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29-6.葛藤

お待たせ致しましたー






 *・*・*









 (れん)屍鬼(しき)からの猛攻から防いでいる最中に。


 気絶していたはずの、裏の人間であるあの男が彼女の元まで飛来していったのだ。駆け寄ろうにも、屍鬼からの猛攻の方が酷くてそれどころではなかった。


 ちらっと見ると、あの男が漣に向かって腰を折っていた。あの男に何が起きたのかわからないが、今は敵対するのも漣を連れて行く気もないのだろう。


 すると、漣と頷き合ってから奴はこちらに勢いよくやって来て、出現させた刀で屍鬼の攻撃を薙ぎ払った。



「……今だけは、休戦を」

「…………わーった」



 あの狗神(いぬがみ)からの事件では対峙したが、まさか共闘することになるとは思わないでいた。


 だが、今はそうも言っていられない。


 歪み、歪んで、取り込まれていく由那(ゆな)の身体。最初は片腕が鬼の腕となっていたが、今ではもう片方にまで進行していっている。


 このままでは引き剥がせるか怪しいが、漣を信じるしかない。


 とりあえず、猛攻を防いでいるのでこちらは精一杯だったが、あの男は刀一本と浮遊の術で由那に立ち向かって行った。


 男が刀を振り下ろしても、屍鬼である由那は片腕でそれを受け止めた。



「由那!? 目を覚ませ!!?」

『…………ゆ……な……?』

「お前の名だろう!? 屍鬼に意識を取り込まれるな!?」



 ガキンガキンと、刀と腕がぶつかり合う音が聞こえ。屍鬼の攻撃が男一人に集中していく。


 戦い慣れているのを羨ましくは思わないが、今は有り難かった。漣には璐羽(ろう)がついているが、結界は厳重に張った方がいい。


 晁斗(あさと)空呀(くうが)を漣のところへと向かわせようとした時。


 漣の歌が、まるでエコーのように周囲に響いてきたのだ。



「なんだ……!?」



 今までの彼女の歌が広範囲に響き渡るのは聞いてきたが。


 こんな、機械を通したような響き方は初めてだった。


 漣は一生懸命に歌っている。自分の双子の姉のために。


 そして、自分のこれからのために。


 漣は完成した歌を響かせていくと。屍鬼に取り込まれていた由那の身体にも変化が起きたらしい。


 あの耳障りなダミ声が、苦しんでいるのが聞こえたからだ。



『ぐぅううううう……が、かは……っ!?…………が、れ゛ん゛ぅうううう!!?』

「由那!? 意識を保て!! 屍鬼から離れろ!!」

『そ゛……な゛っ…………ゔぉ……ぐ、な……んて』

「俺はお前の相棒だ!! 後にも先にもない!!」



 こんな状況ではあるが。


 あの男は男なりに、由那を想っていたのか。


 だからこそ、立ち向かったのか。晁斗は苦笑いが浮かんだが、空呀を飛ばして自分もそちらに向かうことにした。



「漣の姉貴!! お前が元に戻んなきゃ漣も困るんだよ!! 元に戻れ!!」



 気休めでも言葉を投げてやれば。


 由那が、いきなり泣き出した。


 まだ顔は半分以上屍鬼のままであったが。漣と同じ顔つきが初めて歪んだのだ。ぽろぽろと大粒の涙を流しながら。



『が……れ、ん……が、ゔぉ……く、を……?』

「そうだ! お前のしてきたことは許されねーけど。それでも、漣には必要なんだよ!!」

『…………くふ』



 すると、由那は鬼の腕を自分の胸の前に持っていった。


 まさか、と目の前にいた男も手を伸ばしたが。


 もう遅かった。由那は、自分の心臓を鬼の腕で貫いたのだ。



「由那!?」

『……い……んだ……これ、で』



 倒れて屍鬼から身体が離れていった時に、晁斗の後ろから漣の悲痛な叫び声が聞こえてきた。

次回は土曜日〜

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