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おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第2章 騎士団の協力者とあの日の災い

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27.窮地に思い出す

 レイモンドは真下に向けていた視線を戻す。

 先ほどまで背後に続いていたはずの山の斜面はえぐれ、いまやただの崖になっていた。

 そこに足をぷらりとぶら下げて、木の枝を掴む腕の力だけでレイモンドはなんとか耐える。


「まずいな……剣をどっかにやっちまった」


 枝を掴むのは右手。

 そこに握っていたはずの剣は、おそらく崖の下だ。

 

 落ちるわけにはいかないと、咄嗟に剣を投げ捨てて木の枝を掴んだ判断はきっと間違ってはいない。

 魔法で着地を緩やかにすることもできないレイモンドでは、この高さから落ちたら助からないだろうから。


 しかし、だからと言って飛竜と丸腰で対峙するのもまた、無理のある話だ。

 レイモンドは枝にしなりをつけて、軽やかに崖の上へ舞い戻る。

 すぐさま、待ち構えていた飛竜の一撃が飛んできた。


「……しかたねぇ、逃げるか」


 情けないがそれが最善手だ。

 レイモンドは爪を振りかざした飛竜の股下をくぐり抜けた。

 

 そして、転がるように来た道を戻り、山を駆け下りていく。

 目指すは部隊の陣地となっている鍾乳洞だ。


 飛竜の方も好機であることはわかっているらしい。

 股抜けを成功させたレイモンドに虚を突かれつつも、後ろを必死に追ってくる。

 木々がめりめりと倒れ、緑豊かだったはずの山が剥き出しの土色に変わっていった。


(いくら足が速くても飛んでるやつには敵わねぇ……どうにか突破口を見つけないと)


 レイモンドはあたりを見渡す。視界に入ったのは、細い渓谷だった。

 飛竜が翼を広げた状態では入れないほどの割れ目が、少し先の地面に開いている。

 陽に照らされてうっすらと見える谷底は、飛び降りて死ぬほどの高さではなかった。


(飛ぶか)


 迷っている時間はない。

 一瞬で覚悟を決め、レイモンドはエレノアから託された薬を口に放りこむ。

 骨折くらいなら、この特薬草キャンディが治してくれるだろう。


 しかし、その瞬間。

 

 ——ギャウウウン!!


 大きくひと吠えした竜が、翼を畳んで槍のように突進してくる。

 なんとか体を捻って牙の直撃を避けたレイモンドだが、騎士服の襟を竜の歯に引っ掛けられてしまった。

 襟首を咥えられ、レイモンドは再びぷらりと宙に浮く。


(今……薬に反応したのか? 急に動きが速くなった)


 竜は肉食のはず。薬草を欲しがるなんて聞いたことがない。

 逆に薬草の匂いが苦手なのだろうか。でもそれなら向かってこないはず。


(そういえば、あのとき。エレノアとアルが襲われてたのも、薬草摘みの帰りだったか)


 ふとレイモンドは一昨日の光景を思い出した。

 山盛りの薬草とハーブを手にしていたエレノアの姿。

 拠点を襲ったあとの飛竜がわざわざ薬草の採集ポイント付近を経由したことには、何か理由があるはずだ。


「くそ、何か手掛かりにならないか!? こいつらを倒すための弱点に……」


 宙吊りにされたまま、レイモンドは必死に頭を回す。

 素手で殴っても竜の鱗はびくともしない。顎が開く様子もない。

 どうにか弱点を見つけ出してこの状況を打破しなければ。

 そして、情報を持って仲間たちを救いにいくのだ。


(……でもそういうのは、俺の役目じゃないんだよな)


 レイモンドはいつも、攻守ともに優れた一番槍として前線を切り開く係だ。

 先駆け、なんてかっこいい二つ名がついてはいるが、一番ひねりのない単純な仕事である。

 情報を集めてきたり、遅れて現れて事態を好転に導いたりするのは、同期で言うならアルフレッドが得意だろうか。

 アルフレッドが持つ不利状況を逆転させる高火力の魔法も、機転も、人を守ることに懸ける情熱も、レイモンドには足りない。


「……いや」


 諦めるな。レイモンドは自分に言い聞かせる。

 守りたい人なら自分にだっている。数ヶ月前までいなかったけれど今は。

 心細く自分を待っているエレノアがいる。だから竜につままれたくらいで諦めるわけにはいかないのだ。


 レイモンドは腰に提げた巾着袋に手を突っ込み、中身を掴めるだけ引っ掴む。

 そして、握力だけでそれを粉々に握り潰した。


 飛竜がレイモンドの体を打ち砕こうと、上を向いて口を大きく開ける。

 凶悪な牙の奥に、赤黒い喉が覗いた。


「食われてたまるかよ! 〈着火(ファイア)〉!!」


 魔法を拒むレイモンドの体は、自らの使う魔法すら妨げる。

 レイモンドが使えるのは人間の生活に必要最低限の、〈流水〉、〈着火〉、そして魔導具を動かすための魔力伝達だけだ。

 それに、効果も弱い。飛竜にしてみれば熱くもなんともないだろう、小さな火の玉がぽわりと手のひらに浮かんだ。


 しかし何もこの火は、飛竜の体を焼くためのものではない。

 レイモンドは飛竜の喉に向かって落ちながら、粉々になった薬草キャンディの破片を火で炙る。

 溶けて高温になったキャンディが、ポタリ、ポタリと飛竜の喉仏に落ち。

 薬草の焦げた匂いが、飛竜の喉の奥に充満した。


 ——ぐ、オエエエエ!?


「おえ、ゲホッ……俺にも来る、が……!」


 突然広がる緑の焦げた有害な匂いに、飛竜は身悶えしてえづいた。

 舌が上がってきて、べちりとレイモンドの体にぶち当たる。

 気づけばレイモンドは、飛竜の口の外に(まろ)び出ていた。


 そして。


「〈光子・檻(フォトンケージ)〉!!」

「何してるんだ、レイ。腹の中から倒す作戦かい?」


 レイモンドが転がった先には、遅れて現れて事態を好転に導きがちな友人がからりと笑っていた。

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