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おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第3章 薬の秘密と王都の煌めく夜

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16.王都進出の展望

 ぶっきらぼうなくせに過保護な父親と、勝ち気で厳しい母親。

 その間に生まれたひとり娘のデボラは、二人に振り回されながら育ってきたと自覚している。

 けれどその生活が、デボラは嫌いではなかった。

 

 工房の食堂を手伝いはじめたのは、10歳のときだ。

 料理は楽しいし、性に合っていた。工夫すればするほど、味が良くなって返ってくる。

 けれど時が経つにつれて、工房の人たちが自分を評価しているのか、デ(・)ィ(・)エ(・)ゴ(・)親(・)方(・)の(・)娘(・)を評価してるのか、わからなくなっていった。

 

 12歳のとき、母にだけ悩みを打ち明けたことがある。

 母は困ったように笑ったあと、あっけなく答えた。

 

「悩むようなことかね。世界中の人間がディエゴのこと知ってるわけじゃないんだから。あの人が有名なのは、せいぜいこの街ん中だけよ」

「じゃあ街を出たら、本当の私を見てもらえる?」

「見てもらえるような輝きがあったらね。そうだ、あんたも大きくなったら王都に来なよ」

「あんた“も”……?」


 母はそこで会話を切り上げた。

 不思議に思ったのも束の間。翌朝起きたときにはもう、その言葉の意味がわかる。


「マルタが出ていった! 誰か見てねえか!」

「……!」


 いつも言葉足らずで仕事優先の父に辟易した母、マルタは、ある日突然、家財と工房のお金の一部を盗んで失踪した。

 王都に行ったことは予想がついたが、デボラは誰にも言わなかった。



「……あのとき母さんに、来なよって言われちゃったから。立派な私になって、会いに行きたいんです」

「なるほど……。そんな事情が」

「それに、ディエゴの娘としてじゃない自分がどこまでやれるかっていうのは、今も気になってます。エレノアさんの元で働いて、こう見えて結構自信がついてきましたから!」


 デボラは強がりも含めて、つん、と鼻を高く上げた。

 ロランは釣られてにこりと笑う。


「じゃあ店長の次は、デボちゃんが王都進出だな!」


   *   *   *


「王都進出……デボラちゃんならどう言うだろう……」

「あー、確か彼女は王都でレストランをやりたいんだったか。提案してみてもいいんじゃないか?」

「ですね。でも……」


 エレノアはマカロニビーフサンドをかじりながら、考え込む。

 

(デボラちゃんはお店のことを気に入ってくれているみたいだし、頑張ってくれてる。けど、彼女の本当にやりたいことは……)


 デボラは料理人志望だと、最初から聞いていた。

 薬屋はあくまで接客に慣れるためのアルバイトみたいなもので、夢は別にあるのだ。

 一緒に王都に行こうと誘えばついてきてくれるかもしれないが、それが彼女の本当に望むことだろうか。


(デボラちゃんも、私も。本当にしたいことをすべきだ……だからやっぱり、流されるのは……って)


 そこまで考えて、エレノアはハッとした。

 口の中身をごくりと飲み込み、慌てて顔を上げる。 


「す、すみません考え込んじゃって! せっかくおいしいものを食べているのに、ジメジメしてちゃダメですよね!」

「ふっ。考え込むのは別にいいけど、明るい顔しててくれた方が確かに俺は嬉しいな」

「え……は、恥ずかしいこと言いますね……」


 驚いて、飲み込んだパンが変なところに入りそうになったのは内緒だ。



 腹ごしらえが終わると、いよいよ薬を置いてもらう店の視察だ。

 といってもまだ発売日を迎えていないらしく、実際に店先に薬が並んでいるところは見られない。

 つい昨日納品したばかりなので、しかたないだろう。


 フロアを3つ上がって2階、日用品店。現代日本でいうホームセンターに近いだろうか。

 家具に雑貨、武器や防具まで揃っているのが異世界らしさを醸し出していて、エレノアはきょろきょろと棚を見渡しながら歩いた。


「広いですね……それに、なんでもある。この店の一角に薬を置いたところで、お客さんに見つけてもらえるでしょうか」

「先に薬の評判が上がらないと、かな。俺が言うことでもないが、騎士団のことを知りたがるマニアもいる。そういう人はわざわざ探しにくると思うぜ」

「へぇ……」


 次の店は高層階だ。

 10階まで魔導昇降機(エレベーター)で上がると、途端に店々の雰囲気が変わる。

 ブティックではセレブそうなおばさま、おじさまたちが優雅に買い物を楽しんでいた。


「ここはオーガニック素材の服飾品と食べ物を取り扱ってる。二つ店が繋がってるんだ。食べ物はあっち」

「お漬物や干物……野菜も全部有機栽培なんですね!」

「ああ。ここなら薬草に興味のある人も多そうだろ? それぞれレジ横に陳列予定だってさ」


 ここはノイヤール侯爵が懇意にしている店で、直々に売り込んでくれたらしい。

 それだけ期待されているということだと思うと、背筋が伸びた。


「“ベンディハウス”の中ではこの2店舗で売るみたいだ。いわゆる一般人向けだな。そして最後……かつ、本命の店はここからちょっと歩くぞ」

「はい。確か……冒険者ギルド、でしたっけ」


 事前に受け取った資料を思い浮かべ、尋ねる。

 レイモンドは頷き、簡潔に説明をしてくれた。


「厳密には、ギルドの隣にある武器屋だ。冒険者は簡単に言えば、騎士と同じような任務を個人で受注する傭兵みたいなもの。薬の需要は騎士団と同じだけあるだろうって見込み」

「だから本命ですか。フェルノースには商業ギルドしかないので、どんな場所か楽しみです」

「あー……そうだな。できるだけ、穏便に行けるといいんだが」


 レイモンドはぽつりと不穏な呟きを漏らす。

 エレノアが詳しく聞き返すより早く、二人は悪趣味に輝く魔法石造りの砦に辿り着いた。

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