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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
バレンタインデート当日
102/164

22-4.映画館デート

お待たせ致しましたー







 *・*・*







 彼女とは、こんなにも心を穏やかにさせてくれる存在だったのか。


 晁斗(あさと)は映画のお供になる軽食売り場で、まるで犬のようにはしゃぎたくなるのを堪えていた(れん)にそんな感情を抱いた。


 両親のこともあり、祖父である克己(かつき)に追いつくべく、学生時代は修行と喫茶側の手伝いに明け暮れていた。


 悠耶(ゆうや)咲乃(さくの)一筋だったから、従兄弟同士の恋愛事情はそれが普通だと思っていたから。


 恋愛について、どちらかと言えば消極的だった晁斗にとって初めての恋愛であり、彼女。


 しかも、記憶喪失者でまだまだ謎が多い女性であるのに。


 昔悠耶が言っていたように、『この人だ』と思うのがよくわかったのだ。漣が倒れたと知った時は、らしくないくらい過剰に慌てたし。彼女が、照れた時なんかは必要以上に胸がときめいた。


 だから、もう。漣の正体がなんであれ、彼女も晁斗を想ってくれてたのがわかった時は、正直言って安心出来た。



「晁斗さん、いっぱいあって迷います!!」



 そして今は、映画館での初デートで軽食に迷う彼女が可愛くて仕方がなかった。



「別にたくさん頼んでいいぞ? 食い切れなきゃ俺が食うし」

「う〜〜……じゃあ、チーズチリホットドッグとポテトとポップコーンのバターチーズで!!」

「ぷっ。マジでめちゃくちゃ食うな? いいけど」

「ポップコーンは晁斗さんとわけっこします」

「わかった。んじゃ、俺は」



 観るのは少し子供向けのCGアニメーションだが、別に大人が観てもいいやつだ。二人でトレーを持ってフロアに向かえば、晁斗達くらいのカップルなんかもちらほらいたのだ。


 漣に座り方の説明をしてから、席に着けば。家のソファよりも深く沈むクッション性に彼女は少し驚いていた。



「ふかふかです!!」

「映画観るからなあ? 固いと疲れるし」

「本当に、おっきな画面です!!」



 驚いてはいるが、事前に伝えてはいるので声は抑えてくれている。それが、また可愛らしく晁斗の目に映った。


 それと、開始までにまだ時間があるので。晁斗達はまだ温かいホットスナックなどを食べることにした。



「ポップコーンはいいが、他は冷めねーうちに食おうぜ?」

「……いいんですか?」

「食うために買ったんだし、いきなり映画観ながら食えるか? あと、真っ暗になるしよ?」

「! じゃあ!」



 いただきます、と言ってから漣は迷うことなく、晁斗に買ってもらったチーズチリのホットドッグを手に取り。まだ温かいお陰か、よくチーズが伸びて。漣ははふはふ言いながらも美味しそうに食べていく。


 なら、自分も。と晁斗は普通のホットドッグを頬張り。


 二人が食べ終える頃にはアナウンスが流れ、辺りが暗くなっていく。


 左隣にいる漣が小さく声を上げたので、コーラを飲みながら軽く肩を叩いてから、彼女の空いている手を触った。



「……繋ぐか?」

「! はい!」



 それから映画は始まり、途中漣がぐずり出しても他の客に混じって笑い出しても。


 晁斗は一応映画は観ていたが、漣の一挙一動が可愛くて仕方なくて。漣との間に置いていたポップコーンの半分も食べなかったのだ。


 終わってからは、ぐずぐずと泣いてた漣がメイク直しをするのにトイレに行ったので。フロアのトイレの近くで、ポップコーンを食べながら待っていたら。


 いわゆる、逆ナンをされてしまったのだ。



「お兄さん、ひとりー?」

「あたし達といいことしようよー!」

「…………」



 悠耶はともかく、自分が逆ナンされる立場になろうとは。


 彼女がいても信じてもらえそうにないので、晁斗はきちんと断りをしようと口を開きかけたのだが。



「……私の彼氏さんに、何か御用ですか?」

「げ」

「ひ」



 すぐに戻ってきた漣が、まるで阿修羅のように怒りを露わにしてたので。


 逆ナンの二人はとっとと退散してくれて、晁斗はほっと出来たが。漣には腕にしっかりと抱きついてきたのだ。



「心配してた通りです」

「……今のか?」

「晁斗さんは自分がかっこいいって自覚持って欲しいです」

「……ごめん」



 とは言っても、若い頃の克己に似ているとは古い常連にも言われたことはあるが。


 それが女の言うかっこいいに繋がるかまでは、よくわかっていなかった。


 だが、漣と言う彼女が出来たので心配はかけたくないなと。彼女の髪を撫でたのだった。

次回は木曜日〜

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