表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第2章 騎士団の協力者とあの日の災い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/62

14.竜の巣

 点呼を終え、拠点を出てすぐ。

 レイモンドは他の騎士たちの元を離れ、単独で山を登っていた。


 長官と部隊長を除く()()の騎士たちは、この近くに竜がいるかもしれないという情報をまだ知らない。

 混乱を引き起こさないように、レイモンドが一人で先回りし、竜の痕跡を探すことになったのだ。


(拠点は大丈夫だろうか。戦力の薄くなったところに竜が出たら……)


 竜は飢えていたり危機を感じたりしない限り、人を自ら攻撃することはないと言われている。

 それでも心配なものは心配だ。

 今朝もエレノアの前で、何度か挙動不審になってしまった気がする。


『ふふっ、そこまで言葉を並べなくても、もう無茶するなんて疑ってませんよ。ちゃんと薬をお渡しします。応援してますから』


 薬を携帯したい、と言ったときのエレノアの言葉が耳に残っている。

 応援している、とまっすぐに言われてしまったが、自分の今している単独行動が無茶でなくて何になろうか。

 騙しているような気分になって、それから拠点のことが心配になって、レイモンドの脳内は忙しい。


(でも、俺が竜を見つけたうえで無事に報告を持ち帰れば、何の問題もないんだよな。うん、そうだ。そうしよう)


 悲劇を未然に防ぐため。なんとしてでも役目を果たさないといけない。

 ポケットに入れた、エレノアから託された巾着袋に触れ、レイモンドは気合いを入れ直した。



    *   *   *



「うわぁ、すごい……っ! なんですかこの景色! 天国!?」

「はは、大げさだね。いや、エレノアにとってはそうなのか」

「はい、そうです。そうなんです! うちの近くで買おうと思ったら、今回の遠征の報酬金でも足りません。それくらいのお宝ですよっ!?」


 拠点を抜け出し15分ほど歩いたところに、一つ目の採集スポットがあった。

 先導してくれていたアルフレッドを追い抜いて、エレノアは思わず駆け出す。

 そこに広がっていたのは、貴重なハーブの群生地だった。


「これは火傷(やけど)に効くヌメリソウ……しびれ消しの天狗花(テングバナ)に、気付けのハーブもこんなにいいものが……!」

「よくそんなに種類を覚えてるね」

「もちろん、知らないものもあります。これはなんでしょう? うわっ、折ると汁が……」


 足元に生えていた見たことのない植物の茎をポキリと折ると、白い液体がとろりと漏れてきた。

 多分触ると手がかぶれるタイプだ、と経験則から判断して、慌てて手を離す。

 折れた茎の中に、アロエのようなプニプニしたゲル状の身が見えた。


(多肉植物!? この世界で初めて見た……!)


 驚きを声に出しそうになってギリギリこらえた。

 “この世界で”なんて言ったらアルフレッドに変人扱いされかねない。

 もうすでにちょっと引かれている気がするし。


「気が済むまで採集したら、次に行くから声をかけて。ちょっとトレーニングしてるよ」

「はいっ」


 アルフレッドはエレノアを自由にさせて、自分は見晴らしのいい木のそばで時間を潰していてくれるようだ。

 彼の言葉に甘えて、エレノアはしばしハーブ摘みに没頭した。


 

(あれ? 今何か……)


 採集を始めてから、何分経っただろうか。

 時の流れも忘れて没頭していたエレノアは、ふと手を止めて顔を上げた。


 今日は晴天。夏の太陽が燦々とあたりを照らしている。

 ここは木に囲まれているので木漏れ日しか感じないが、今一瞬、空が陰った気がしたのだ。


「アルフレッド様ー? いま、何か通りませんでした? って、素振りしてる……」


 少し離れたところにいるアルフレッドに声をかけるが、彼は剣を抜いて素振りを繰り返しており、こちらに注意を払う様子はない。

 返事もないので、エレノアはもう一度改めて空を見上げてみた。


 雲ひとつない、快晴。木々の隙間からでも青空が見えている。

 遮りそうなものは何ひとつ、上空には見当たらなかった。


(鳥でも通ったのかなぁ? 凶暴な魔物じゃないといいけど……襲われてないってことは、平気だよね)


 ひとつ首を傾げたあと、エレノアはまだまだ目の前に広がるハーブの群れに意識を戻した。



   *   *   *



「はぁ、はぁ……見つけた……」


 拠点から北東、2時方向の山頂を越えた先。

 木々がなぎ倒され、捻じ曲げられて、森の中に不自然に穴が空いたようなくぼみができていた。

 それを発見したレイモンドは、気配を殺しながら静かに近づく。


 竜の生態には詳しい。

 騎士として、それに竜災の(むご)さを知る者として、知識をつけ対策を練ることは当然の使命だ。

 ウルフロッドから報告のあった痕跡の場所を起点に、次の痕跡、また次の痕跡と探していくと、ここに行き当たったのだ。


(竜の巣……大きさ的に、(つがい)か子持ちだな)


 くぼみは目測でも直径20メートル近くあった。

 竜は大きいものでも体長4メートルがせいぜい。1体でこの広さは持て余すだろう。


 捜索にかなり時間がかかってしまい、空はすっかり夕暮れの赤色だ。

 暗くなる前に、竜の姿を確かめておかないと。

 身を隠しながら、外周をぐるりと回って竜の姿を探す。

 羽を休めている小型の飛竜が1体、見えた。


(まだ子どもだ。親は——)


 レイモンドは拠点の方を振り返る。

 遮る木々がすべてなぎ倒された竜の巣からは、山の麓の景色がよく見える。

 赤い陽に照らされて空を横切る、灰色の巨躯も。


「まずい、そっちは……!」


 ちょうど拠点の方角に向かっていく2体の飛竜の姿が、確かにレイモンドの目に映っていた。

 レイモンドは身を隠すのも忘れて、草木をガサガサと踏み分けながら、全速力で来た道を戻る。


「っ……間に合え、被害が出る前に……!!」


 頬を草木の枝が切り裂き、山の斜面を滑り落ちて服が破れる。

 一瞬痛みに顔を顰めたレイモンドだが、エレノアにもらった薬を口に放り込むと、再び帰路を急ぎはじめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ