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おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第3章 薬の秘密と王都の煌めく夜

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14.流行の終着点

「前にも来たが、改めて。“ベンディハウス”は王都イチの商業施設だ。一つの建物の中にあらゆるジャンルの名店が揃っていて、ここに来れば買えないものはないと言われるほどだ」

「このブレスレットを買っていただいたところですよね。でも前は宝飾店にまっすぐ向かったので、他のフロアは見ていませんでしたっけ」


 魔導車の中。

 窓から見える建物を指差して、レイモンドは説明する。

 

「ああ。あの宝飾店があった12階でもいくつか店はあったが、“ベンディハウス”の真髄はあんなものじゃない。高層階に行くほど店の格……つまり売ってるものの値段だな。それが上がって、店の数は少なくなっていく。建物が三角錐の形をしているのはそういうことだ」

「へぇ……ということは、低階層には……」

「安い店が大量! 庶民の味方でもあるんだ、ここは」


 地下にある駐車場に魔導車を停めて、建物に入る。

 魔法石のメッキがかかってキラキラ光る外壁と、ピラミッド型の建物は、周りのビル群と比べてもかなり異質だ。

 しかし中に入ると、そこに広がるのはエレノアにとってそう珍しくない光景である。


(食べ物の匂いとお店の活気、それから興味深そうにきょろきょろするお客さんの姿。まさしくデパ地下……!)


 右を見ればお惣菜、左を見ればスイーツ。

 香ばしい匂いと甘い香りが、交互に鼻腔をくすぐる。


「以前来たフロアとは全然違いますね……わっ、すみません。この……人の活気もすごくて!」

「はは、はぐれるなよ。まずは昼食といこう」


 レイモンドが指で示した先には、階下に続く魔導階段(エスカレーター)がある。こんなところまで前世と同じだ。

 地下2階に向かうと、そこにはフードコートが広がっていた。


 肉料理、魚料理、麺類、パンにジェラートまで。

 量り売りであること、それからお米を使った料理がないことを除けば、ほとんど現代日本と変わらない。

 きょろきょろと目移りしながら歩いていると、エレノアはあることに気がついた。


「閉まっているお店が多いですね。あそこも、ここもシャッターが降りてます」 

「……こういうところだけはいただけないよな。“ベンディハウス”はテナント料がめちゃくちゃに高くて、よほど流行ってないと店を続けられないんだ。本当かはわからないが、厳しい売上目標があるって噂も聞く」

「ではシャッターが降りているお店は、休業日ってわけではなく、潰れたり撤退したばかりということでしょうか」

「多分な。数日もすればまた新しい店が入ってくるんだろうが……その頃にはまた、来月の家賃を払えなくて別の店がなくなるって繰り返しだ」


 今日は平日だが、昼時だけあってフードコートは賑わっている。

 家族連れ、カップル、学生、ひとりの人も。

 上階のレストランが高価な分、ここで手軽に食事を済ませようとする買い物客も多いのだろう。


「たとえ厳しい世界でも、これだけの人が集まる場所だから出店したい、ということでしょうか……」

「ああ。それに“ベンディハウス”に出店することは、王都の商売人にとってはかなり名誉なことみたいだ。出したあと、多少無理をすることになるとしてもな」

「なるほど。店を構えることそれ自体が一種のゴールなんですね」

「まさしくそうだな。“流行の終着点”とか呼ばれることもあるくらいだ」


 流行りの店が集まり、客の来なくなった店から潰れていく。

 ここが王都の栄華の行き着く先であると、いつからかそう言われるようになったらしい。


 レイモンドの言葉に、エレノアは改めて周囲を見渡す。


(これが、商売の一つのゴールのかたち。だとしたら……私の、薬屋のゴールってなんだろう)


 苦い薬草を飲んで苦しむ人を減らしたい。そのために、おいしい薬を作りたい。

 ただ作るだけじゃ意味がなくて、良さを広めなくてはいけない。

 

 その過程で偶然、レイモンドに出会って。

 彼が必要としてくれるからひたすらそれに応えていたら、気づけばこんなところまで来ていた。


(騎士団に薬を提供しつづけていれば、レイモンド様の希望は満たせる。私の当初の目標だって、多分それなりに叶っていく)


 フェルノースではずいぶん薬というものが浸透してきたと思う。

 王都ではまだまだこれからだけれど、ノイヤール侯爵のバックアップがあればやれないことはないだろう。

 少なくとも騎士団の中では、これから薬が主流になっていくはずだ。


 食うに困らない以上のお金もある。人にも恵まれている。

 薬の研究のために新しい挑戦をすることもできるだろう。

 よくわからないまま、昨日貴族から借り受けてしまった牧場もあるし。


(それは本当にどうしよう、だけど! それだけじゃなくて……考えないと。このまま流されて進んでいくのか、それが私のしたいことなのか)


 エレノアが奇跡的に得た、二度目の人生。

 今の日常が当たり前のものでないことを、今朝メメルの師匠と話して改めて実感した。


 だからこそ、無駄にしないためにできることを、考えなくては——。

 

「エレノア? どうした、ぼうっとして」

「……はっ、はい! すみません、何を食べようか悩んでて!」

「ふっ。君はときどき誤魔化し方が下手だよな。……まあいい」


 レイモンドの声で、はっと現実に引き戻される。

 焦ってつい声がひっくり返ってしまった。

 それに気づいたレイモンドは一度肩をすくめたあと、頼もしげにニカリと笑う。


「初めてじゃ悩んで当然だ。俺がこのフードコートの黄金コースをレクチャーしてやろう!」

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