2-1
中学三年の冬、彼女が死んだ。
自殺だった。
大量の薬を飲み、自殺を図ったそうだ。
「大輔! 莉子ちゃんが、莉子ちゃんが病院に運ばれたって連絡が⁉︎」
母さんから連絡を受けた時、俺は何を言われたのか理解出来なかった。
莉子とは、昨日一緒に受験勉強をしたばかりだ。
その時の様子に変わりはなく、いつも通りだった。だから、自殺したと聞いても、誰のこと言っているんだと信じられないでいた。
それに、莉子の将来の夢は医者になることだ。多くの命を助けたいと言っていた莉子が、自殺するはずないと思っていた。
でも、現実は残酷だった。
病院に到着すると、ベッドの上で横たわる莉子の姿。
病室のネームプレートには、浅野莉子の文字が記されていて、何の冗談だと怒鳴りそうになった。
自殺した理由は不明。
俺も警察からいろいろと聞かれたけれど、何も答えられなかった。
莉子が亡くなったのがショックで、俺は抜け殻のようになってしまい、動くことさえ億劫になっていた。
もう直ぐ受験なのだけれど、それもどうでもよかった。
莉子が居ないのなら、どの学校に通っても一緒だから。
莉子が亡くなって五日後、俺宛に小包が届く。
小包には浅野莉子の名前があって、母さんが俺に持って来てくれた。
よく考えたら、これが莉子からの物でないというのは分かるのに、俺は信じてしまった。
いや、その中にあった物は、実際に起こったことだから信じる他ないのだけれど……。
「……何だよ、これ……」
それは、莉子が五人の男女に暴行を受けている映像。
それから、証拠になる写真も大量にあった。
気が狂いそうになった。
どうして俺は気付かなかった?
こんな酷い目に遭っている彼女に、どうして気付かなかった?
どうして莉子は、俺を頼らなかった?
「……こいつらに聞けばいいか」
暴行していた奴らには見覚えがある。
同じ中学で、素行に問題がある連中だ。
こいつらと莉子の接点は何なのか?
どうして莉子に、こんな酷いことをしたのか?
こいつらから、全部聞き出せばいい。
「がっ⁉︎」
「俺ら何もやってないだろう⁉︎ グッ⁉︎」
探してみると、あっさりと見つかった。
座っている奴を問答無用で蹴り飛ばして、何か言っている奴を殴り飛ばす。残った奴らも、同じように殴り付ける。そこに男も女も関係無く、莉子にやっていたようなことは出来なくても、それ以上の暴力でこいつらを痛め付ける。
抵抗する奴はいても、俺に敵う奴はいない。
俺は体格に恵まれている。
中学三年で身長百九十センチあり、体重も九十キロ以上ある。バスケ部で汗を流して鍛えており、過去には柔道もやっていた。
平均身長、平均体重、それに毛の生えた程度の体格の連中じゃ、たとえ格闘技をやっていたとしても俺に敵うわけがない。
全員倒れて、動けないのを見て初めて聞く。
「浅野莉子を知ってるか?」
「浅野? そんな奴知らな、ガッ⁉︎」
誤魔化そうとする奴を蹴って黙らせる。
もし本当に莉子を忘れているのなら、俺はもう容赦するつもりはなかった。
二度と忘れられないほど、その身に刻んでやるつもりだった。
そんな中で、女が発言する。
「莉子って、この間、自殺した奴? ですか……」
「お前らに暴行された浅野莉子だ! 何でやったんだ‼︎ 答えろ!」
そう告げると、女は悲鳴を上げて黙り込む。それがムカついて、近くの奴を蹴り飛ばした。
すると、今度は男が発言する。
「あれは、頼まれたから……」
きっと俺は壊れていたんだろう。
頼まれたからという言葉にキレて、容赦する気が無くなってしまった。
暴れた。
暴れて、壊して、疲れて、ようやくまた聞く。
「で、誰に頼まれたんだ?」
そう聞いたのだけど、全部が遅かった。
「何をやっている⁉︎」
騒ぎを聞きつけた警察官がやって来て、俺は捕まってしまった。
◯
てっきり少年院に行くものだとばかり思っていた。
でも、そうはならなかった。
別に、俺の親が権力を持っているからとかじゃない。
単にあいつらが俺に怯えて、被害届を出さなかったからだ。
俺にやられたというのも言っていないようで、おかげで俺は日常に戻ってしまった。
家に帰ると、母さんに泣かれた。
父さんには怒られたけれど、そこまでキツくは言われなかった。
どうやら二人も、俺の部屋にある物を見ていたらしい。
莉子を知っている二人からしたら、あいつらの行いが許せるものではなかったのだろう。
俺のやったことを、必要以上に咎めたりしなかった。
俺は、当たり前のように学校に行って授業を受ける。
受験まであと少しというのもあり、みんなは真剣に勉強していた。俺も一応勉強するけれど、ついクラスメイト観察してしまう。
あいつらは、誰かに頼まれたと言っていたけれど、それが誰なのか分からない。普通に考えたら、不良グループの先輩辺りだろう。でも、もしかしたらこの学校の誰か、クラスの誰かという可能性を考えてしまって、誰もが怪しく見えてしまう。
もう一度、誰から頼まれたのか聞きたい所だが、あいつらは入院してしばらく出て来ない。たとえ退院したとしても、俺からは逃げ回るだろう。
こうなったら、自力で見付ける必要があるのだけど、その方法が分からない。
このクラスで、今登校していないのは三人。
二島チサ。
北方充。
汐井旭。
二島は莉子の友達で、とても仲が良かった。
莉子が亡くなったというのを聞いて、ショックで家を出られなくなったと聞く。
北方は男子だが、莉子とよく話をしていた。
同じ吹奏楽部というのもあるけれど、北方は元部長で大勢いる吹奏楽部員に声を掛けていた。もう責任は無いのだけれど、後輩の指導の為に、いろいろとやっているそうだ。
最後に汐井だけど、基本的に莉子と繋がりは無い。
ただ、以前俺は汐井に告白されていた。その時には莉子と付き合っていたから断ったのだけど、もし、その恨みで頼んでいたとしたら……いや、それは無いな。
汐井は成績が優秀で、私立の高校を特待生での入学が決まっている。そんな奴が、誰かを襲わせるとは思えなかった。
三人とも、莉子を襲わせる理由が無い。
俺が知らないだけかもしれないけれど、もっと他にいないか調べるべきだろう。
積極的に動いた。
莉子を自殺に追い込んだ元凶を捕まえる為に、捕まえて地獄を見せる為に、俺は調べ続けた。
分かったのは、莉子が物を隠されるといったイジメを受けていたということ。物は結局戻って来ており、教師の方では対応出来なかったそうだ。
莉子も大事にするのを嫌って、教師にも秘密にするよう頼んでいたらしい。
その犯人が頼んだ奴だと当たりをつけて探した。
だが、どれだけ探しても、手掛かりさえ見つからなかった。
考えてみれば当然だ。
素人の俺が調べたところで、犯人にたどり着けるはずがなかった。
暴行した奴らを探したが、半数が家に引き篭もって出て来ない。
もう半数は、県外に逃げてどこにいるかも分からない。
何より、自分自身に怒りが湧いて仕方なかった。
莉子が亡くなったのに、犯人を突き止められない自分が情けなくて仕方なかった。
莉子が傷付いていたのに、気付いてやれなかった自分が情けなくて仕方なかった。
彼氏なのに、一緒にいたのに、近くで見ていたはずなのに、俺は莉子のことを何も見ていなかった……。
「……悪いのは俺か?」
気付いた瞬間に、心が冷たくなる。
犯人を探しても、莉子は戻って来ない。
あの日々は、もう戻って来ない。
なら、探す意味はあるのか?
俺は、心が折れてしまった。




