13.加護と誇り
レイモンドの魔素型を導き出した師匠は、笑みを深めて言った。
「お前さん、元は鉾型じゃの。しかし舟の加護がついとる、それで体の性質が変化したのだろう」
「加護……?」
不思議そうに、レイモンドはオウム返しにする。
隣で聞いていたエレノアも同じ気分だ。
唯一、師匠の言いたいことを理解したメメルが、小さな声でつぶやく。
「……たぶん、カシミア」
「お、心当たりがあるかの? ふっしし。死んだ人間の魔素は、大切なものを護ろうと生者にまとわりつくことがある。一人に一つ、一生に一度の奇跡さ」
「……!」
亡くなったレイモンドの姉、カシミアはエレノアと同じ舟型の魔素を持っていたのだろう。
そして今は彼女の加護が、レイモンドを見守っている。
「後天的に魔素型が変わる事例は珍しい……魔法の効かん体質だからこそ、加護の影響を受けやすいのかもしれんの。それがお前さんに効く、唯一の魔法よ。ふっしっし」
独特な笑い方で、師匠は盛大に笑う。
「俺に効く、唯一の魔法……」
レイモンドは噛みしめるように、小さく繰り返した。
「レイモンド様には舟型の加護があって、私も舟型。つまり薬の効き目が強いのは仮説どおり、ってことですね」
「ああ、安心したよ。加護ってやつも珍しいみたいだしな」
「ほお、薬草を魔法で加工すると、魔素型で効き目が変わると。面白い仮説じゃ。見極めてみればよい」
師匠にはまたもや話していないことが見透かされている。
そういう能力なのだろうか。魔法士というものは、極めると何でもできるみたいだ。
「それより、エレノアと言うたかの」
「はい」
「お前さん、出身は?」
「出身ですか? フェルノースですけど……」
ついさっき何でも見透かされていると思ったばかりなのに、突然浅い世間話みたいな質問が来た。
エレノアは肩透かしをくらって、曖昧に答える。
すると師匠はしわくちゃの顔を歪めて、ニンマリと笑みを深めた。
「そっちじゃないほうを聞いたんじゃが……ふしし、まぁよい。お前さんの両親は、お前さんを誇りに思っておるよ」
「え——」
“そっちじゃないほう”。思わぬ言葉にエレノアは固まる。
隣で何も知らないレイモンドがからりと笑った。
「お、そういう占いっぽいのもやってましたっけ、師匠。よかったな、エレノア」
「……あっ、はい! ちょっと照れますけど。ありがとうございます」
ギルド長の父と、それを秘書として支える母。
二人だってエレノアのことを応援してくれているし、信頼してくれているのは伝わる。
特に父には今回の騎士団との契約から納品まで何度か頼ったが、諸手をあげて協力してくれた。
直接聞いたことはないが、あの親バカな父のことだから、誇ってくれているだろう。
(……でも、師匠が今、言ったのは)
フェルノースにいる、エレノアの両親のことではなくて。
エレノアの——彼女のもう一つの故郷、現代日本に残してきた両親のことだろう。
何を言われたわけでもないが、直感的にそう感じた。
「本当に、ありがとうございます。聞けてよかったです……その、親不孝かと思っていたので」
「ふしし。そりゃ無用な心配じゃよ」
穏やかに笑う師匠の表情に、エレノアはほっと心をほぐされるような気がした。
「それじゃ師匠、ありがとうございました。メメルも、邪魔したな」
「全然。気をつけて帰って。エリーも、王都を楽しんで」
「はい。ありがとうございました!」
お礼をして洋館を出る。朝からホテルを飛び出してきたので、まだ昼前だ。
無事にサクッと問題が解決したことに安堵しながら、エレノアはレイモンドの魔導車の助手席に乗り込む。
「悪いな、ついてきてもらって」
「いえ。私も師匠さんと話せてよかったです」
「ならよかった。それで、気を取り直して今日の観光の予定だが——」
「はい!」
エレノアは身を乗り出す。
今日は元々、レイモンドの案内でショッピングをするつもりだった。
昨日騎士団の朝礼に参加したときに、薬を納品して代金をもらってある。
それで自分へのご褒美を探したり、店や仕事のためのアイテムを買ったりしようと提案してくれたのだ。
「せっかくなら、自分の薬がどんな店に並ぶのかも見ておきたいだろ? それを含めて、行く場所は決めてある。昼飯もそこで食べよう」
「いいですね。では目的地は……」
「“ベンディハウス”だ。前にも一度行ったが、全貌は見てないからな。きっと楽しいぜ」
ニヤリと笑って、レイモンドは魔導車のアクセルを踏んだ。




