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おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第2章 騎士団の協力者とあの日の災い

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7.英気を養う

 野営地の芝生の上、みなカレーの乗った木皿を片手に思い思いに座り込む。

 

 虫が突然たくさん現れた人間たちに驚いたかのように、地面を右往左往していた。

 カレーの匂いに釣られたのか、空には大きめの鳥も飛んでいる。鷹系の魔物だろうか。

 

 虫や動物が苦手でなくてよかった、とエレノアは内心安堵する。

 もしいちいちそれらに怯えていたら、ここでは心臓がいくつあっても足りなさそうだ。

 エレノアの両隣には、それぞれロゼとレイモンドが座って、カレーを頬張っていた。


「設営お疲れさま。今日中に終わりそう?」

「もうあと2、3時間で終わるんじゃないか。ベースのテントは立て終わって、あとは魔物避けを張るだけだ」

「魔物避け?」

「ああ。人を襲うようなやつじゃなきゃ俺たちも無闇に狩らないが、ここに入ってきたらややこしいからな。迷い込み防止の簡単な柵を作るんだ」

「逆にそれを越えてくるような攻撃性の高い魔物がいたら、駆除対象になる、というわけよ」


 エレノアの疑問に、レイモンドとロゼが順に答える。

 安全な拠点を確保するために、山の中に柵まで立てるらしい。

 それは設営に丸一日かかるわけだ。


「なるほど。大変ですね、騎士様たち」

「まあ慣れたことさ。あ、そうだ、エレノアに俺の友人を紹介しておこう」


 レイモンドはふと視線を遠くに向け、手招きをする。

 彼の目線の先には、一番最後にカレーを取りに来てペコペコしていた、人のよさそうな茶髪の騎士がいた。


「どうした……って、もしかして彼女が!?」

「ああ。いつも薬を作ってもらってる、エレノアだ」

「わぁ、思ったより普通の……ごほん、可愛らしい女性だね。はじめまして、四級騎士のアルフレッドです」

「エレノアです! いつもレイモンド様にはお世話になっています」


 エレノアたちと向かい合うように、アルフレッドは芝生に座り込む。

 ぺこりと頭を下げると、気のいいニコニコとした笑顔が帰ってくる。


「俺の士官学校からの同期なんだ。優しいやつだから、何かあると頼るといい」

「はい。よろしくお願いします!」

 

 騎士の階級のことはよくわからないが、四級ということはレイモンドの二階級下だ。

 同期でもそんなに階級差がつくものか、とエレノアは驚く。


「騎士の昇進って、何で決まるんですか? 経歴じゃないんですね」

「経歴ももちろん関係するさ。ポイント制と言うのか? 任務や遠征に参加するだけでも評価は積もっていくが、武勲を上げたり危険な役目を担った者は昇進が早い」

「そうそう。だから僕が遅いんじゃなくて、レイが早いんだよ? いつも危険な先頭を走ってるからね」

「あ、すみません。失礼なことを……」

「大丈夫。もーっと嫌味っぽいことたくさん言われてるから、ねぇ?」


 慌てて謝るエレノアに対して、アルフレッドは気分を害した様子を一切見せず、冗談めかして躱す。

 レイモンドが彼を優しいと評した理由が早々にわかり、エレノアはホッとした。


「でも、お前も今回の遠征で昇級なんだろ? アル」

「まぁね。……そろそろ認めてもらえるといいんだけど」

「あら。噂のかわい子ちゃん?」


 ロゼの口から飛び出すのは一見脈絡のない言葉だ。

 首を傾げるエレノアに気がついて、アルフレッドは苦笑しながら説明する。


「好きな人がいるんだけど、ね。彼女本人にも家族にも、関係を認めてもらえてないんだ」

「彼女本人にも、ですか」

「でも想い合ってるのは確かだよ。この遠征が終わったら、改めて心からの想いを伝えるんだ」


 アルフレッドはまっすぐな瞳で言い切った。

 レイモンドは楽しそうにヒュウと口笛を吹いて茶化しているが、エレノアは背筋に嫌なものを感じていた。


(これって、いわゆる死亡フラグってやつじゃ……)


 思いついた嫌な言葉を、頭をぶんぶん振ってかき消す。

 遠征の間、自分を元気づけるために好きな人のことを考えるのが、悪いことなはずがない。


(それにしても。恋愛かぁ……)


 隣にはロゼ、目の前にはアルフレッド。

 2人とも自分の芯を持ったかっこいい大人に見えるが、恋をしているわけで。


 エレノアは二度の人生で、どちらも恋愛とはさっぱり無縁だ。

 だからと言って2人を羨ましいとは思わないが、案外不要なものでもないのかもしれない、と周りの人を見ていると思う。


(でも、私は……)


「エレノアちゃんは、恋人や好きな人はいないの?」

「えっ!? あ、もしかして声に出て……」

「うん。『恋愛かぁ……』ってプリンセスのようなため息をついてたよ」

「わぁ! 再現しないでくださいっ!!」


 アルフレッドに指摘されて、エレノアは顔を真っ赤にする。

 その隣で、なぜかレイモンドが真剣に息を呑む音が聞こえた気がした。

 

「わ、たしは……薬一筋なので! 恋愛の予定はありません!」

「そっかぁ。残念だったね、レイ」

「……お前な」


 アルフレッドがニヤニヤとレイモンドを揶揄(からか)い、レイモンドはそれに仏頂面と低い声で答える。

 なぜレイモンドに呼びかけたのかわからず、エレノアだけがぽかんとして首を傾げた。



    *    *    *



 何事もなく1日が過ぎ、夜。

 テントがいくつも並び、魔導具の明かりで煌々(こうこう)と照らされたベースキャンプの中を、エレノアは歩いていた。


 女性用のテントは4人で共用の、広いものだった。

 エレノアとメメル、ロゼともう一人、ガーベラという女性の治癒師が一緒に使うことになる。

 山の夜は涼しく、寝心地もよさそうだ。ジリジリという虫の音が、BGMのように響いている。


 嬉しいことに、仮設の魔導シャワーが設置されていて汗を流すことができた。

 エレノアはその帰りというわけである。


(寝て起きたら、いよいよ騎士の人たちは戦いに行くんだよね……)


 まだキャンプは寝静まらない。

 迫る戦いの気配に、エレノアはぷるりと身震いした。

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