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おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第2章 騎士団の協力者とあの日の災い

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32.合流、そして

 レイモンドが燃え残った森に身を隠した頃。

 一人で戦うアルフレッドは、飛竜の攻撃を躱すことに専念していた。

 

 子竜はすばしっこいが魔法はそこまで得意ではないらしい。

 大振りの風魔法や狙いの甘い炎は避けやすくて幸いした。

 むしろ怖いのは、爪や尾を使った物理攻撃だ。


(できるだけ魔法の大技を使わせたいが、どう誘導するか……)


 思考を巡らせるアルフレッド。

 その視界の隅に、ひらりと何かが飛ぶのが見えた。


 ——キュオッ!?


「おおっ」


 飛竜の悲鳴とアルフレッドの歓声が同時に響く。

 竜の眉間には、毒々しい紫色の矢が突き刺さっていた。


 この遠征隊で弓の名手といえば、一人だけ。

 アルフレッドはほっと息をついた。

 これで、一人寂しく飛竜の気を引き続ける必要はない。


「……ライカンさん! 助かりました!」

「ああ。第2・第3部隊、合流した。遅くなってすまん!」


 大きな体に、それ以上に大きな弓を抱えたライカンが、崖を滑り降りてくる。

 その後ろにはウルフロッドやバルクたち、第3部隊の仲間たちもいる。

 一度自陣へと逃げ帰ったあと、治癒師の治療を受けて戻ってきたのだろう。

 アルフレッドはホッと息をつく。


「皆さん……! 無事でよかった!」

「ああ。だがどうして一人で戦ってるんだ!? ガリアやレイは!?」

「ガリアさんは崖の上ですが、会ってないですか!? レイは——」

「話は後だ! 今は目の前の敵のことだけ考えろ!」


 状況を把握しようとするウルフロッドとあたふたしながら答えようとするアルフレッドを、ライカンがまとめて叱責する。

 ざっと10人ほどの増員は、ライカンのかけ声に合わせてみな戦闘体制に入った。


「物理攻撃に気をつけて! 魔法を誘ったうえで避けてください!」

「簡単に言うが、避けているばかりじゃ埒が明かねぇぞ!!」


 続いて吠えたのはバルクだ。

 飛竜の爪を弾きながら、苛立ったように言う。


「必ずチャンスが来ます。攻撃は——」


 レイモンドが機会を狙っている、と言おうとしたアルフレッドの声は、飛竜の怒号によりかき消された。

 ライカンの放った矢が、再び飛竜に命中したのだ。


(まずい、レイの作戦をみんなに伝えないといけないのに……!)


 状況は悪くないが、アルフレッドは焦る。

 もつれはじめた戦いの中では、情報を共有する時間もない。


 アルフレッドが歯噛みしたその瞬間、飛竜が大きく首をもたげた。

 火を噴こうとしている合図だ。


「炎が来ます! 警戒を!!」


 伏せた騎士たちの頭上を、激しい炎が通りすぎていく。

 こちらの人数が増えたのを見て、飛竜が攻撃を魔法主体に切り替えたのだ。


「皆さん、身を守って! あとは——レイが!!」

「レイモンドが? ……なるほど、そうか」


 状況を真っ先に理解したライカンだけが、ニヤリと笑う。

 二度目の火炎放射があたりの草木を焼き、騎士の動きを封じる。

 しかしその瞬間、引火した森の中から目にも止まらぬ速さで飛び出す、一つの影があった。


 ——ギョアッ!?


 飛竜が目を見開く。

 その間抜けな顔を見て、木の上からレイモンドはニヤリと笑った。

 

「お前だけは知らないよなぁ——魔法なんて、俺には効かないんだよ!!」


 レイモンドの手には氷の剣が握られている。

 飛竜の胸の鱗を貫き、心臓のある場所を一思いに突き刺した。


 断末魔をあげる間もなく、飛竜は力なくどさりと地面に倒れた。

 やり切った——レイモンドはふう、と一つ息を吐き、アルフレッドの方を振り返る。

 

「……あれ? みんないつの間に来てたんですか?」


 アルフレッド一人が待っていると思ったのに、振り返ったら火に巻かれて慌てる仲間たちの姿があった。

 やがてあたり一帯に、どしゃっ、と大量の水がバケツをひっくり返したように降る。

 水を滴らせながらレイモンドに歩み寄る長官・ライカンの表情は、どこか怒っているように見えた。


 

   *   *   *



 戦いの疲れが残るうえ、単独での先行と作戦の説明不足についてこってり叱られたレイモンドは、よぼよぼと歩いて陣地の鍾乳洞に戻る。

 雄竜の撃破を任せきりにしてしまったガリアも、つい数十分前にはボロボロで倒れていたコーディスも、他の仲間たちも。

 誰一人欠けることなく、第2部隊と第3部隊の面々がそこには揃っていた。


 そして、涙目でオロオロしているエレノアも。


「……おかえりなさい」


 震える声で、エレノアはレイモンドを出迎えた。

 レイモンドは他の騎士たちに背中や肩や頭を小突かれ、冷やかされながらエレノアの前に進み出る。

 しかし中途半端に開けた彼の口から、気の利いた言葉が出てくることはなかった。

 

 沈黙の中、エレノアは肩に提げていたカバンから大量に小さな布の袋を取り出す。


「あの……痛みにはこれを。こっちは傷が化膿しないように消毒用で、これは疲れで熱が出たとき用です。あとこの塗り薬はみなさんにも配ったもので、使ってもらった感じ傷跡も残らないみたいなのでおすすめで——」


 エレノアが取り出したのは、どれも全て薬だ。

 レイモンドは確かに傷だらけだし、事前にもらった薬も最後の戦いの中で使い切っている。

 助かることに違いはないのだが、勢いよく効能を説明されてレイモンドは目を白黒させた。


「お、おう……ありがとな……?」


 エレノアの小さな手のひらにはおさまらないほどの薬の入った袋。

 レイモンドはどうにかそれを受け取る。すると、エレノアは一度、言葉を切った。

 そして大きく息を吸い、小さく呟く。

 

「……その……無事で、よかったです」

「……ッ、ああ。ただいま!」


 エレノアの泣きそうな顔を見て、レイモンドの体は思わず動いていた。

 小さく震えるその体に腕を回して、抱き寄せる。

 手に持っていた薬の袋がいくつかポトリと地面に落ちても、レイモンドは気にしなかった。


 レイモンドからは見えないが、エレノアの顔は耳まで真っ赤になっていた。

 あたりの騎士たちは生温(なまぬる)い目で、二人の抱擁を見つめる。


 ホッとして緩んだ空気の中、ライカンが穏やかな声で、滔々(とうとう)と宣言した。

 

「……これにて任務完了だ。予定の1ヶ月より早いが、今回の遠征は終了とする。帰還するぞ、皆の者!」

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