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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
新たなカップル
112/164

24-1.見栄

新章スタート!







 *・*・*








 とうとう。


 とうとう、とうとう、とうとう。


 古厩(ふるまや)菜幸(なゆき)二十三歳。


 ずっと想いを寄せていた年上で渋くてカッコいい大先輩と、今日めでたく結ばれたのだ。


 しかも、バレンタインの日に。



「……さて。菜幸ちゃん」



 その相手である、安斎(あんざい)(あかり)。さっきまで吸っていたタバコは消したのか、今は独特のあの匂いがするだけ。


 まさか、いきなりキスされるのではと思ったらのだが。ずっとされていた抱擁を解いただけだった。



「……その箱。僕がもらっていいものかな?」

「あ」



 勢いの告白と、彼からの告白に嬉しくて驚いて忘れていた。


 なので、潰れていないか確認してから、燈に差し出したのだ。



「手作り?」

「……はい。咲乃(さくの)先輩と(れん)ちゃんと一緒に」

「ありがとう。中身は何かな?」

「パウンドケーキです。チョコの」

「…………じゃあ、菜幸ちゃん。今日の夜って空いてる?」

「は、はい?」



 え、まさか。と、顔を上げれば。燈は菜幸が蕩けてしまうような、極上の笑みを浮かべていた。



「もし良ければ、このプレゼントのお返しに僕が料理するよ。うちに来ない?」

「い、いいんすか!?」



 業務連絡などにも、私用でもほとんど出向いたことがない。燈の家。


 親元を離れて一人暮らしだと言うことは知っているが、普段は守護精の蛍蘭(けいらん)と生活しているらしい。そこにいきなりとは言え、恋人になった菜幸をディナーに招待。


 テンション爆上がりだと、思わずその場でぴょんぴょんしてしまった。



「はは。喜んでもらえたなら何よりだよ? 買い物も一緒に行こうか?」

「うっす!」

「それと、もう一つお願いなんだけど……」

「?」



 燈が顔を寄せてきて、にっこりと微笑んだのだった。三十代の色香に、菜幸は今更ながらくらくらしそうになる。



「その言葉遣い……ちょっとずつでいいけど。直してくれる? もう見栄張らなくていいからさ?」

「……バレてました?」

「もちろん」



 癖になってしまっていたが、燈に見向きもされていなかったと思ったから。彼と出会ってすぐに、目上の人とかには男言葉のような敬語を使っていた。


 燈の言うように、舐められないためにと、虚勢を張っていたのだ。だが、少しずつなら改善出来るだろう。


 晁斗(あさと)達とのやり取りもずっとそうだったが、直せなくはない。


 菜幸が頷けば、なんと燈はおでこに軽くキスしてくれたのだった。



「じゃ、時間もあんまりないし。仕事に戻ろうか?」

「う……はい」

「頑張って頑張って」



 そうして二人で喫茶側に戻ったら。


 バックヤードで、咲乃と悠耶(ゆうや)。あと、克己(かつき)から小さなクラッカーを鳴らされて、お祝いされたのだった。



「おめでとう!」

「おめでとう、燈先輩!」

「菜幸ちゃんもおめでとう!」



 もう決定事項だったのか、菜幸も燈も顔を合わせて苦笑いしかできなかった。



「ね、ね? 菜幸ちゃん達も今日デートするの!?」

「こらこら、咲乃? いきなり聞く内容じゃないよ?」

「だって、おじいちゃん!」

「とりあえず……今日は定時で上がりますね。オーナー」

「ふふ、構わないよ? たまにはゆっくりしなさい」



 そしてその後。クラッカーは鳴らされなかったが、バイトやパートのスタッフにも同様にお祝いされて。


 菜幸は晴れて、燈と公認のカップルとなったわけである。

次回は土曜日〜

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