31-2.裏の長
お待たせ致しましたー
誰だ、と思う疑問と。
まさか、とも思う疑問が晁斗の内側を駆け巡った。
いきなりの初対面で晁斗の名前を言い当てる程、晁斗はこれで万屋の依頼を受けていても、今目の前にいる老人は依頼者にいなかった。
それともう一つ。
守護精である空呀がいきなり顕現して、本来の半分くらいのサイズで晁斗の前に立ったのだ。
「誰だ、テメー!!?」
「おい、空呀」
「嫌な臭いがめちゃくちゃすんぞ!? 優男を演じていたって、わかんだよ!!?」
「……え、まさか」
「巧妙に隠しているように見せてっけど、そいつ死んだ漣の姉貴と同じ臭いがする!!」
「…………」
「…………本当、ですか?」
空呀の怒号にも、老人は怯まなかった。
どころか、こちらに向かって深々とお辞儀をしてきたのだ。
「…………我が孫達のために、ありがとうございました」
「……じゃあ」
「はい。私は『裏』の長であり、由那と花蓮の祖父である戸塚沙霧と申します」
やはり、花蓮達の祖父であり、裏の頂点に立つ人間。
だが、色々不明な点はあった。裏の人間の割には、普通過ぎるのだ。守護堕ちを量産したり、神々を堕とそうとしていた犯罪組織の人間にはまるで見えない。
どう見ても、ただの好々爺さんにしか晁斗には見えないのだ。かつて、自分の祖父である克己と対峙してきたという昔話に当てはまらない。
「……空呀。マジで由那と同じ臭いがすんのか?」
「する! すっげーする! 守護精なら一発でわかる」
「…………」
戸塚と名乗った裏の長は黙ったままだ。
その雰囲気が、どことなく花蓮に似ていたために、晁斗は二人の血の繋がりを感じたが。
裏とわかっては放っておけない。
これまで、世間にどれだけ迷惑をかけてきたか。燈のかつての親友だった女性を死なせたことも。
今回も、由那を自殺に追い込んだことも。
全てを知った上で、この老人は晁斗の前に立っているのだろうか。
「……何故。今になって、うちの爺さんじゃなくて俺の前に?」
「……………………花蓮を……保護じゃなく、愛してくださってる相手ですしね。今のあの子の心の拠り所はあなたですから」
「どこでそれを……?」
「あの子の夢を通じて。昏睡状態の時に、覗きに行ったんです。今までも、ずっと…………はじめは、万屋の人間に保護されたので、引き離そうとも考えました。ですが、魂を引き離してまで……花蓮は『漣』の状態であなた方と過ごしていた。それを、長ではなくただの祖父としては……嬉しかったんです」
孫の喜びを、祖父として喜ぶ感情。
いったい全体、この老人は何故晁斗の前に、花蓮の恋人として向き合いたいと出てきたのか。
空呀がまだ唸り声を上げている状態だが、近づくわけにはいかない。
空呀の言うように、晁斗と接触するのに演じている可能性もあるからだ。
「……なら。何故、由那をあそこまで追い詰めた?」
「…………そこまで、双子の妹を憎く思っていることは知っていました。だが、屍鬼を呼ぶのは想定外で……花蓮が間に合ったとしても、あの子には出来なかったでしょう。けれど、幽閉していたのは裏でも必要以上にあの子の癒し手の能力を利用させないがためです」
「……犯罪者を癒していたのにか?」
「…………それは否定出来ません」
そうして、戸塚はくるりと晁斗に背を向けて、何かの札を左手に構えていた。
「! おい!」
「いずれ、表舞台には出ましょう。孫達の償いのために……今は、まだ」
札を話すと異空間の入り口が現れて、戸塚はそこに入り込んで消えて行った。
本当に、いきなりの登場でいきなりの退散。
意味がわからなかったが、晁斗は花蓮が食べたいハンバーガーを買う事を思い出したので、バイクではなく空呀に乗って行くことにした。
突然の裏の長との対面だったので、まだ動揺している気持ちが大きかったからだ。
次回は火曜日〜




