15.夢のコラボレーション
「まずは……あそこだな。厳選した牛の肉を安くで食べられる名店、《ブフ・シャトー》。ローストビーフは好きか?」
「はい。ごちそうって感じですね!」
レイモンドは迷いなく人混みを縫っていく。
なんとかはぐれないようについていくと、レイモンドはもう注文の列に並んでいた。
「ローストビーフ2つ、単品で」
「はい、こちらでお渡ししますね」
「あれ、セットにしないんですね。お得そうなの、書いてありましたけど……」
注文カウンターの前に置かれたメニューを見て首を傾げる。
しかしレイモンドはニヤリと口角を上げるだけで、深く説明しない。
「ついてくればわかるさ」
ローストビーフだけがちょこんと載ったトレイを受け取り、レイモンドが流れるように向かうのは隣の店だ。
「チーズクリームのマカロニパスタ、単品2つ」
そして最後はパン屋へ。
「極大フォカッチャ2点ですね。700ゴールド、ちょうど頂戴いたします」
「ありがとうございます」
ずっしりとトレイが重くなる。
レイモンドが選んだフォカッチャは、どちらかというとナンに近い。
ふかふかで、分厚くて、何よりその大きさにエレノアは驚いた。
(これは、他の店でセットにしないわけだ)
ちょうど近くに空いている席があったので、そこに座る。
レイモンドはうきうきした顔で自分のトレイに向き合った。
「ってわけで、俺が教えるフードコートの楽しみ方はこれだ。各店のスペシャリテを一皿に集めて……こう!」
「おおっ」
広げたフォカッチャの上に、マカロニパスタを思いのまま盛り付ける。
その上にローストビーフを美しく並べ、仕上げにソースをかければ完成だ。
「黄金レシピ、マカロニビーフサンドだ。綺麗な食べ方とは言えないが、ここならテーブルマナーを気にする必要もないだろ?」
「はい。いただきます……!」
レイモンドがしたように、見様見真似でサンドを作る。
手を動かしている最中もソースとチーズのいい匂いが鼻腔をくすぐって、エレノアのお腹はぐうぐううるさく鳴っていた。
チーズソースがはみ出して不恰好だが完成したそれに、満を持して被りつく。
「……! おいしい……!」
「だろ? こうやってハシゴする前提で、隣同士でコラボ商品を出してる店もある」
「へぇ……ではライバル店でありながら、協力も必要ってことですね」
「そうだな。ただ孤高にうまいものを突き詰めるだけじゃなくて、工夫を凝らして人を喜ばせたい。そのへんのバランス関係が大事だと思うよ」
素人の意見だが、とレイモンドは小さく付け加える。
エレノアの頭に浮かぶのは、薬屋を支えてくれている仲間のことだ。
(デボラちゃんも、王都で自分の店を持つことを目標にしてた。人を喜ばせることを考えて誰かと協力するっていうのは、ぴったりだと思うけど……どんなお店を目指しているんだろう)
辺境生まれだからこそ、王都に多少なりとも憧れがあるのはエレノアもデボラも同じだ。
エレノアの薬が王都に広まったら、次は彼女の番だろう。
出会ってから半年ほど経ち、今や大切な戦友となったデボラの夢に、エレノアは思いを馳せた。
* * *
「……くしゅん!」
ところ変わって、フェルノース。
カフェでまったりと休日を満喫していたデボラは、小さくくしゃみをした。
エレノアから言い渡された、3日間の休日。
何をしようかと最初は迷ったが、いざ休んでみるとやりたいことはたくさんあった。
今日は商業ギルドに新しくできていたカフェに、市場調査に来ている。
「アイスの載ったパフェで体が冷えたかな。この寒い季節に、暖房の効いたカフェで食べるアイスが最高なんだけど……」
「うわ、それ超わかる。デボちゃん、さすがのセンス!」
「わぁっ!? ろ、ロランさん!?」
背後からかかった声に驚いて、デボラは椅子から腰を浮かせる。
店に入ってきたのは、背の小さくて細い女の子を連れたロランだった。
「……奇遇ですね、こんなところで会うなんて」
「まあ、狭い街だからね。でもよかった、デボちゃんがいるならこの店は当たりだな」
「えっ……ふふ。味覚を信頼してもらえて嬉しいです。そしてそちらは、も、もしかして」
ロランのまっすぐな褒め言葉に、思わず頬が緩んでしまった。
表情を取り繕いながら、デボラは視線をロランの隣にいる女性の方に移す。
「ああ。ときどき話題に出してる妹のピユラだ」
「やっぱり! 今は外も歩けるくらいなんですね。私、ロランさんと同じ職場で働いています、デボラと申します」
「はじめまして。兄がいつもお世話になってます」
ぺこり、と頭を下げるピユラは小動物のような可愛らしい少女だ。
歳はデボラと同じくらいだろうか。
彼女となら気兼ねなく話せる気がして、デボラは穏やかな表情を浮かべた。
「最近、体の調子がよくてさ。エレノア先生の薬を持ち歩けるおかげで、外出先で何かあっても対応できるし、こうやってときどき出歩いてるんだ」
「なるほど。きっとエレノアさんが聞いたら喜びますよ」
「ふふ、そうでしょうか。デボラさんもお薬作りをしてるんですか?」
「あ、はい、でも私は……」
ピユラの質問に、デボラは言葉に詰まる。
料理人を目指していることは隠していないが、ここ最近は薬屋の忙しさにかまけて、全然料理なんてできていない。
「デボちゃんは料理人を目指してるんだぜ。だから食のセンスにも信頼がおけるんだ」
「あぁ、だから兄さんさっきそう言ったのね。すごいです。いつかレストランをやるんですか?」
「うん。独立してお店を持ちたいの。このフェルノースでもいいけど……できれば、王都で」
「王都!」
言葉に詰まっていたら、ロランに先に言われてしまった。
隠すのも変なので素直に答えると、瞬間、ピユラの目がぱっと輝く。
(あ……そっか。確か小さい頃から、ずっと神殿暮らしだったんだよね)
だから、ピユラはなおさら王都に憧れがあるのだろう。
隣でロランが苦笑しながら顎に手を当て、尋ねる。
「それ、前から気になってたんだよ。王都に行きたい理由とか、あるの?」
「ぁ……はい。もともと、料理を好きになったのは母親のおかげなんですけど……」
思えば自分の過去の話は、ほとんど話してこなかった気がする。
ロランに促され、デボラは懐かしい、少し苦い思い出について話しはじめた。




