表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第1章 辺境の薬屋と無敵の騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/62

6.出会い

「だ、大丈夫ですか!?」


 エレノアの声に反応して、騎士は顔を上げる。

 赤茶色の長い髪がさらりと揺れて、表情があらわになった。

 顔についた泥と痛々しい擦り傷は、近くで見るとより一層はっきりと見える。


「きみは……」


 焦点の合わない、ぼんやりとした瞳がエレノアを見つめる。

 その瞳は吸い込まれるほどの真っ黒で、エレノアはどきりとした。


(目が黒い……! この世界に来てから初めて見た)


 前世では当たり前だった黒い瞳が、この世界では彼の異質さを物語っていた。

 言葉を失うエレノアに、騎士は弱々しく問いかける。


「この薬草畑の持ち主、か?」

「あっ、え、はい……そうだ、薬が必要ですよね。ちょっと待っていてください!」


 男の苦しそうな声を聞いて、エレノアははっとする。

 理由はわからないけれど、彼は傷を負っているのに治癒師の治療を受けられていないのだ。

 どうにか薬草を手に入れようとして、ここまで辿りついたのかもしれない。


 エレノアは畑の入り口にある段差に弱りきった騎士を座らせ、急いで薬草を摘みはじめた。

 店から持ってきた手提げのカゴをいっぱいにするまで、ぷちぷちと薬草の葉だけをもぎる。

 最後に畑の水やり用のホースで1枚だけ葉を洗って、急いで騎士のもとに戻った。

 

「とりあえず、これを!」

「あぁ、悪いな……」


 エレノアが差し出した薬草を、騎士は鼻をつまみながらひょいと口に含んだ。

 喉が苦しそうに上下するのを、エレノアは不安げな眼差しで見つめる。


 騎士はしばらく足を放り出してぼんやりと座っていた。

 エレノアが見守るなか、数分経って薬草が効いてきたのか彼はゆっくり立ち上がる。

 

「ふう……ずいぶん楽になった。感謝する」

「よかったです」

「謝礼は後日騎士団から送らせてくれ。俺は二級騎士のレイモンドという。君、名前は?」


 用は終わったと言わんばかりの態度に、エレノアは眉をひそめる。

 本人は気取らせないようにしているつもりらしいが、その騎士はまだ右足をかばうように斜めに立ったままだった。


「待ってください。薬草はあくまで応急処置です、それだけでは治らない怪我をしているのかも」

「……歩ければ十分だ」

「そういうわけにはいきません! 謝礼なんて結構ですから、ついてきてください!」


 レイモンドは、エレノアの食い気味な返答に気圧される。

 返事を聞く前に、エレノアは彼の右側に回り込み、肩の下に体をねじこんだ。

 面食らったレイモンドは上ずった声で言う。


「なっ、何もそこまでしなくても自分で歩ける! 君のような小さな娘に肩を貸されるようでは……!」


 レイモンドはバッと体を引き剥がすが、やはり右足がまだ痛んだようで大きくふらついてしまった。

 エレノアはその様子を見て、慌てたように声を上げる。


「ほら、言ったじゃないですか……! 痛いなら我慢せずそう言ってください」

「しかし俺は……神殿には、いかないぞ」

「私も神殿には行きませんよ。向かうのは私の(うち)です、いいでしょう?」


 そう言うとレイモンドは顔を赤くしてがちりと固まってしまった。

 何をそんなに恥ずかしがったり驚いたりすることがあるのか。

 理由はわからないが、呼びかけても目の間で手をぶんぶん振っても返事がないので、気を動転させているのは間違いないだろう。耳まで真っ赤だ。


(今がチャンスかも? 早く帰って、この人にも薬を飲ませてあげないと……)


 エレノアは固まったレイモンドの手をぐいぐい引いて、家路を辿りはじめるのであった。



 店に帰りつき、エレノアはほっと息をつく。

 裏口から入れる場所はエレノアのスペースになっていて、まだ店の状況は見えない。

 レイモンドを食卓の椅子に座らせて、シロップ薬入りの紅茶を出した。


「これ、よかったらどうぞ。薬が入っています」

「薬?」


 レイモンドはカップを手に取り、光に透かしてまじまじと見つめる。

 薬草の葉っぱそのものを想像しているらしい。

 この世界の常識という壁は、やはり大きいみたいだ。


「薬草を煮出したシロップです。毒消しのハーブも入っているので、きっと足に効きますよ」

「……あぁ。すまない」


 最初はついてくるのを拒んでいたレイモンドだが、最終的には観念して一緒に歩いてくれていた。

 足を重そうに引きずっていたのが、少しでも早く治ればいいのだが。


 レイモンドが紅茶を飲みはじめたのを確認して、エレノアは店に戻る。

 店番をしてくれていたディエゴは、カウンターの裏から出てきたエレノアを見て安堵の息を吐いた。


「やぁーっと戻ってきた。ずいぶん遅かったじゃねえか」

「すみません、人助けをしてました! お客様も、お待たせしてすみません」


 店内にはディエゴの他に4人、エレノアの帰りを待っている人がいた。

 腰の曲がったおじいさん、時折ゲホゲホと苦しそうに咳き込む若い女性、ぐずる子どもと心配そうなその母親。


「これからきっとまだまだ来るぞ、嬢ちゃん。薬を選んでくれたら会計は俺がやっとく、在庫の仕込みも必要なんだろ」

「ありがとうございます、ディエゴさん! でもまだまだ来るって……?」

「ケホッ……あなたの店を、神殿で紹介してもらったのよ。いい薬師がいるって」


 女性にそう言われ、エレノアの顔はパッと輝く。


(きっとホリーが紹介してくれたんだ……!)


 騎士たちの治癒で忙しくしているであろう、神殿の友人の顔を思い浮かべる。

 彼からの信頼を感じて、エレノアの心は勇気づけられた。


「では、1人ずつ症状を聞ください。おじいさまから」

「ん、あぁワシは内臓が悪くてな、何度も治してもらっとるが再発するんじゃ……」

「内臓ですね。治癒魔法をかけても再発するということは、毒素が溜まっているのかも。シロップのお薬をご用意しますね」


 エレノアはカウンターにメモ帳を置いて、症状と薬の種類を書きつける。

 そして続いて、泣きつづける少年の方に視線を向けた。


「坊やは? どうしたの?」

「うっ……ぐすっ、いたい……」

「すみません。うちの子、どこかが痛いとは言うんですけど、具体的にどこなのか自分でもわかっていないみたいなんです」

「初めて体験するような詳細不明の痛みということですね。とりあえずお茶で鎮痛して……あとは数日、食事にスナックつけてもらおうかな」


 薬茶1パック、スナック大袋1つ。

 メモ帳に書き終えたところで、エレノアの背後にある扉がガタン! と大きな音を立てて開いた。


 その先は居住スペースだ。レイモンドに何かあったのだろうか。

 振り返ったエレノアの目の前に、焦ったレイモンドの顔が迫った。


「きみっ……俺に何を飲ませた!?」


 腰の剣に手をかけながら、レイモンドはエレノアを怒鳴りつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ