2.仲間たち
エレノアが商業ギルドで父と話をしているその頃。
薬屋では、デボラとロランが店番をしていた。
「店長、もっとショックを受けるかと思ったけど。元気そうだな」
「はい。むしろやる気に火をつけてしまったみたいで」
「よかったよかった。店長らしいよな、デボちゃんのために頑張ろうってのは。あ、いらっしゃいませー」
お客さんがやってきたことに気がついて、ロランは会話を切り上げる。
デボラも補助役として、カウンターの後ろに潜り込んだ。
ロランが注文を受けたものをそのまま紙袋に詰めていく。
在庫表に正の字を書くのは、エレノアに教わった在庫の数え方だ。
覚えるまで大変だろうけど、と言われてわけもわからず練習したが、なるほど、慣れてしまうと便利なものである。
(この仕事も今月で終わりと思うと、変な感じ……)
自分で辞めると決めておきながら、デボラは寂しさを持て余していた。
わき上がる不安をかき消すように、大きく首を振る。
心を決めたのはロランとその妹、ピュラと話したあと。
自分が思ったよりもすらすらと夢について話せたときに、夢を追わない理由がないことに気づいてしまったのだ。
(ダメダメ、がんばるって決めたんだから! 月末まではしっかり働いて、王都行きの資金も貯めなくちゃ!)
気合いを入れ直して、デボラは詰め終えた薬を手に立ち上がった。
「こちら、お薬になります。お大事に」
「お大事にー! ……デボちゃん、大丈夫?」
お客さんを見送ったとたんに、ロランは心配そうにデボラを振り返った。
心を見透かしたような彼の態度に驚きつつ、デボラは苦笑する。
「え……バレちゃいましたか。実は、ちょっと不安です」
「まぁ、そうだよな。生まれ故郷を離れるわけだし」
「でも大丈夫です。エレノアさんとはこれからもやりとりが続きそうですし、その……ロランさんが応援してくれてるのも、伝わってるので」
改めて言葉にすると照れくさくて、デボラは視線を彷徨わせながら言った。
ロランも頭を掻いて、目を逸らす。
「そ、そりゃ〜当然? デボちゃんは戦友、みたいなもんだし。どこにいたって、応援してるけど……」
「うんうん、私もおんなじだよ!」
「だろ……って、店長!? びっくりしたぁ!」
いつの間にか裏口から帰ってきていたエレノアが、ロランの言葉に元気よく同意する。
店の中を流れていた生暖かい空気が、一瞬で霧散していった。
「おかえりなさい、店長。ギルド、どうでした?」
「思ったより協力的で、いろいろお願いしてきちゃった。求人も父さんの方で出してくれるし、薬を作るためだけの工房も追加で借りたらどうかって、物件探してくれるみたい。だからデボラちゃんを胸張って王都に送り出せそうだよ」
「よかったです。すみません、お手数かけて」
「全然! これまでたくさん協力してもらったもん、これでもお返しにならないくらい」
ロランを置いてけぼりにして、デボラとエレノアの会話は流れるように続いていく。
水を差すつもりはないが、ロランは一人天井を仰いだ。
「いい雰囲気だったよな、今……」
「ロランさん、どうかした?」
「いや……店長はいいっスよ、そのままで……」
* * *
フェルノースは冬になると雪が多い。
山に囲まれていることもあり、国内でも有数の豪雪地帯だ。
(もうこんなに雪の季節かぁ。忙しすぎて時間の感覚がおかしいや)
真っ白になった窓の外を見て、エレノアはため息をついた。
ここ最近、毎日が飛ぶように過ぎていく。
このままでは、年も気づけば明けてしまうことだろう。
「店長ー。新人の方、いらっしゃってますよー」
「はーい、今行きます!」
店番をしてくれているキャシーの声が、2階のエレノアを呼ぶ。
年明けと同時にデボラは王都に行くことに決まった。
だからそれまでに、彼女の抜けた穴を埋めるために新規採用を強化中だ。
今日も研修の予定が午前に一つ、午後に一つ。
エレノアは階段を駆け降りて、新しい仲間を迎えにいく。
「こんな雪のひどい日に来させてごめんね。店長のエレノアです。これからよろしくお願いします」
「ハイ、よろしくお願いします! 王都にも通用する新時代のお店だって聞いて、働けるのを楽しみにしてきました!」
元気よく答えるのは学生らしい、若くて元気のある男の子だ。
新時代のお店、というのはおそらくギルド長にでも言い含められた褒め言葉だろう。
勢いに圧倒されながらも、エレノアは笑顔を浮かべる。
「ありがとう。それじゃあ、奥で仕事の説明をしますね」
毎日こんなことをしていると、大社長にでもなった気分だ。
少なくとも、これまで自分たちの力でこぢんまりとやってきたのとは全然違う。
背筋を伸ばして店の中を案内しはじめるエレノアのことを、キャシーが穏やかな眼差しで見つめていた。




