12-3.奪われて
本日三話目
*・*・*
何故だ。
なんだ、この感覚は。
狗神は、いくら術を繰り出しても、聖域の尊い樹々らに頼み、捕縛をしようとしても。
昏い、昏い衣をまとった小柄なヒトの仔には何一つ当たりはしなかった。
あちらが避けたりするのもあったが、向こうの術がいったいなんなのか理解しかねる。
それに、彼奴のせいで、狗神は眼を失いかけている。視覚を頼りにしているわけではないのだが、今回ばかりは悔やまれる。
己の仔を取り戻すのに、躍起になっていたのは否めない。ゆえに、焦りを感じているのも。
だが、だが何故妖の頃を取り戻した狗神の攻撃を、ただのヒトの仔がすべて躱すことが出来るのが、理解しかねる。
であれば、これは堕ちねばならないのか。
「あっははは〜、ぜーんぜん当たんないよ〜。やっぱりぃ? 眼が視えないのはダメダメだよねぇ〜?」
【……ぬかせ!】
我は仔と共に、静かに暮らしていただけ。
いずれ昇華する我であったのを、仔に継がせたいだけであったのに。
その安寧を崩したのは、ヒトの仔である目の前の敵。
狗神は、妖であった頃の力をまとうのを後悔せずに、堕ちることに決めたのだった。
「……ふふ。みーつけたぁ!」
【!?】
だが、それがヒトの仔の狙いであったと気づくのは遅過ぎたのだった。
*・*・*
漣や空呀の方が、すぐに邪気を感じ取れたと言うのに少しばかり焦った晁斗だったが。
空呀が進むにつれて、漣が言ったように寒気を肌に感じてきたのと同時に、空気がピリピリしているのも感じた。
「……マジか。堕ちてんのか?」
「おち?」
「漣や空呀が感じたのは、邪気だが。神であれば、不調とか色々あるが……堕ちは、守護堕ちの場合と似てる。神そのものが神格を堕として、荒ぶる可能性が高い」
「え、え?」
「まー、簡単に言や、この前の半堕ちくらいに厄介な戦闘現場に行くってことだろ?」
「まあ、そんなとこだ!」
とにかく急げ、と空呀に頼んで漣が落ちないように抱えたが。
その場所に向かえば、邪気どころか瘴気で溢れかえっていた。
「……うぇ!?」
「……んだ、これ!」
「うぇっぷ。なんか変な臭いがします……気持ち悪いです」
「ほとんど、血だな……」
しかも、ヒトの血ではなく獣。さらに言うと、巨大な妖か何かの臭いだ。
だけど、失せ物の在り処はここを示していた。探していた狗神の場所はここで間違いないのだが。
【……た、か……】
むせ返るほどの血と瘴気の中で、何かが声を発した。
晁斗の耳に届くと、漣を空呀に任せて、ひとりでその声の元へと行く。
一度だけ、風の札を使って瘴気を祓えば。その先には巨大な白い毛の塊が横たわっていたのだった。
「……あなたが、狗神か?」
晁斗が声をかけても、毛の塊である狗神はみじろぎもしなかった。
【……だ、れだ】
「あなたの様子を、下の神主に頼まれたヒトの子だとでも」
【……あ、れ、では……ない?】
「あれとは?」
【……わ、れの……こを奪、った】
「仔?」
と言うことは、次世代交代への準備をするのに、この狗神は聖域に篭っていたと言うわけか。それにしては、克己から聞いてきた次世代交代の儀式も何もされていない。
であれば、今狗神が口にしたように奪われただけでなく。
【……仔を、奪わ、れた……我の、核も奪って】
「……誰だ。そんなことしやがったのは」
外部からの攻撃により、狗神は次世代だけでなく、神としての依代まで奪われたということ。
それは、未熟者の晁斗でも、十分に怒る要素であった。
「空呀! 漣連れてきてくれ!」
「ほいよー!」
けど、まだ間に合うのなら。漣の癒し手の出番だ。
少し気持ち悪さを隠せていない彼女だったが、やるべきことを告げると顔色を真剣なものに変えたのだった。
次回はまた明日〜




