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おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第3章 薬の秘密と王都の煌めく夜

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19.投資と勝機

 エレノアではなく、一般の人々でもなく、牧場の職員たちのメリット。

 尋ねられて口ごもるエレノアに、ジュードは言い募る。


「あぁいや、何も頭ごなしに否定したいわけではありません。ただ、投資にはやはり勝機が必要でしょう」

「勝機、ですか」

「はい。おそらくシグルド様はそれをあなたに感じたから、貸与証をお書きになった。しかし我々はまだ感じておりません。そしてタウロスの餌の加工は、シグルド様ではなく、我々が行う投(・)資(・)です」


 ジュードの言いたいことはわかる。

 エレノアだって、人のやりたいことのために意味もなく何時間も働かされたら、納得いかないと思う。

 

 エレノアの脳裏に浮かぶのは、やはり故郷にいる仲間の顔だった。

 みんなだってエレノアのわがままのために協力してくれる。

 お金を払って雇っているから、だけじゃなくて、エレノアのしていることがいいことだって、信じてくれているから。

 

 だからこそ、ただ薬屋のことや、薬草ビーフの構想を説明するだけではいけないと、直感的にわかった。


(インパクトのある話をして、心を掴まないと。流されてやるんじゃなくて、私自身がこの道を選んだんだから!)


 息を吸い、エレノアは頭の中の言葉を整える。

 そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「じゃあ……誰でもおいしく食べられるタウロスを育てる、って言い換えたらどうでしょうか」

「ほう?」


 ジュードは眉をひそめるが、エレノアは臆さず続ける。


「ここのタウロスは王都に運ばれて、食材になりますよね。でも王都には、体調の問題で牛肉を食べられない人がいるかもしれません。重い病気で食事制限をしていたり、免疫が弱くて動物性のものを食べるとお腹を壊してしまったり」

「あり得ますね。治癒魔法があるとはいえ、一朝一夕で治らぬ病もあるでしょう」

「そんな人たちにも食べられる……それどころかむしろ、薬になるかもしれない! この牧場の魅力が、今まで伝わっていなかったところまで伝わって、誰かを救うかもしれないんです!」


 気づけばエレノアの声は大きくなって、上擦っていた。

 今話したことは、エレノア自身の思う薬(・)を(・)作(・)る(・)意(・)味(・)でもある。

 体が弱かったり何か事情があったりしても、ふつうにおいしいものを食べて、ふつうに過ごせる人が一人でも増えるように。

 エレノアの願いが通じたように、ジュードは深く頷いた。

 

「……なるほど」

「ど、どうでしょうか。今ので説明になっていましたか?」


 言い切ったはずがすぐ弱気になってしまう。

 エレノアがおどおどと問いかけると、ジュードは詰めていた息を緩めて、笑った。


「ええ。納得しました。私の方から、皆に説明しておきましょう」


   *   *   *

 

「……ありがとうございます、レイモンド様」

「何がだ?」

「前に、王都にも悩みがあるはずだ、って教えてくれましたよね。そのおかげで今日、うまく話せました」


 あるとしたらどんな悩みか、エレノアはどうやってそれを救えるか。

 落ち着いて考えられたおかげで、ジュードの問いに答えることができた。

 

 レイモンドは照れくさそうに目を細めて、頭を掻く。


「何気なく言ったことだったけど、君の決断の助けになったならよかったよ」

「はい! いつも、何度も道を示していただいて……」

「大袈裟だよ。今日のも多分……いや、いいか」


 レイモンドはチラリと背後の管理棟を振り返る。

 

 先ほどジュードがエレノアに質問をふっかけたのは、おそらく本気ではなかっただろう。

 彼らがどう感じようと、シグルド宰相が決めたことに異を唱えられるような権利はない。

 渋々仕事をするか、気持ちよく仕事をするかの二択である。

 

 レイモンドはそれに気がついていたが、うまく行ったのだから、掘り起こす必要もないと考えて口をつぐんだ。


「では、すみませんが最後にもう一導き……フェルノースまでの運転、お願いします」

「おう。任せとけ」


 二人は何度目かの魔導車に乗り込み、旅の終わり、フェルノースへの帰郷を目指した。



   *   *   *


 フェルノースにつく頃には夕方だった。

 ちょうど、仕事終わりの人々が街を行き交いはじめる時間。


 とはいえ薬屋は一昨日から3日間、臨時休業中だ。

 エレノアとレイモンドは裏口から建物に入り、バタバタと荷物を片付けていた。

 

「荷物2階でいいかー?」

「はい、階段登ってすぐに置いて……わあっ!?」


 バックヤードに入るなり、エレノアは素っ頓狂な声をあげた。

 窓から入る夕暮れの光だけがあたりを照らし、明かりはついていない。

 その部屋の中に、人影があったのだ。


(何、泥棒……!? でも私、鍵を閉めて出たはず……)

 

 一瞬肝が冷えたが、立ち上がったその人の姿を見てエレノアはホッと息をついた。

 そこにいたのはデボラである。


「なんだ、デボラちゃんか。でもどうしたの?今日まで店はお休み……」


 エレノアの声が萎む。

 デボラは何か一大決心をしたような、覚悟の決まった真剣な顔で、汗を浮かべてエレノアの顔を見つめていたのだ。

 

 何かある、と思って固まるエレノアに向けて、デボラは封筒を突きつけた。


「わ、私……すみません。お店、辞めたいです!!」

「え——」


 突然の宣言。そして、手渡された封筒に書かれた『退職願』の文字。

 思ってもみなかったそれが、帰郷直後のエレノアを前に、重く立ち塞がった。

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