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おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第3章 薬の秘密と王都の煌めく夜

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15.夢のコラボレーション

「まずは……あそこだな。厳選した牛(タウロス)の肉を安くで食べられる名店、《ブフ・シャトー》。ローストビーフは好きか?」

「はい。ごちそうって感じですね!」


 レイモンドは迷いなく人混みを縫っていく。

 なんとかはぐれないようについていくと、レイモンドはもう注文の列に並んでいた。


「ローストビーフ2つ、単品で」

「はい、こちらでお渡ししますね」

「あれ、セットにしないんですね。お得そうなの、書いてありましたけど……」


 注文カウンターの前に置かれたメニューを見て首を傾げる。

 しかしレイモンドはニヤリと口角を上げるだけで、深く説明しない。

 

「ついてくればわかるさ」


 ローストビーフだけがちょこんと載ったトレイを受け取り、レイモンドが流れるように向かうのは隣の店だ。


「チーズクリームのマカロニパスタ、単品2つ」


 そして最後はパン屋へ。


「極大フォカッチャ2点ですね。700ゴールド、ちょうど頂戴いたします」

「ありがとうございます」


 ずっしりとトレイが重くなる。

 レイモンドが選んだフォカッチャは、どちらかというとナンに近い。

 ふかふかで、分厚くて、何よりその大きさにエレノアは驚いた。


(これは、他の店でセットにしないわけだ)


 ちょうど近くに空いている席があったので、そこに座る。

 レイモンドはうきうきした顔で自分のトレイに向き合った。


「ってわけで、俺が教えるフードコートの楽しみ方はこれだ。各店のスペシャリテを一皿に集めて……こう!」

「おおっ」


 広げたフォカッチャの上に、マカロニパスタを思いのまま盛り付ける。

 その上にローストビーフを美しく並べ、仕上げにソースをかければ完成だ。


「黄金レシピ、マカロニビーフサンドだ。綺麗な食べ方とは言えないが、ここならテーブルマナーを気にする必要もないだろ?」

「はい。いただきます……!」


 レイモンドがしたように、見様見真似でサンドを作る。

 手を動かしている最中もソースとチーズのいい匂いが鼻腔をくすぐって、エレノアのお腹はぐうぐううるさく鳴っていた。

 チーズソースがはみ出して不恰好だが完成したそれに、満を持して被りつく。


「……! おいしい……!」

「だろ? こうやってハシゴする前提で、隣同士でコラボ商品を出してる店もある」

「へぇ……ではライバル店でありながら、協力も必要ってことですね」

「そうだな。ただ孤高にうまいものを突き詰めるだけじゃなくて、工夫を凝らして人を喜ばせたい。そのへんのバランス関係が大事だと思うよ」


 素人の意見だが、とレイモンドは小さく付け加える。

 エレノアの頭に浮かぶのは、薬屋を支えてくれている仲間のことだ。

 

(デボラちゃんも、王都で自分の店を持つことを目標にしてた。人を喜ばせることを考えて誰かと協力するっていうのは、ぴったりだと思うけど……どんなお店を目指しているんだろう)


 辺境生まれだからこそ、王都に多少なりとも憧れがあるのはエレノアもデボラも同じだ。

 エレノアの薬が王都に広まったら、次は彼女の番だろう。

 出会ってから半年ほど経ち、今や大切な戦友となったデボラの夢に、エレノアは思いを馳せた。


   *   *   *


「……くしゅん!」


 ところ変わって、フェルノース。

 カフェでまったりと休日を満喫していたデボラは、小さくくしゃみをした。

 

 エレノアから言い渡された、3日間の休日。

 何をしようかと最初は迷ったが、いざ休んでみるとやりたいことはたくさんあった。

 今日は商業ギルドに新しくできていたカフェに、市場調査に来ている。


「アイスの載ったパフェで体が冷えたかな。この寒い季節に、暖房の効いたカフェで食べるアイスが最高なんだけど……」

「うわ、それ超わかる。デボちゃん、さすがのセンス!」

「わぁっ!? ろ、ロランさん!?」


 背後からかかった声に驚いて、デボラは椅子から腰を浮かせる。

 店に入ってきたのは、背の小さくて細い女の子を連れたロランだった。


「……奇遇ですね、こんなところで会うなんて」

「まあ、狭い街だからね。でもよかった、デボちゃんがいるならこの店は当たりだな」

「えっ……ふふ。味覚を信頼してもらえて嬉しいです。そしてそちらは、も、もしかして」


 ロランのまっすぐな褒め言葉に、思わず頬が緩んでしまった。

 表情を取り繕いながら、デボラは視線をロランの隣にいる女性の方に移す。


「ああ。ときどき話題に出してる妹のピユラだ」

「やっぱり! 今は外も歩けるくらいなんですね。私、ロランさんと同じ職場で働いています、デボラと申します」

「はじめまして。兄がいつもお世話になってます」


 ぺこり、と頭を下げるピユラは小動物のような可愛らしい少女だ。

 歳はデボラと同じくらいだろうか。

 彼女となら気兼ねなく話せる気がして、デボラは穏やかな表情を浮かべた。


「最近、体の調子がよくてさ。エレノア先生の薬を持ち歩けるおかげで、外出先で何かあっても対応できるし、こうやってときどき出歩いてるんだ」

「なるほど。きっとエレノアさんが聞いたら喜びますよ」

「ふふ、そうでしょうか。デボラさんもお薬作りをしてるんですか?」

「あ、はい、でも私は……」


 ピユラの質問に、デボラは言葉に詰まる。

 料理人を目指していることは隠していないが、ここ最近は薬屋の忙しさにかまけて、全然料理なんてできていない。


「デボちゃんは料理人を目指してるんだぜ。だから食のセンスにも信頼がおけるんだ」

「あぁ、だから兄さんさっきそう言ったのね。すごいです。いつかレストランをやるんですか?」

「うん。独立してお店を持ちたいの。このフェルノースでもいいけど……できれば、王都で」

「王都!」


 言葉に詰まっていたら、ロランに先に言われてしまった。

 隠すのも変なので素直に答えると、瞬間、ピユラの目がぱっと輝く。


(あ……そっか。確か小さい頃から、ずっと神殿暮らしだったんだよね)


 だから、ピユラはなおさら王都に憧れがあるのだろう。

 隣でロランが苦笑しながら顎に手を当て、尋ねる。


「それ、前から気になってたんだよ。王都に行きたい理由とか、あるの?」

「ぁ……はい。もともと、料理を好きになったのは母親のおかげなんですけど……」


 思えば自分の過去の話は、ほとんど話してこなかった気がする。

 ロランに促され、デボラは懐かしい、少し苦い思い出について話しはじめた。

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