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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
バレンタインデート当日
104/164

22-6.抱き止めて

お待たせ致しましたー







 *・*・*








 いつだったかは、(あかり)にも思い出せない。


 ある意味、弟弟子の後輩である古厩(ふるまや)菜幸(なゆき)に、特別な感情を抱くようになったのかを。


 休憩時間中に、ウィンタージュの裏手で一服した時。今日はバレンタインだと言うのを思い出して。


 ああ、去年はどうだったかと思い出してはみたが。


 菜幸はいつも通りで、他のバイト先や万屋メンバーにも既製品を配ってただけのような。だが、今年はまだ誰も受け取っていない。


 なら、今年は燈だけに渡してくれるのか。それがどうしてか、楽しみでいるのだ。あの事件をきっかけに、自らの幸せを絶とうと決めたはずなのに。



「……年かなあ?」

「燈先輩は、全然若いっすよ!!」

「!?……菜幸ちゃん?」



 やけに明るい声に驚いたが、振り返れば彼女の顔はわかりやすいくらいに、真っ赤だった。


 その顔の意味が、わからないくらい燈は歳を重ねていると自覚はしたが。



「……知ってたっす」

「? 何が?」



 いきなりの話題の切り替えに、今度は意味がわからず首を傾げるしか出来なかった。


 すると、菜幸は少し俯いていた顔を上げて、燈と目を合わせた。



「燈先輩が……昔の事件をきっかけに。ご自分の幸せを絶とうとしてるのっす!!」

「!?……どうして、それを?!」

「…………ウィンタージュに入った直後。先輩とオーナーの話を、たまたま聞いてしまったからです」



 それは、燈がいい年なのに誰ともお付き合いもしないことを克己(かつき)に聞かれていた時。


 菜幸は経理の仕事に入ったばかりだったので、わからない箇所を聞きに行った時だったらしい。そこで、聞いてしまったのだ。


 友人とは言え、大切な女性を目の前で失った自分が、誰かと幸せになれるなんて考えられない、と。その話を聞いた瞬間には、もう燈に心を寄せていたと自覚したそうだ。


 だから、燈の気の済むまで待とうと決めたのだが。


 年々、彼が菜幸に少しだけでも心を寄せてくれていると気づいた時には。どうしていいのかわからなかった。


 だから、今日のためにバレンタインチョコを用意しても、本当に告げていいのか悩んだらしい。


 その正直で切実な告白に、燈は心臓が痛いくらいに動き出すのを自覚した。



「……菜幸ちゃん」

「だから……教えて欲しいんす! 先輩は私のこ」

「もう、充分にわかったよ」



 話の流れで、いい加減に自覚した男でも好いてくれていると言うのなら、もう迷うまい。


 燈は彼女の手にしてる包みを潰さないようにしながら抱きしめて。今出来る言葉を口にしたのだった。



「せ……先輩!?」

「ありがとう……。こんな僕でも好きになってくれて」

「……『こんな』じゃ、ないっすよ?」

「……うん」



 十くらい年下の女の子に言われてしまうとは思わなかったが、不思議と嫌じゃない。


 それと。亡くなった友人である彼女にも、きちんと謝れるような気がしたのだ。

次回はデートに戻ります


更新は水曜日〜

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