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おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第2章 騎士団の協力者とあの日の災い

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26.飛竜vs騎士

「くそ、まんまとしてやられたな……っ」


 自分を見下ろす飛竜の姿に、レイモンドは悪態をついた。

 誤算は二つ。

 一つは巣の周りを飛んでいた2体の竜を、そのまま拠点を襲った2体だと思い込んでいて、子竜の存在を勘案しなかったこと。

 もう一つは、レイモンドの体質がもう飛竜にもバレていることだ。


(戦いすぎたか? 俺にだけ魔法が効かないとわかっているから、俺とみんなを風魔法で分断したんだろうな)


 ここに来るまでに二度、飛竜と接敵している。

 その間に、魔法が効かない人間がいると学習されてしまったのだろう。


 ——グガルルル……


 飛竜はレイモンドを睨みつけて、爪を振りかざした。

 

 ここからは必然的に肉弾戦だ。

 魔法という強力な攻撃手段を封印されてなお、飛竜は人ひとりが簡単に倒せるような存在ではない。

 しかしレイモンドは覚悟を決め、剣を構えた。


 ——ガキン!!


 飛竜の爪とレイモンドの剣がぶつかり合う。

 2本の前脚を絶え間なく動かし、交互に角度を変えて繰り出される爪撃。

 その全てに、レイモンドは確実に対応していく。


 ギュルルッと嫌な音が響いて、剣の腹を竜の爪が滑っていく。

 レイモンドは足を踏み込んで、その爪を跳ね除ける。

 そして、さらに一歩。


(……手応え! このまま押すぞ!!)

 

 飛竜の腕の付け根、硬い鱗の始点に剣に突き刺さる。

 ベリッと鈍い音とともに鱗が剥がれ、皮膚が剥き出しになった。


 さらに一閃。

 ひらめいたレイモンドの剣が、飛竜の皮膚すらもつき破る。

 鮮血が、あたりを舞った。


 ——キョエアアア!!!


「まぁそりゃ怒るよな……っ!!」


 肩から腕にかけて、縦に裂かれた飛竜は痛みに悶えて叫んだ。

 がむしゃらにもう片方の爪を振り回し、尻尾を地面に叩きつける。

 

 咄嗟にレイモンドは身をグッと後ろに引く。

 一瞬前まで自分の頭があった空間を、飛竜の爪が無慈悲に薙いだ。

 レイモンドの長い前髪が切れてパサリと落ちる。


(まずいな、一旦立て直さないと——)


 地面を叩く尾の勢いで足元がグラグラと揺れている。

 レイモンドは形勢を整えようと、一度大きく飛び退いた。


 その瞬間を、飛竜は見逃さなかった。


 ——グォオオオ!!


 尾を地面に突き立てて支えにし、飛竜は翼を大きくはためかせた。

 放たれた風の刃はレイモンドには効果がない。

 しかし、レイモンドが着地しようとする地面には深く、突き刺さった。


 地面が、ぐらりと崩れる。


「うお……っ!?」


 捉えたはずの足場がなくなる。

 レイモンドは剣を投げ捨て、両手を懸命に伸ばした。

 右手の指の先が、近くの木の枝に触れる。


 足元の地面が細かな土砂と化し、山をガラガラと崩れ落ちていく。

 レイモンドはなんとか木に体をぶら下げて落ちずに済んだが、ヒヤリと心臓が凍る。

 

 額に(にじ)んだ汗が(まぶた)に伝い、目が霞む。

 その視界の中、眼下に広がる竜の巣で、また別の飛竜が仲間たちに向かっていくのが目に入った。



   *   *   *



 2体の飛竜がぐるぐると空を回っている。

 上空から、()の姿を見定めているのだ。見下ろされたウルフロッドは、歯噛みしながら竜を睨み返した。


 作戦を立てようなんて悠長なことを言っている間に、飛竜の策の中に陥ってしまった。

 咄嗟に「なんとかする」なんて叫んだが、何か策があるわけではない。

 

 飛竜2体、片方はまだ体の小さい子ども。対してこちらは騎士9人、治癒師1人。

 数の利はこちらにあるが、それでも飛竜と戦うには不十分だ。魔法で広範囲にわたる攻撃をされたら、こちらは防戦一方となってしまう。


(しかし、いかに飛竜が人間より優れていると言っても、大掛かりな魔法を使うには何か予兆があるはずだ。その隙を逃すな、ウルフロッド……!)


 ウルフロッドは自分にそう言い聞かせる。格上の敵を倒すために必要なのは先読み、そして的確な反撃だ。

 ウルフロッドは飛竜の動きに目を光らせる。

 他の騎士たちもまた、剣を構えて臨戦体制に入った。


 それを見て先に動いたのは子どもの方の飛竜だった。

 狙うのは、唯一剣を構えなかった人間。治癒師のコルダだ。

 

「させません! 〈豪流(ハイドラ)〉!!」


 ウルフロッドは飛竜とコルダの間に身を滑り込ませる。

 牙を剥き出しにしてコルダの首元を狙った飛竜の口に、ウルフロッドの魔法が炸裂した。 

 

 ——ぐ!? ご、ゴポポ……


 喉元まで水で満たされた飛竜は、目を白黒させて勢いをなくす。

 ウルフロッドはすかさず、刀の切先を飛竜の右目に滑らせた。


 ——ぎゅあああッ!?


「油断するなウルフロッド!!」

「当然です! バルクさん、そちらは頼みましたよ。ソジルはコルダさんの護衛を! それ以外は臨機応変に——」


 子どもを返り討ちにされた雌竜は怒りを露わに、ウルフロッドに向かってくる。

 それを止めたのはバルクの重い両手剣による一撃だ。

 

 勝ちの空気を感じ取り、ウルフロッドは刀の柄をぐっと握り直した。

 一番新米の騎士・ソジルにコルダを任せ、前進に転じる。


「——ここで、2体とも倒します! みな、薬の用意を!」

「ああ、このときを待ってたぜ!!」


 部隊随一の実力者ウルフロッドと、ベテラン騎士バルク。

 二人の掛け声を合図に、一同はエレノアから託された薬草キャンディを口に含む。

 そして、騎士たちによる飛竜への反撃が始まった。

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