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おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第3章 薬の秘密と王都の煌めく夜

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7.待ち人来たる

 騎士団からの手紙が届いた数日後。

 月末の初回納品のため、バックヤードで机に向かっていたエレノアは、ふと顔を上げた。

 店頭の方から、自動扉に取りつけたベルの音が聞こえたのだ。


(お客さんかな。それとも……)


 ありがたいことに薬屋は繁盛している。

 店番はキャシーに頼んであるし、扉が開く音なんていちいち気にすることでもないのだけれど。

 今のエレノアは人を待っているところなのだ。


(レイモンド様、もう1ヶ月も店に来てないよ……どこで何をしてるんだろう)

 

 最後に顔を合わせたのは王都に行く約束をしたとき。

 しかしその約束が果たされるどころか、店に来ることもないまま契約書だけが届いてしまった。

 

 契約書はギルド長である父の助力もあって、無事サインをして送り返せたが。

 レイモンドと話をして、顔を見て報告できていないのが妙に居心地悪かった。


(でも、王都で私の薬が買えるようになるんだから。レイモンド様からしたら、もう来る必要はない……のかな)


 そう思うとつい心が沈む。

 今日もうつむきかけたエレノアの耳に、キャシーの呼ぶ声が飛び込んできた。


「店長ー。お客様がお呼びですー」

「はっ、はーい! 今行きます!」


 返事の声が上ずってしまった。

 エレノアは広げた手帳もそのままにして、店に出る。


「悪いな、作業中だったか?」

「レイモンド様!」


 そこにいたのはエレノアの待っていた相手だ。

 騎士の制服に身を包み、大荷物を背負った彼はエレノアに無邪気な笑顔を向けた。

 エレノアも、ほっとして安堵の笑みを浮かべる。


「なかなか来られないから、どうかしたのかと思っていました。お仕事の帰りですか?」

「ああ。しばらく遠征に行ってたんだ。とは言っても、竜が出てこないようなやつだ」

「なるほど、それはお疲れ様でした。ご無事でよかったです」


 心配していたことを素直に明かすと、レイモンドは照れくさそうに頬を掻いた。

 そして、話題を逸らすようにバックヤードを指さす。


「薬の準備はどうだ? 何か作業中だったんじゃないのか?」

「はい。でもスケジュールを考えていただけなので、今は大丈夫です」

「スケジュールを?」


 今頃、エレノアは薬作りの真っ最中だと思われていたのだろう。

 レイモンドは意外そうに目を瞬かせる。


「ゆっくりしている暇はないんですけど……かといって早く準備をしっすぎると、薬がダメになってしまうので。いつ作りはじめるのがいいか、一日あたりいくつまで作れるのか、など、絶賛研究中です」

「なるほど。それじゃ忙しいのはもう少し後か」

「そうですね。でも、今回は私一人ではないので。ばっちりやり遂げてみせますよ!」


 レイモンドにはいつも余裕のない姿を見せて、心配をかけている。

 今回こそダメなところを見せまいと、エレノアは力強く頷いた。


「なら、王都行きの約束も果たせそうだな」


 そう言ったレイモンドの声音に、エレノアは思わず顔を上げた。

 柔らかい笑みで自分を見つめるレイモンドを見て、ガラにもなく心臓がどきりと跳ねた。


「……どうした? やっぱり王都に行くのは負担か? 緊張しているとか?」

「えっいや、そんなことは……! 楽しみにしていますっ!」

「そうか? ならいいんだが」


 言葉に詰まってしまったのは、レイモンドが王都に行く約束を忘れていなかったことが嬉しかったからだ。

 最近顔を見せてくれなかったこともあり、浮かれているのは自分だけではないかと思ってしまっていたから。

 

 ちゃんとレイモンドも覚えていて、考えてくれていた——それが嬉しくて言葉が出てきませんでした、なんて。


(い、言えるはずない……!)


 黙って一人で赤面するエレノアを、レイモンドは不思議そうな顔で見つめていたのだった。


   *   *   *


 それから、レイモンドはまた薬屋に顔を出してくれるようになった。

 自分の不安が見透かされたのではないかと、エレノアは少し恥ずかしくなるくらいだ。


 そして、月末も間近に近づいたある日。

 エレノア、デボラ、ロランの3人は、店のバックヤードに集まっていた。

 3人の目の前にあるのは、中身が山盛りになった二つのボウルだ。


「で、できた……」

「できましたね……!!」


 ロランがゴシゴシと額の汗を袖で拭う。

 目の前の薄緑色の飴玉——薬草キャンディの山を見つめて、誰からともなく感動の息を漏らした。


「これでやっと、やっと……! 王都進出、第一歩の完成だよー!」

「つっかれたー! もうしばらくできればやりたくねえっす!」

「ふふっ、でも達成感もありますね?」


 発注どおり、1000袋分の薬を作り終えたのだ。

 1袋あたり5粒のキャンディを入れるので、全部で5000個のキャンディが今ここにあることになる。

 

 達成感と疲労が同時にどっと押し寄せて、エレノアは長く息を吐いた。

 デボラもロランも、同じようにゆるんだ雰囲気をまとっている。


「できればやりたくないだって? 困るぜ、また10日後には納品してもらわないといけないんだから」

「げ。いたのかレイモンド」

「げってなんだよ!」


 もうすぐ完成と聞いて様子を見にきていたレイモンドも台所にやってくる。

 ロランとは相変わらず犬猿の仲のようだが、もう辞めさせようとは思っていないみたいだ。

 揶揄うようなその口調には、慣れ親しんだ相手への信頼すら感じる。

 ……ロランの方がどう思っているかはわからないが。


「喧嘩はダメですよ、お二人とも……?」

「うっ。ま、まだしてないよ?」

「ああ。まだ大丈夫だ」


 デボラに睨まれて二人の間の剣呑な空気が消えたところで、キャシーも店番から戻ってきた。


「定時になったのでお店、閉めましたー。あら、お薬完成したんですねー」

「キャシーさん! はい、おかげさまでやり遂げましたよ!」


 部屋の様子を見てホッと表情を緩めるキャシーに駆け寄り、エレノアは喜びと感謝を伝える。

 穏やかな空気が流れるバックヤードで、誰かのお腹の虫が空腹にくう、と鳴いた。


「あ……ふふっ。夜遅くなっちゃったし、慰労会も兼ねて夕飯、食べていかない?」


 エレノアの言葉に、その場にいた全員が迷わず頷いた。

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