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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
ケサランパサランさらに
125/164

25-8.緩く動く

お待たせ致しましたー







 *・*・*










 最悪だ。


 甲本(こうもと)の魂がケサランパサランに憑依しまっていた。


 憑依したことで、甲本だった時の記憶がほとんどないらしいが。


 あの(れん)と名付けられた女の歌の力で。


 魂の片鱗でもある『守護精』が蘇ってしまった。


 今ここで、単身乗り込んで、あのケサランパサラン擬きごと連れて帰るのは簡単だ。


 だが、その後どうすればいい。


 どうしたら、ケサランパサランと甲本を切り離せるのか。


 守護精まで蘇り、甲本だと万屋一行にバレてしまった。


 双子の姉の方は、面倒だと言い切るだろうが、男はそう言うわけにはいかない。


 自他ともに認めるくらい、生真面目なのだ。



「……術で目眩し……いや、それは危険だ。あの妹が近くにいては、俺の術など相殺してしまうだろう」



 元々身内であった関係だったが、姉とは違い妹は破壊ではなく、修復と救済を可能とする能力の持ち主だった。


 男と話し合う機会があるどころか、祖父である長によって幽閉されていたのだ。


 あの事件が起きるまでは。



「……引くしかない。前所長がいるのであれば、魂の消滅はないだろうが」



 殺しを厭わない『裏』の存在であれ、消滅を好むわけではない。


 あの姉は違う思考の持ち主でがあるが、あれは裏に塗り固められた結果だ。妹である漣も似たはずなのに、双子でも考え方が違ったのか。


 幽閉から、逃亡。


 そして、魂を切り離して、守護精を逃がした。


 それが今の漣なのだが、癒し手の能力は健在だった。それは喜ばしいことだが、何故宿敵である万屋に匿われたのだろう。


 そして、何故。現所長と好意を交わしてしまったのだろうか。このことを姉は知っても、長に知らせても『そうか』とだけしか返答がなかった。


 身内から切り離すつもりなのだろうか。あれだけ、囲って育ててきた孫娘を。



「……とにかく。今はまだ知らせるのはやめておこう」



 男のミスだからだ。


 帰還しようと、術を発動させようとしたら。誰かに肩を掴まれた。



「面白いじゃん?」

「……いたのか」



 注意散漫過ぎた。


 男と同じように、黒ずくめのマントを羽織っているが。フードから覗く口元は、面白いものを見つけたかのようににんまりと緩んでいた。



「幸せいっぱいいっぱいのあの子の生活。……壊したくなるよ」



 そして、やはり物騒な考えを持っていたのだった。


 ここまで来ると、長がたとえ禁じても実行するだろう。仕方なく、男は息を吐いた。



「ふふふ。ふふ? ずっと鳥籠にいた鳥が羽ばたき続けるだなんて、僕は許さないよ?」



 その後に、かすかにつぶやいたのは、あの妹の本当の名前だった。

次回は水曜日〜

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