↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第2章 騎士団の協力者とあの日の災い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/93

36.帰りを待つのは

更新が大幅に滞ってしまいすみません!

ゆっくりペースで連載再開していきます…!

 花とレンガに彩られた、見慣れた街並み。

 フェルノースに着く頃には、陽は天頂をとっくに越えて、傾きはじめていた。

 

 魔導車は速度を落とし細い道を抜けていく。

 そして、神殿の前の広場に停車した。


「よし、着いたぞ」

「運転ありがとうございます!」

 

 エレノアは軽やかに車を降りた。レイモンドとロゼも、それに続く。


 完璧にシフトを組んで、二人の従業員を信頼して遠征に向かったとはいえ、店の様子が心配でなかったわけじゃない。

 シフト通りなら今日はデボラが店番をしてくれているはずだ。

 自動扉の中を、エレノアはそうっと覗き込む。


「……そんなにコソコソしてなくても、胸を張って正面から帰ればいいんじゃないか?」

「そっ、そうですよね! つい、なんだか緊張しちゃって……」


 レイモンドに呆れ笑いされて、エレノアは赤面する。

 咳払いをしてから、改めてエレノアは扉の前に立った。


「いらっしゃ——店長! おかえりなさい……!」


 接客用の笑顔を浮かべていたデボラの表情が、みるみるうちに安堵で解けていく。

 ふにゃふにゃの安心しきった笑顔につられて、エレノアは思わず彼女の目の前まで駆け寄った。


「ただいま!」

 


   *   *   *



「帰ってきて一安心、だったはずなのにどっと疲れちゃった。ホリーもだけど、デボラちゃんも怖かったぁ」

「はは。デボちゃん、俺より怒ってたっスねー」

「逆にロランさんは、あんまり気にしてないんですね? 妹の医療費をダシに、って結構ひどいと思ったけど……」


 そう。飛竜と遭遇したこともありエレノアはすっかり忘れていたが、不在の間にレイモンドが用意した、“ロランが信用に足るか確かめる計画”は進行していたのだ。

 店は一触即発の空気になって大変だったらしい。

 エレノアに続いて店に入ってきたレイモンドに向かって、デボラは捲し立てるように計画の問題点を並べ立て、怒っていた。


 そうこうしているうちに、一人迷いなく神殿に向かっていたロゼが、彼女の愛する人——ホリーを連れて店に戻ってくる。

 そしてエレノアは案の定、遠征先で危険な目に遭ったことを指摘された。小一時間ほど、いかにホリーがエレノアを心配していたのか語り聞かされてもうへとへとだ。

 ホリーの矛先がレイモンドに移った隙を見て、エレノアはバックヤードに逃げてきたのである。


「それより店長、俺とデボちゃんから相談があって。疲れてると思うけど、今日、閉店後にちょっとお時間いいですか?」

「それなら、少し早く閉めよっか。私からも二人に話さないといけないことがあるから」


 騎士団——ノイヤール侯爵から持ちかけられた契約の話は、エレノア個人でなくこの店の問題だ。

 ロランとデボラにも相談に乗ってもらいたい。

 外の様子を見計らいつつも、今日は17時ごろに店を閉めることにした。


 

「本当に反省してるのか? いや君が反省してるかよりも、騎士団がどう捉えているかが大切だな……民間人を危険に巻き込まないよう、基準を設けるべきだ。あと僕にも遠征同行訓練を受けさせるべき」

「もう、ホリー。それくらいにしましょう?」

「恋人と幼馴染をどっちもピンチに晒したんだぞ。怒らずにいられるか! ロゼの実力はわかっているから、信じていたけれど……僕にはついていく術がなかった。それがどれだけ歯痒かったと思う!?」

 

 店先に戻るとホリーがミルクティー色の髪を振り乱し、全方位に文句をバラまいていた。

 レイモンドだけでなく、彼を連れてきた張本人であるロゼまでどこか疲れた表情だ。

 一人、店番のため残ったデボラも困惑している。


「ごめんね、ホリー。今日は早めにお店を閉めることになっちゃった。ホリーも家に帰って、ゆっくり休んで?」

「そっ……そう。店の邪魔はできないね。ならせめてレイモンド、このあと時間は——」

「だめ。ホリー、しばらく休まず働いて寝てないんじゃない?」


 エレノアの指摘に、ホリーは都合が悪そうに押し黙った。

 彼の顔色はあまりよくないし、言葉遣いや声にも疲れが滲んでいる。

 気を紛らわせるために、働き詰めになっていたのだろう。


「言われてみれば、クマもひどいわね。帰りましょ、夕飯は私が作るわ」

「うっ……確かに疲れては、いる。それにロゼの手料理か……」

「責任を持ってゆっくり寝かせるわ。ありがとね、エレノア。また」


 ロゼはホリーの手を引いて、店を出ていく。

 エレノアは店の前の道まで出て二人を見送った。

 

 戻るついでに、店の前に出ている営業時間の看板をひっくり返しておく。

 あとは扉にかかっている目隠しの魔法を起動したら、閉店だ。

 中に入ろうとしたちょうどそのとき、すれ違いにレイモンドが店から出てきた。


「俺も帰るよ。店の話を邪魔しちゃ悪いし、補充用の薬も買えたしな」

「いつの間に……ありがとうございます。料理人志望のデボラちゃんが作った薬なので、いつもよりおいしいと思いますよ。特に、遠征先で作ったやつよりずっと」

「はは、確かに。楽しみにいただくよ」


 冗談めかしてレイモンドは笑う。

 デボラとホリーに連続で不満をぶつけられてその顔は疲れきっていた。

 しかし同時に、重大な任務を一つ終えた達成感に満ちてもいる。


(私がちゃんと帰ってこられるまで、気を張ってくれていたんだろうな。王都に戻ったら、レイモンド様もゆっくり休めるといいけど……)


 今回の遠征で、エレノアはレイモンドの強さを目の当たりにした。

 他の騎士たちに頼られていることも。きっと王都に戻ったら、彼はまた忙(せわ)しない戦いに身を投じるのだろう。


「騎士団との契約のこと、返事待ってるよ。また薬を買いに来るから、そのときにでも聞かせてくれ」

「はい……! 今から、その相談もするつもりです。時間をいただいてありがとうございます」

「おう。それじゃ」


 戦いつづけるレイモンドのために、エレノアができることは少ない。

 騎士団と契約を結んで薬を卸すことは、そのうちの一つに入るだろうか。

  

 魔導車に乗り込むレイモンドのことを見送って、やっとエレノアは店の中に戻った。


「もうお客さんも途絶えているみたいだし、閉店にしよっか」

「はーい。じゃあ扉、消しますねー」

「ありがとう。それで、二人からの相談って……?」


 晩夏とはいえ、17時の外はまだ明るい。

 外から差し込んでいた光が絶たれると、店の中は途端に怪しく、薄暗くなった。


 エレノアの言葉に、ロランもデボラも姿勢を正す。

 誰に聞かれるわけでもないのに、潜めたような小さな声でデボラが切り出した。


「それが……最近、お客様からたくさん問い合わせがきているんです。私の作った薬は、店長が作った薬と効果が違うって……」


 デボラの言葉に、エレノアは大きく目を見開いた。

 

 ずっと一人で薬を作りつづけていたから、これまで直面したことのなかった問題。

 その影響が、エレノアの薬屋の行く先を大きく揺るがそうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。