうして莉子に、こんな酷いことをしたのか?


 こいつらから、全部聞き出せばいい。


「がっ⁉︎」

「俺ら何もやってないだろう⁉︎ グッ⁉︎」


 探してみると、あっさりと見つかった。

 座っている奴を問答無用で蹴り飛ばして、何か言っている奴を殴り飛ばす。残った奴らも、同じように殴り付ける。そこに男も女も関係無く、莉子にやっていたようなことは出来なくても、それ以上の暴力でこいつらを痛め付ける。


 抵抗する奴はいても、俺に敵う奴はいない。


 俺は体格に恵まれている。

 中学三年で身長百九十センチあり、体重も九十キロ以上ある。バスケ部で汗を流して鍛えており、過去には柔道もやっていた。

 平均身長、平均体重、それに毛の生えた程度の体格の連中じゃ、たとえ格闘技をやっていたとしても俺に敵うわけがない。


 全員倒れて、動けないのを見て初めて聞く。


「浅野莉子を知ってるか?」


「浅野? そんな奴知らな、ガッ⁉︎」


 誤魔化そうとする奴を蹴って黙らせる。

 もし本当に莉子を忘れているのなら、俺はもう容赦するつもりはなかった。

 二度と忘れられないほど、その身に刻んでやるつもりだった。


 そんな中で、女が発言する。


「莉子って、この間、自殺した奴? ですか……」


「お前らに暴行された浅野莉子だ! 何でやったんだ‼︎ 答えろ!」


 そう告げると、女は悲鳴を上げて黙り込む。それがムカついて、近くの奴を蹴り飛ばした。

 すると、今度は男が発言する。


「あれは、頼まれたから……」


 きっと俺は壊れていたんだろう。

 頼まれたからという言葉にキレて、容赦する気が無くなってしまった。


 暴れた。

 暴れて、壊して、疲れて、ようやくまた聞く。


「で、誰に頼まれたんだ?」


 そう聞いたのだけど、全部が遅かった。


「何をやっている⁉︎」


 騒ぎを聞きつけた警察官がやって来て、俺は捕まってしまった。



   ◯



 てっきり少年院に行くものだとばかり思っていた。

 でも、そうはならなかった。


 別に、俺の親が権力を持っているからとかじゃない。

 単にあいつらが俺に怯えて、被害届を出さなかったからだ。

 俺にやられたというのも言っていないようで、おかげで俺は日常に戻ってしまった。


 家に帰ると、母さんに泣かれた。

 父さんには怒られたけれど、そこまでキツくは言われなかった。


 どうやら二人も、俺の部屋にある物を見ていたらしい。

 莉子を知っている二人からしたら、あいつらの行いが許せるものではなかったのだろう。

 俺のやったことを、必要以上に咎めたりしなかった。


 俺は、当たり前のように学校に行って授業を受ける。

 受験まであと少しというのもあり、みんなは真剣に勉強していた。俺も一応勉強するけれど、ついクラスメイト観察してしまう。


 あいつらは、誰かに頼まれたと言っていたけれど、それが誰なのか分からない。普通に考えたら、不良グループの先輩辺りだろう。でも、もしかしたらこの学校の誰か、クラスの誰かという可能性を考えてしまって、誰もが怪しく見えてしまう。


 もう一度、誰から頼まれたのか聞きたい所だが、あいつらは入院してしばらく出て来ない。たとえ退院したとしても、俺からは逃げ回るだろう。


 こうなったら、自力で見付ける必要があるのだけど、その方法が分からない。


 このクラスで、今登校していないのは三人。

 二島(ふたじま)チサ。

 北方充(北方みつる)。

 汐井旭(しおいあさひ)。


 二島は莉子の友達で、とても仲が良かった。

 莉子が亡くなったというのを聞いて、ショックで家を出られなくなったと聞く。


 北方は男子だが、莉子とよく話をしていた。

 同じ吹奏楽部というのもあるけれど、北方は元部長で大勢いる吹奏楽部員に声を掛けていた。もう責任は無いのだけれど、後輩の指導の為に、いろいろとやっているそうだ。


 最後に汐井だけど、基本的に莉子と繋がりは無い。

 ただ、以前俺は汐井に告白されていた。その時には莉子と付き合っていたから断ったのだけど、もし、その恨みで頼んでいたとしたら……いや、それは無いな。


 汐井は成績が優秀で、私立の高校を特待生での入学が決まっている。そんな奴が、誰かを襲わせるとは思えなかった。


 三人とも、莉子を襲わせる理由が無い。

 俺が知らないだけかもしれないけれど、もっと他にいないか調べるべきだろう。


 積極的に動いた。

 莉子を自殺に追い込んだ元凶を捕まえる為に、捕まえて地獄を見せる為に、俺は調べ続けた。


 分かったのは、莉子が物を隠されるといったイジメを受けていたということ。物は結局戻って来ており、教師の方では対応出来なかったそうだ。

 莉子も大事にするのを嫌って、教師にも秘密にするよう頼んでいたらしい。


 その犯人が頼んだ奴だと当たりをつけて探した。

 だが、どれだけ探しても、手掛かりさえ見つからなかった。


 考えてみれば当然だ。

 素人の俺が調べたところで、犯人にたどり着けるはずがなかった。


 暴行した奴らを探したが、半数が家に引き篭もって出て来ない。

 もう半数は、県外に逃げてどこにいるかも分からない。


 何より、自分自身に怒りが湧いて仕方なかった。

 莉子が亡くなったのに、犯人を突き止められない自分が情けなくて仕方なかった。

 莉子が傷付いていたのに、気付いてやれなかった自分が情けなくて仕方なかった。


 彼氏なのに、一緒にいたのに、近くで見ていたはずなのに、俺は莉子のことを何も見ていなかった……。


「……悪いのは俺か?」


 気付いた瞬間に、心が冷たくなる。


 犯人を探しても、莉子は戻って来ない。

 あの日々は、もう戻って来ない。


 なら、探す意味はあるのか?


 俺は、心が折れてしまった。

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