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おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第3章 薬の秘密と王都の煌めく夜

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17.冒険者とレイモンド

 冒険者ギルドは活気に溢れていた。

 

「武器屋は隣の建物だけど、中から繋がってるんだ。酒場を通るから、はぐれないようにな」

「はい……って、わぁ! すごい人……!」


 はぐれるなんて子どもじゃないんだから、と一瞬思ったエレノアだが、すぐに意識を改める。

 立ち飲み形式の酒場は、まだ日も落ちていないというのに飲んだくれる人々でごった返していた。


「お? おい、レイモンドじゃねえか!! てめえら、おもしれえヤツが来たぞォ!」

「あ、ヤベッ」


 飲んでいた髭面の冒険者がレイモンドの姿に気づき、声を上げる。

 すると一瞬で、レイモンドの周りには人だかりができた。


「えっ? え、みなさん一体……」


 エレノアは一瞬、乱闘でも始まるのではないかと身構えた。

 しかし冒険者たちがレイモンドに向けるのは、親愛と尊敬のこもった目線だ。

 

「レイモンドォ。お前、いつまで国の犬やってんだ? さっさとうちのパーティに入れよ、気楽で楽しいぜ?」

「いや、こいつンとこはダメだ! 男臭くって気が滅入る! その点うちはいいぜ? 気は強ぇがたわわな美女ばっかり厳選した、夢のヤリパ——」


 ——ゴチンッ。

 レイモンドを取り囲んで勧誘を始めた男たちの頭上に、鈍い拳が落ちる。


「ったく、アンタらは! 酒場通り抜けようとしたギルドのお客様、勧誘しようってどういう了見よ!?」

「ッテェ……ラッキーちゃん……」

「この拳は愛の重みだ……ぐう」


 冒険者たちは頭を抱えながら、あっさりと道を開けてくれた。

 彼らの後ろには、ラッキーと呼ばれた女性。ギルドの制服を身につけている。

 彼女はレイモンドに向けて満面の笑みを浮かべ、さっきとは大違いの甘い声で言った。


「さて、いらっしゃいませレイモンド様♡ 騎士団辞めて、ギルドに登録していきません?♡」

「君もか…………」


 レイモンドの能力は、冒険者にとっても大層魅力的らしい。

 ラッキーの猫撫で声に、レイモンドはガックリ肩を落とした。


「……今日は武器屋に視察に来たんだ。近く、ノイヤール侯爵お墨付きの薬を売り出すだろ」

「ああ、あれ……。はっ、ではもしかしてそのお隣で縮こまっているいかにも田舎っぽい女性は……!」

「う。え、エレノアと申します。薬を作っています……」


 田舎っぽいと言われた。しょんぼりしながらも、これから薬を売ってくれる商売仲間になるのだからと、エレノアはおずおず頭を下げる。

 ラッキーはエレノアの姿を爪先から頭のてっぺんまでじっくり見つめ、鼻を鳴らした。


「薬草より効果が高くて、治癒魔法のない状況でも対応できる……でしたっけ。レイモンド様も愛用されているとか?」

「あぁ。売れるといいんだが、君の所見はどうかな」

「きっと売れますよ♡ と言いたいところですが。高難度の任務には最初から治癒師の同行が必須。治癒師のいない状態を想定して備えるパーティがどれだけあるか……」


 そこで言葉を一度切り、ラッキーはエレノアの肩をポンと叩いた。

 励ますような仕草だったが、そこに友好的な感情がないのは彼女の表情を見ればすぐにわかる。


「作る人のセンス次第ですかねぇ? 本当に、レイモンド様愛用って謳い文句につり合うのかどうか……」

「……たっ、楽しみにしててください。きっと驚かせてみせますから!」


 肩に乗った手を払いのけ、ニヤニヤとあくどい笑みを浮かべるラッキーを見つめ返す。

 なんだか無性に、負けたくないと思ってしまった。

 柄にもなく眉をキリッとさせて宣言したエレノアに、レイモンドも笑みを深める。


「いいな、その意気だ。俺は全力で応援するぜ! ラッキーも、俺が勧めてたってたくさん宣伝しておいてくれよ」


 おそらくラッキーから寄せられる想いのことなど全く気に留めていないレイモンドは、眩しいまでの笑顔で言った。

 ラッキーは悔しそうに歯噛みしながら、ぺこりと慇懃に頭を下げたのだった。



「これで視察は終わりだな。実際の売り場を見せられなかったのは残念だが……どうだった?」


 “ベンディハウス”、地下駐車場。

 停めたままにしていた魔導車に乗り込むと、レイモンドはエレノアに尋ねた。


「冒険者の間では、売れてくれそうだと思いました。酒場で財布の紐が緩む方も多いでしょうし、レイモンド様の人気もわかったので」

「ハハ……本当、騎士団仕事で行くたびああやって絡まれて困るよ……」

「ふふっ、大変ですね。……それから“ベンディハウス”の売り場は、正直あまり想像がついていません。フェルノースと違いすぎて、誰が薬を手に取ってくれるんだろうって」


 レイモンドは車を発進させる。地下を出ると、空はちょうど夕暮れの色に染まっていた。


「フェルノースみたいに腰の曲がった老人がいたり、怪我の多い仕事をする職人がいたりってわけじゃないからな、ここは」

「はい。お買い物をされている方はみんな若々しくて、健康そうで。薬のいらない環境であるなら、それに越したことはないんですけど……薬屋としては、自信がなくて」

「ふむ。ちょっと、車を走らせていいか?」


 レイモンドはアテのないドライブを提案する。まだ夜までは時間があるし、エレノアは頷いた。

 凹凸のない、整備された道を魔導車はスルスルと走っていく。

 揺れもなく、スピードも現代日本の自動車よりずっと速いだろう。

 目まぐるしく変わっていく車窓からの景色を、エレノアは何気なく見つめていた。


「あ、あれ。あそこが王都の神殿だ」

「ホテルからも見えるんですが、すごく大きいですよね。それに夜中もずっと明かりがついてる」

「ああ。王都では、フェルノースみたいに治癒師が不足してるわけじゃないからな。朝でも夜でも、平日でも休日でも行けばすぐに治癒を受けられるし、待ち時間も短いんだ。それに、神殿より安く傷を治す野良の治癒師もいる」

「そんなに人材が豊富なんですか? 羨ましい……」

「はは、フェルノースと比べるとそうだよな。健康な人が多く見えるのは、そういう理由だろう」


 フェルノースでは、金の瞳の子どもが生まれるのは数年に一度。

 治癒師の素質がある彼らは街をあげて誕生を喜ばれ、すぐに神殿に移り住むことになる。

 エレノアにはホリーという治癒師の幼馴染がいるからこそ、その暮らしの制約の多さはよく知っている。

 それに比べて、王都では余るほど治癒師がいるらしい。

 

「さっきギルドでも聞いただろ? 冒険者のパーティに同行するのも野良治癒師だ。この前の遠征にいたガリアさんとかもそうだな。神殿での治癒師教育を受けていないってだけで、使える魔法は同じだからな」

「へぇ。では、治癒師にかかりにくいから薬で治そう、と考える人はやっぱり少ないってことですよね」

「だな。でも、王都には王都できっと人の悩みがあるはずだ。真に誰もが健康で幸福な都市なんて、夢物語すぎるだろ?」


 車は神殿の横を通りすぎ、次は昨日訪れた王城が景色の奥に見えてくる。

 神殿から王城へ向かう大通りは、アーケードになっていた。魔導車の速度を落とし、その下を進む。


 王都の車道はどこも高架になっている。車道の端には、歩道へと降りる長い階段がついていた。

 そして階段の先には、煌びやかな店々が軒を連ねている。

 どの店も軒先にイルミネーションを飾りつけた造花を置いていて、まるで夜闇の中に花のランタンが浮かんでいるようだった。


「綺麗……!」

「花通りって言うんだ。もう何百年も歴史のある、王都の観光スポットだな」

「すごいです。非日常っていうか、旅行に来た感じ……!」


 この世界にきて、西洋風の街並みには慣れたと思っていたが。

 きらめく商店街を、上から車で見下ろす経験はまだしたことがなかった。

 エレノアは窓に顔を寄せて、眼下の光景を見下ろす。


(でも、こんなにキラキラした王都にも。きっと人の悩みはたくさんある。私に解決できるものも、あるのかな……)


「レイモンド様。私、考えてみます。王都のこと……ここで私にできることって、なんなのか」

「ああ。目標が決まったら、俺にもたくさん手伝わせてくれよ」


 暮れていく太陽を背に、魔導車は走っていく。

 滲みだすイルミネーションの光を見ながら、エレノアの胸は新たな予感に高鳴っていた。

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