22-5.こちらでは
お待たせ致しましたー
*・*・*
今頃、どうしているだろうか。
咲乃は少しウキウキしていた。
「機嫌いいね?」
声をかけてきたのは、従兄弟兼恋人の茅沼悠耶。彼の方も機嫌が良かった。
二人は、終業後にバレンタインデート予定なので今は喫茶で仕事中である。
「ふふ。漣ちゃんと晁君との初デートだもの? 尾行したかったけど、今日は仕事だし?」
「からかうのも程々にね? ね、ね? いつものプレゼントは?」
「だーめ。今日は仕事終わるまでお預け」
「ちぇ」
たしかに、他の従業員やバイトに見せてもいいのだが。今回はなんとなく、二人きりでプレゼントは交換にしたかったのだ。
初恋同士で、初恋人から婚約手前。
初々しさはとうにないけれど、あちらの初々しさに当てられたかもしれない。だから、咲乃は少し新鮮気分でいたかった。
それともう一つ。
「それと。菜幸ちゃんと燈先輩の方をどうにかしないと」
「あー。そうだね? もう見え見えなのに、先輩も渋ってるし?」
「そうよ!」
もうひと組くっついてもいいカップル。
我がウィンタージュの料理長であり、ベテラン術師として万屋でも頼られる安斎燈。同じく、万屋では経理担当の古厩菜幸。
どう見たって、相思相愛なのに。燈は燈でうだうだしているし、恋愛初心者の菜幸は尻込み状態。
今咲乃達は、共有休憩スペースにいるので、言いたい放題ではあるが。
「けどまあ……先輩にはあの事件があったし」
「それはわかってるわ。けど、もういいじゃない。自分が幸せになっても」
「菜幸ちゃんもそれ知ってるから、なかなか言い出せそうにないし……ね?」
「え?」
「……うっす」
どうやら聞かれていたらしく。
流石に、咲乃は謝ると菜幸からは首を横に振られた。
「菜幸ちゃん?」
「知ってたっす。燈先輩が、ちょっとでも自分を気にかけてくれてたことは」
「じゃあ。なんで……?」
「先輩の気持ちに、ケジメがつくまで待とうと思ってたんす」
だから、自分は待とうと決めてたと。自分からはなかなか言い出せなかったと。
それでは、双方幸せになれないのに、と咲乃は菜幸に抱きついた。
「わがままくらい言っていいのよ??」
「……けど。先輩の傷は大きいっす」
「だからよ。誰か手を差し伸べなきゃ」
「…………咲乃先輩」
「私には悠君が……家族がずっと一緒だったからあなたとは違うわ。けど、女の子はね? 恋にはわがままになっていいと思うのよ」
咲乃も、嫌な思いをしてこなかったわけではない。
悠耶とここまで来るのに色々あった。後輩である菜幸もそれを知ってるから、咲乃の言葉に下ろしていた両腕を咲乃の背に回した。
「いいんすか? もう」
「ふふ。そうよ? その歳上には男言葉も、出来ればやめなさい?」
「えー? もうこれ癖っす」
「軽口叩けるなら上等。例のパウンドケーキ持って、行ってらっしゃい? 裏で一服してると思うわ」
「うっす!!」
多少の元気は取り戻せたので、軽く背中を叩いてから悠耶と見送った。
晁斗もだが、恋愛に不器用過ぎる人間が多いものだ。万屋メンバーは。
「うまくいくといいね?」
「大丈夫よ」
きっとうまくいく。
そう願いながら、咲乃は唯一無二の恋人の腕の中に飛び込んだ。
「甘えたい気分?」
「バレンタインだもの」
日本の商業関連に化したイベントとは言え、もともとは愛する恋人同士のための祭日だ。
いつももだが、今日くらい甘えたいな気分でいたい。
終業後までに、菜幸達がうまくいっているといいなと願うのだった。
次回は日曜日ー




