33.ご褒美の王都
飛竜3体の死体を確かめ、遠征隊はそれぞれ魔導車に乗り込んで帰路に着く。
エレノアもレイモンドの運転で、王都に戻った。
「悪いな、遠征が終わったのにすぐ家に帰してやれなくて」
「いえ。1ヶ月のつもりで店も予定を立ててありますし、大丈夫です、けど……」
王都の一等地にある高級ホテルを用意されて、エレノアは驚いていた。
そもそも王都に宿泊することになったのも、エレノアにとっては予想外の出来事である。
「表彰って、何があるんでしょうか? 誰も説明してくれないんですけど……!」
「……悪い、俺もよくわかってなくて。また日付や詳細が決まったら教えるよ」
「そ、そうですか。すみません。では、お願いします」
そう。騎士団から、遠征同行の功労を讃えた表彰がある、と言われたのだ。
具体的なことは知らされないまま、表彰の日まで王都で体と心を休めるように、と言われている。
ホテルに入ったエレノアは一人、何が待つのかわからないドキドキを胸に眠りについた。
そして翌朝。
朝から豪華な食事とフルーツが出てきて、幸せな朝食を終えた頃。
レイモンドが、再び宿の部屋まで迎えにきてくれた。
「……も、もう表彰ですか?」
「いや、違うよ。遠征が終わったら王都を巡りたいって約束してただろ」
「あ、そうでした。じゃあ、買い物に連れて行ってくださるんですか?」
「ああ」
エレノアの目が輝く。
王都に来たら行ってみたいお店がたくさんあるのだ。
珍しいハーブを扱うお花屋さんとか、新鮮な薬草が流通している市場とか。
遠征先の採集スポットで採った薬草は、すべて飛竜対策で使い切ってしまったし。
そんなエレノアの心を見透かしたように、レイモンドは優しく笑う。
「どこでも連れてくぜ。俺が案内したい店もあるしな」
そうしてエレノアとレイモンドの、久しぶりに穏やかな1日が始まった。
最初に向かったのはある花屋だ。王都の外れにあるその店では、珍しい草花がたくさん取り扱われている。
といっても父のいる商業ギルドで噂を聞いただけで、エレノアが訪れるのは初めてである。
「わぁ、すごい……! これ、遠征先の山にもなかったですよ。どこから仕入れているんだろう……こっちはお花も綺麗。気付け草の花ってこんな形なんだ……でも、さすがのお値段だなぁ」
と、ぶつぶつ言いながらエレノアは店内の鉢植えを見て回る。
エレノアより背の高い花から、小さいけれど目を引く美しい花まで。
色とりどりの植物に楽しそうに囲まれているエレノアを見て、レイモンドは目を細めた。
「君は花が似合うな」
「え? 何か言いました?」
「いやっ、なんでもない! どれかほしいのはあったか?」
歩み寄ってきたレイモンドの耳が少し赤い気がして、エレノアは首を傾げながら答える。
「この鉢……お店に飾って、ときどき葉っぱを採れたらすっごく一石二鳥だと思ったんですけど。値段が……」
エレノアが指差したのは、南国風の観葉植物だ。
ハイビスカスに似た、ビビットピンクの大きな花が3輪咲いている。
鮮やかな花の色は、炎の属性を秘めている証拠だ。
そしてこの植物の葉には強い消毒の作用があることも、エレノアはよく知っていた。
殺風景なお店を華やかにしてくれることは間違いなく、さらには新たな薬作りにも活かせる。
花びらが落ちたら魔導具の材料として、道具屋に売ることもできる。
正直、喉から手が出るほどほしい。
問題は、値札にエレノアの店の売上3ヶ月分ほどの金額が書かれていることだ。
「……こんなに高いのか、花って」
「やっぱりそう思いますよね!? 実物は初めて見たので、それだけ珍しいってことだとは思うんですけど。仕入れだとしても、とても買える値段じゃ……」
「ああ。遠征の報酬金が半分はふっとんじまうな」
「…………え?」
レイモンドの言葉に、エレノアはバッと顔を上げる。
エレノアにじぃっと顔を見つめられて、レイモンドはたじろいだ。
「ど、どうした? それでもほしいなら、買えばいいと思うけど……」
「は、半分って言いましたか。今。この……この金額の倍もらえるんですか!? 300万ゴールド!?」
「!? ちょ、そんな大声でお金の話は……! 詳しくはわかんないけど、多分それくらいはもらえると思うっていう俺の経験上の話で、」
「買います、絶対買って帰ります。ついていってよかったです、遠征!」
自分でも現金な反応だとわかっているが、エレノアはつい漏れ出す笑顔を抑えられなかった。
王都でもないと出会えない珍しい植物を、気に入ったら即断で家に連れて帰れちゃうなんて。
夢のようなシチュエーションである。
この世界の植物には不思議な効果がたくさんあって、まだまだ研究したいことは尽きないのだから。
「……まあ、そんなに喜んでもらえたならよかったよ。もう一度来れるかわからないし、ここは俺が立て替えておこう」
「えっ、いいんですか!? でも迷惑じゃ……いやでも、もし売り切れたら……」
笑ったり焦ったり忙しいエレノアの表情を見て、レイモンドは思わずといったふうに肩を震わせて笑った。
「ふふっ。なんなら買ってあげたいくらいなんだから、ここは素直に甘えてくれ」
「え。で、では、お願いします……報酬をいただいたら、すぐ返しますから!」
「あぁ」
レイモンドは店員を呼び、代金を支払う。
自宅までの配送も依頼して、ホクホク顔でエレノアは店を出る。
幸せそうなエレノアの顔に一瞬見惚れながら、レイモンドは王都の真ん中にある高いビルを指差した。
「次は俺の行きたいところについてきてくれるか?」
「はい。何のお店ですか?」
「ちょっとな。気に入ってもらえるといいんだけど……」
レイモンドの後ろをついて、エレノアは王都イチの商業施設“ベンディハウス“に、初めて足を踏み入れたのだった。




