Girl's Side 9 ~嗜好~
「つまりざっくりまとめると、彼女がいる人を好きになってしまって、どうしたらいいのか分からない、と?」
八十島さんがにべもなくまとめてくれる。真木さんも無言で頷いた。
唯でさえ色恋沙汰に疎いボクには、横恋慕とかレベルが高過ぎる悩みだ。ボクなんかが口を挟める案件じゃない。でもそれは返って興味をそそるところでもある。八十島はなんて助言をするんだろう?
少しだけ目を閉じて思案した八十島さんは、まずは前置きから入った。
「始めに、個人的な見解を述べさせてもらうけれど、私は恋愛は自由であるべきだと考えているわ」
ボクと真木さんは揃ってコクコクと頷いて、耳を傾ける。
「百合だろうが、薔薇だろうが、虹だろうが、三次だろうが、片想いだろうが、横恋慕だろうが、略奪愛だろうが、妻妾同衾だろうが、NTRだろうが、失楽園だろうが、枯れ専だろうが、ショタだろうが、ペドだろうが、好きなものは好きにすればいいと思っている」
優等生の八十島さんが口にするようなものとは思えない単語がずらずらと並んだ。当人が顔色一つ変えずに平然としている分、聞いているこちらが赤面してしまう。
真木さんも嬉しさと驚きとが半々に混じりあった顔で戸惑っている。自分の想いに肯定的ととれる意見が喜ばしい反面、一緒に並んだ単語の幾つかは容認出来ないのだろう。それはそうだ。最後だけ端折って聞けばちょっとイイ台詞っぽいけれど、並べられた単語の内の幾つかは確実に法令的にアウトなものだ。好きだからといって、本当に好きにしていいとは限らない。
「まぁ、何処でどう線を引くかは個々人の自由裁量よね。外聞や法令に脅えて控えている人も少なくないでしょう?」
ボクの考えなんかお見通しとでも言いたげに八十島さんは付け加える。
「お酒や煙草もそうだけれど、自分の好きなものとどう付き合っていくか、ってのも含めて好きにしたらいいって話よ。「あの人が幸せならそれが一番」なんて感覚は、私には理解出来ないけれどね。
で、ミィーナはどう思う?」
「ふぇっ?」
突然の振りに慌てふためいた。何処かで意見を求められるんじゃないかとは思っていたけれど、それはあまりにも自然で、不意討ちだった。
言葉を継げないボクに、八十島が興味深そうに顔を覗いてくる。さっきまでボクも同じ顔を八十島さんに向けていたんだろうと思うと、ここでお茶を濁すのは不誠実に思えてしまう。キチンと答えたいと思えば思うほど深みに嵌まってしまって、言葉が出ない。結局、絞り出した答えは当たり障りも面白味の欠片もないものになってしまった。
「う~ん……好きなものは好きにしたらいい、ってのには、反対はしないよ。もちろん、法に触れない範囲での話だけれど。ただボクなんて恋愛経験乏しいから、この人じゃなきゃダメ!とか、何を差し置いてもあの人が!って感覚はボクには未知の領域かな?」
「いえ、あなたの恋愛観じゃなくって。真木さんはどうしたらいいと思う?って訊いているの」
確か真木さんは、八十島さんに相談に来た筈なんだけれど。真木さんと二人で顔を見合わせる。お互い声には出さなかったけれど、心の中では「え?ボク/この人が答えるの?」と台詞が被ってたことだろう。
「じゃあ、兎に角、少しずつ確認してみようか」




