↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第4章 薬屋の快挙とこれからの毎日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/94

6.実験の結果は

「それじゃ、麻酔をかけるわよ」

「はい、お願いします」


 ロゼはラットのケージに手をかざし、詠唱を始める。

 麻酔と言っても、もちろん薬品を注入して感覚を鈍らせるわけではない。

 その正体は、魔物の動きを鈍らせ反応を悪くする“鈍化(どんか)魔法“である。


 治癒魔法ほど珍しいものではないが、エレノアもレイモンドも専門魔法には詳しくない。

 だからロゼを呼んだのだが、その甲斐はあったみたいだ。

 さっきまでケージをガリガリ引っ掻いていたラットたちは一瞬でおとなしくなり、微睡(まどろ)みはじめる。


「よし、効いたかな。じゃあ失礼して……こんなもんか?」


 レイモンドは手際良く、動かないラットの背中に傷をつける。

 ラットは多少刺激を感じたような素振りを見せたが、抵抗することはなかった。


(よかった。魔法はちゃんと効いてる。あとは……これが、本当に効くかどうか)


 エレノアはレイモンドと入れ替わりに、ラットたちのうずくまるケージに近づく。

 彼らの背中を伝う赤々とした血を拭って、エレノアは薬を差し出した。


 いちばん右のケージに入ったラットには従来通りの、生の薬草を。

 真ん中のラットには薬草ビーフを。

 左の子にはラット本来の治癒力の基準を見るため、何も渡してあげられない。

 しかたなくゴワゴワしたその頭の毛を撫でて、エレノアは一歩下がる。


「眠たそうだけど、ちゃんと食べてますね」

「なるほど。マウントラットを使って傷の治りを確かめる実験ですか」

「はい。成功例が飛竜だけだと説得力に欠けますが、ラットは哺乳類……えっと、人間と同じ生殖方法をとる、身近な生き物です。人で試す前の参考になるかと」


 哺乳類という分類はこの世界にはない。

 魔物と人間はあくまで別の種族だと思われているはずだ。

 

 エレノアは慌てて言葉を取り繕いながら、ジュードの質問に答える。

 その後ろでレイモンドが訝しげに目を細めたことに、エレノアは気づいていなかった。


   *   *   *


「タウロス5頭って……あの人は何日ぶんの食事を作るつもりなんだ」

「バーベキューパーティーができちゃいますね。保管場所は大丈夫なんでしょうか」

「それもこっちに丸投げだ。俺は役人じゃないんだけどな」


 ぶつぶつと文句を言いながら、レイモンドは手元のタブレット端末を操作している。


 結論から言うと、実験は成功だった。

 薬の投与から30分経った時点で、それぞれのマウントラットの傷を観察する。

 薬草を食べたラットAの傷は、わずかな痕を残してほぼ完治。

 対してラットB——薬草ビーフを食べたラットの背中にはかさぶたができていた。


 何も食べなかったラットCの傷がまだ開きっぱなしの生傷だったことを思うと、薬草には及ばないにしてもかなりの効果だろう。

 さらに、薬草と同じように、加熱すればもっと効果が上がる可能性も見込める。

 ただの健康食品という言葉には収まらない、れっきとした回復食である。


(焼肉が体力回復の材料になるって、ゲームの世界みたいで不思議な感じ。思いついたのは自分だけど……)


 うまくいってほしいと思っていたのは事実だが、いざうまくいくと驚いてしまう。

 ぽかんとするエレノアをよそにレイモンドがノイヤール侯爵に連絡したところ、侯爵からは即座に短い返事が届いたそうだ。


「『5頭ほど買っておいてくれ。遠征で食べよう』って。まずどうやって遠征に持っていく気だ。それで誰が調理するんだ」

「上級騎士の悲しい役目ね、あの自由人と穏便に連絡取らないといけないんだから。バーベキューなら手伝ってあげるわよ」


 レイモンドの嘆きに、ロゼも同情している。

 エレノアですらノイヤール侯爵には振り回されているのだ、近くにいる彼らなら尚更だろう。

 かける言葉が見つからず、エレノアは苦笑いを浮かべることしかできなかった。


(でも……うまくいってよかった。侯爵を失望させていたら、レイモンド様はもっと大変な目に遭っていたかも)


 そう思ってホッとしていると、ジュードが3人の元にやってきた。


「皆様、本日はありがとうございます。今、すでに捌いた1頭とは別に、追加で4頭を精肉工房に手続きしてまいりましたが……他はいかがいたしましょう?」


 一同の視線がエレノアに集まる。

 あくまで責任者はエレノアだ。判断をするのも、エレノアの役目である。


「そうですね……本格的に売り出すのは、多分騎士団で効果が確認できてからになると思います。今まだ牧場にいるタウロスは、出荷までもうしばらく待てますか?」

「ふむ。不可能ではないですが……維持費もバカにならない。例年通り繁殖も行なうなら、餌代だって増加するのみになりますよ。それでもあとから元を取れるとのお考えですかな」

「はい、かまいません。絶対にタイミングが来ます」


 エレノアは頷いた。

 王都は流行がものを言う街だ。

 この1年間で何度も王都を訪れて、エレノアはそれを実感していた。


 まだエレノアの薬は流行っていない。

 知っている人は知っているし、騎士や冒険者の間では評判もよく、買い手もいる。

 けれどまだ、名前は轟ききっていない。


 薬草ビーフを売りたい相手は一般の騎士や冒険者ではなく、飲食店や精肉店を営む商売人たちだ。

 彼らに確実に売れると思わせられないと、今度こそ理解されずに無駄に終わってしまうだろう。


 だからこそ、タイミングを作る下準備が必要だ。

 デボラとの契約のこともあるし、エレノアだって、ただ時を待つだけのつもりではない。


「何か考えがあるみたいだな」


 レイモンドがニヤリと笑って立ち上がり、エレノアの肩を叩いた。

 エレノアはホッと顔を綻ばせてから、レイモンドの方を見て小さく頷く。


「はい。今回も聞いてくれますか、レイモンド様?」

「もちろんだ。できることはなんでもするって約束だろ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。