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30-1.人間らしく

お待たせ致しましたー






 *・*・*









 何度願った。


 何度罵った。


 あの妹よりも、己の方が優れていると。


 だけど、認められなかった。


 訓練に訓練を重ねて、時間をかけて幹部にまでのしあがっても尚。


 由那(ゆな)は、いつしか感情を狂わせてしまった。


 ヒトを取り込み、ヒトを貶めて、この世に混沌を召喚せんとする『裏』の存在として。


 ただ、ただ。


 両親を知らずに、祖父の手で育てられた。


 祖父に認められたかったのだ。あんな癒し手などと、正義の象徴でしかない能力を持って生まれた片割れなんかに。


 祖父に大事にされているのが悔しくて、這いつくばる勢いで力をつけてきたのに。


 その妹が、今になってこの姉を必要とするだなんて。



『…………も……お、そ……い』



 由那は、屍鬼(しき)に取り込まれかけた身体を変化していた右手で心臓を貫いたのだ。いくら屍鬼でも、宿主が死ねば地獄へとまた戻るだけ。


 由那から切り離す以外の、解呪の方法はそれだけ。


 だから、あの妹の恋人になった万屋の所長の言葉を耳にした途端。由那の、わずかに残った意識でそれを実行したのだ。



「お姉さん!!」



 悲痛な叫び声。


 おかしい、由那は妹のそれを望んでいたはずなのに。


 どうしてか、心臓はもうないのに苦しかった。


 胸が、身体が。


 だから、笑った。



「……か……れ、ん……」



 その悲痛な声が、歪んだ顔を見たいとずっと思ってきたのに。


 逆に悲しかった。


 辛かった。


 ああ、そのように由那を思って泣くな。お前には、もう居場所があるのだから、と。


 だんだんと人間の手に戻っていく、屍鬼だった腕を妹の花蓮(かれん)に向けてゆるりと伸ばした。


 やがて、双子の指が絡まり、花蓮に泣き顔が由那の目にはっきりと映ったのだ。



「治すから……! 絶対、治すから!」

「……い、いんだ」



 もう己の命の灯火が消えるのは、目前だ。


 いくら癒し手の力があれど、由那は死に、そして甲本(こうもと)が帰っていった地獄に堕ちるだろう。血に染まった手だ、それくらい当然。


 最後に、人間らしい感情を取り戻せた悔しさはあったが、悪くない。


 そう思って、絡めた指の力を抜いた。



「由那! 逝くな!?」



 今までの相棒だった、紗々(さしゃ)も泣いている。泣くことが出来たんだ、と不思議と嬉しい気持ちになれた。散々迷惑をかけた相棒だったが、逝く前に気持ちだけは伝えたいと唇を震わせた。



「……す、き……だ……たよ。さ……しゃ」

「由那!?」



 それ以上はもう身体が保ってくれなかったようで。


 どこにも力が入らなくなり、意識が遠のくのがわかる。


 わずかに、二十二年しか生きていけなかったが。


 犯罪集団の孫娘でも、最期に人間らしい思い出が出来たと嬉しく思い。二人の家族を置いて、由那は地獄に旅立って行った。

次回は火曜日〜

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