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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
バレンタインデート当日
103/164

22-5.こちらでは

お待たせ致しましたー







 *・*・*








 今頃、どうしているだろうか。


 咲乃(さくの)は少しウキウキしていた。



「機嫌いいね?」



 声をかけてきたのは、従兄弟兼恋人の茅沼(かやぬま)悠耶(ゆうや)。彼の方も機嫌が良かった。


 二人は、終業後にバレンタインデート予定なので今は喫茶で仕事中である。



「ふふ。(れん)ちゃんと(あさ)君との初デートだもの? 尾行したかったけど、今日は仕事だし?」

「からかうのも程々にね? ね、ね? いつものプレゼントは?」

「だーめ。今日は仕事終わるまでお預け」

「ちぇ」



 たしかに、他の従業員やバイトに見せてもいいのだが。今回はなんとなく、二人きりでプレゼントは交換にしたかったのだ。


 初恋同士で、初恋人から婚約手前。


 初々しさはとうにないけれど、あちらの初々しさに当てられたかもしれない。だから、咲乃は少し新鮮気分でいたかった。


 それともう一つ。



「それと。菜幸(なゆき)ちゃんと(あかり)先輩の方をどうにかしないと」

「あー。そうだね? もう見え見えなのに、先輩も渋ってるし?」

「そうよ!」



 もうひと組くっついてもいいカップル。


 我がウィンタージュの料理長であり、ベテラン術師として万屋でも頼られる安斎(あんざい)燈。同じく、万屋では経理担当の古厩(ふるまや)菜幸。


 どう見たって、相思相愛なのに。燈は燈でうだうだしているし、恋愛初心者の菜幸は尻込み状態。


 今咲乃達は、共有休憩スペースにいるので、言いたい放題ではあるが。



「けどまあ……先輩にはあの事件があったし」

「それはわかってるわ。けど、もういいじゃない。自分が幸せになっても」

「菜幸ちゃんもそれ知ってるから、なかなか言い出せそうにないし……ね?」

「え?」

「……うっす」



 どうやら聞かれていたらしく。


 流石に、咲乃は謝ると菜幸からは首を横に振られた。



「菜幸ちゃん?」

「知ってたっす。燈先輩が、ちょっとでも自分を気にかけてくれてたことは」

「じゃあ。なんで……?」

「先輩の気持ちに、ケジメがつくまで待とうと思ってたんす」



 だから、自分は待とうと決めてたと。自分からはなかなか言い出せなかったと。


 それでは、双方幸せになれないのに、と咲乃は菜幸に抱きついた。



「わがままくらい言っていいのよ??」

「……けど。先輩の傷は大きいっす」

「だからよ。誰か手を差し伸べなきゃ」

「…………咲乃先輩」

「私には悠君が……家族がずっと一緒だったからあなたとは違うわ。けど、女の子はね? 恋にはわがままになっていいと思うのよ」



 咲乃も、嫌な思いをしてこなかったわけではない。


 悠耶とここまで来るのに色々あった。後輩である菜幸もそれを知ってるから、咲乃の言葉に下ろしていた両腕を咲乃の背に回した。



「いいんすか? もう」

「ふふ。そうよ? その歳上には男言葉も、出来ればやめなさい?」

「えー? もうこれ癖っす」

「軽口叩けるなら上等。例のパウンドケーキ持って、行ってらっしゃい? 裏で一服してると思うわ」

「うっす!!」



 多少の元気は取り戻せたので、軽く背中を叩いてから悠耶と見送った。


 晁斗(あさと)もだが、恋愛に不器用過ぎる人間が多いものだ。万屋メンバーは。



「うまくいくといいね?」

「大丈夫よ」



 きっとうまくいく。


 そう願いながら、咲乃は唯一無二の恋人の腕の中に飛び込んだ。



「甘えたい気分?」

「バレンタインだもの」



 日本の商業関連に化したイベントとは言え、もともとは愛する恋人同士のための祭日だ。


 いつももだが、今日くらい甘えたいな気分でいたい。


 終業後までに、菜幸達がうまくいっているといいなと願うのだった。

次回は日曜日ー

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