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12-4.癒して

お待たせ致しましたー







 *・*・*








 嗅いだことがないはずなのに、どこかで嗅いだことがあるような。


 けれど(れん)にとっては、気持ち悪くて今にも逃げ出したい気分にはなってしまった。


 だが万屋の一員として、所長の晁斗(あさと)に助力を乞われたのであれば近くにいかないわけには、と空呀(くうが)に背負われながら晁斗の元へと向かう。


 近づくたびに、気持ち悪い匂いと背中にピリピリどころかビリビリしてくる気配とやらが漣を襲うが、晁斗が平気でいるので、気合でなんとかしようとした。



「あ……さと、さん。これは……?」



 彼の横に立つのに、空呀から降りると。白い大きな塊が目の前にあった。



「こいつが、狗神だ。正直……言って、お前の能力で回復出来るかもわかんねー」

「けど……神様。苦しいんですよね?」

【……主ら、我を……癒すのか?】

「俺も手伝うが、こっちの漣が主体で癒す」

「僕、頑張ります!」



 出来ないことをするよりも、出来ることで精一杯頑張ってみる。漣は、咲乃(さくの)悠耶(ゆうや)達からも、無理はせずとも精一杯尽くすことにはきっといいことがあるから。


 そう言われて、この半月近く生活してきたので、気持ち悪さだけで倒れるわけにはいかない。



「漣……悪いが、全力で癒してみてくれ」

「は、はい! 倒れた時は、その」

「ああ。フォローは任せろ」



 なら、と漣は両手を組んで胸の前に持っていき、癒し手として紡ぐ言の葉を、口からこぼしていく。




 優しいそよ風


 内に秘めた優しいそよ風


 届け届け、その風の調べ


 優しい、笑顔


 可愛い笑顔


 届け届け、風と共に




 風の調べの通りに、周囲からいきなりそよ風が舞い上がり、晁斗や空呀、そして倒れている狗神の元へと吹いていく。


 すると、もやのような薄い青の煙が沸き立ち、狗神の身体に巻きついていく。




 沙羅さ、沙羅さ


 芽吹きの風よ、吹いてゆけ


 包み込め、優しく風のように


 綿毛が降りる、その先に




 さらに、冬なのにたんぽぽの綿毛のような光の粒が、狗神に降り注いでいく。


 まだ余力はあるが、克己(かつき)にも段階を踏んで浄化していけば、おそらく倒れはしないだろうと言われてはいた。


 なので、調べを止めて、狗神らしい毛の塊の方を見れば。



【……見事。たしかに、癒えているな?】



 血の匂いも、跡も、瘴気とやらも。だいたいは癒せたことに、漣は使命を果たせたと小躍りしそうになった。



「良かったです!」



 少し薄汚かった白い毛は、触りたいくらいのふわふわ感で。


 顔をが見えると、暁美(あけみ)の守護精である紅月(こうげつ)と似た赤い線である隈取りらしいものがあちこち描かれていて。


 そして、神であることが漣でもわかるくらいの神々しさだった。



「……ふぅ。俺が手を貸すまでもなかったな? 漣、よくやった」



 晁斗にも、頭を軽く撫でられたので、漣にとっては嬉しくて仕方なかった。



【……ふむ。だが、我は核を抜き取られてしまった。妖としてなら生き長らえれるが、神としてば無理だ】

「……何?」

「かく?」



 それと、漣には聞き覚えのある声だった。


 今朝見た夢らしき中で、哀しい声を上げていたような。



【ああ。我は土地神になるべく時がきた時に、天地(あめつ)の神より、与えられた神格のための護りの(ぎょく)を与えられるのだ】

「……それが、核?」

(かつ)爺から聞いた事はあるが、それを抜き取られたってことは」

【さらに、我が()。次代の狗神も抜き取った輩に捕えられてしまった。我が眼を一度潰された時に……】

「目……?」



 であれば、やはりあの夢はこの土地神がみせたものだったのか。


 漣は少し近づいて、狗神に触れるととても温かい毛の温もりを感じた。



「僕は、あなたを癒せましたか?」

【ああ。元通りに近いと言っていい。しかし、主は初めて会う気がしない】

「今朝、夢でお会いしたのかも」

「漣?」

「神と交信したってわけか!?」



 こんな温かな気持ちにさせてくれる神から、子供だけでなく神であるための物まで抜き取ってしまっただなんて。


 そんな酷いことをする人達を、漣は許せないと思った。



「僕、この神様に酷いことをした人達を許せません。あの時みたいに、人をおもちゃにするような……そんな人達みたいなことを」

「漣……」



 すると、晁斗に肩を軽く叩かれた。



「漣、今だから言う」

「? はい?」

「お前が助けた甲本は……お前が入院したあの日に殺された」

「……え?」

(あつ)兄が犯人と戦ったが……間に合わなかったらしい。柘植さんには、もう伝えてあるが」

奈央美(なおみ)さん、には?」



 あの事件と、菜幸(なゆき)の友人となった柘植奈央美はウィンタージュの方には、常連として来てくれている。いつも笑顔なのに、甲本の死を知っていてなお、笑顔でいられるように気持ちを受け入れたのか。


 記憶喪失と、常識が欠如している漣には、まだそれがどれだけ辛いか分からなかった。



「癒した直後に殺されたとお前が知れば、お前は受け止めきれないと……所長判断としてお前に言うのを止めたんだ。けど、この半月お前と過ごして……今お前が狗神に与えられた怪我に怒りを感じたのなら、もう告げると今決めた」

「……殺した人は、この神様と関係が?」

「それはまだわかんねー……けど、無関係とも言い切れない」



 雑音に混じった笑い声。


 あの笑い声が今回も関係するのであれば。


 漣は、自身の生い立ちなどを知れるかもしれない。


 だけど、今は狗神。癒した神様を助けなくてはいけないのだ。



【……目は失っていたが、あのモノの臭いは覚えている。主は、レンと言ったか?】

「あ、はい!」

【そちらの(おのこ)も来い。我が背に乗って案内(あない)しよう。我が仔を取り戻すためにも】

「んじゃ、お言葉に甘えて」

「わひゃ!?」



 晁斗にいきなり抱えられて、狗神の背に乗ることになったのだった。

次回は12時

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