22.似たもの同士
「い、いらっしゃいませっ。えっと本日は、どのような……」
「こんにちは。子どもの怪我に効くものを何かもらいたいんですが」
次に来たのは若い男性だ。
一度来たお客さんの顔は大抵覚えているはずのエレノアだが、彼の顔に見覚えはなかった。初めましてのお客さんだ。
薬を指定されずに相談を持ちかけられるのは、デボラの初接客には荷が重いだろう。
エレノアはそう判断し、接客を引き継ぐつもりで応対を始める。
「ありがとうございます。お子さんはおいくつくらいですか?」
「5歳と7歳の男の子です。今度家族でキャンプに行くので、旅先の怪我や病気対策にと思って」
「素敵ですね。では……」
薬の中でも甘い味付けの、キャンディとシロップのサンプルを手に取る。
5歳の子がいるなら特に、薬草本来の味が多少残るスナックや薬茶は不向きだろう。
「この二つの薬はどちらも甘くて飲みやすいかと思います。キャンディの方は、ハーブも入っていて風邪や倦怠感によく効くものなのですが……」
「わっ、私のおすすめはシロップ、ですっ。飲み物に溶かして飲むことで水分補給と同時にこなせますし、消化も早いです。それにたとえばお子さんが痛みで泣いてしまってたら、キャンディは上手に舐められないかもしれないので……!」
エレノアは驚いて、思わず口を閉ざす。
隣でもじもじと黙っていたはずのデボラが、エレノアよりずっと詳しく、薬の特徴を説明してくれたのだ。
どちらの薬を勧めたものか、店主であるエレノアすら迷っていたのに。
お客さんの立場に寄り添ったうえで、料理人志望の彼女らしい消化にまつわるアドバイスまでついていた。
やけに静かになった店内で、デボラは不安そうにエレノアを振り返る。
「……で、合ってますよね?」
「えっ、あ、うん!」
「では店員さんのおすすめ通り、シロップのものを2つ頂こうかな」
「はいっ。あ、ありがとうございます!」
弾んだ声で返事をするデボラを見て、エレノアは微笑みを浮かべる。
何もエレノアが心配するようなところはない。
デボラはこの店のことやお客さんのことをよく考えるがゆえに慎重になっているだけで、できないわけではないのだ。
そのまま、代金の受け取りと商品の提供まで、デボラは言葉を詰まらせながらもミスなくやり切った。
エレノアは隣でニコニコ見ていただけだ。
「丁寧にありがとう。また来ます」
「……! はい、ありがとうございました!」
「お大事に」
二人でお客さんを見送る。そして、どちらからともなく顔を見合わせた。
「で、できました……」
「すごいよ、おすすめの薬まで選んでくれて……! お客さんも喜んでた」
「はい……!」
カウンターの外に二人して追いやられていた、犬猿の仲だというロランとレイモンドも今は二人してデボラを温かい目で見つめる。
先ほど一喝されたので、彼女を邪魔しないよう、レイモンドは怒りを堪えていたようだ。
エレノアは、店の壁にかかっている時計をチラリと見る。
時刻はちょうどお昼どき。
神殿が昼休憩に入り、このあたりの人通りはグッと減る。客足も途絶える頃だろう。
「それじゃあ、二人とも接客ができたところで、昼休憩にしましょうか。食事を用意しますね」
「えっ、まさかのご飯つき!? ラッキー! ありがとっス、店長!」
「私、お手伝いしますっ!」
「ありがとうデボラちゃん。レイモンド様もご一緒していかれますよね? ロランさんとの事情、ゆっくり聞かせてもらいますから!」
レイモンドとロランを食卓につかせ、二人を残してエレノアとデボラは台所に向かった。
二人がまた喧嘩を始めないか心配なので、ささっと昼食の用意をしてしまいたいところだ。
「冷蔵庫、見てもいいですか?」
「うん、どうぞ。といっても大したものはないけど……」
薬草こそ常温保存が一番なので冷やしていないが、薬に使うハーブやら何やらが入ったエレノアの家の冷蔵庫からは草っぽい独特な香りが漂う。
デボラは眉をひそめながらも、料理人の目でそこを物色した。
「薬草って、料理にも使えるんでしょうか」
「それ、私も試してみたいと思ってたの。お料理のセンスがあればって何度思ったことか」
前世ではずっと実家暮らし、今世では寝食を犠牲に薬の研究。
エレノアが料理を上達させるようなタイミングは、二度の人生の中に一度もなかった。
でも今はデボラがここにいる。エレノアの好奇心に火がついた。
「ずっと考えていたことがあって。薬草って、強い熱を与えると苦味が減って香ばしい味わいになるの。工房に売ってるスナック薬みたいな感じでね。だったらオーブンで焼いてもいいんじゃないかと思って……」
「私もあの味、アクセントに使えるんじゃないかって思ってました。たとえば魚や鶏肉を……あった! この鶏肉、何かに使う予定はありますか? 今私に料理させてくれたら、とってもおいしい薬草料理にしてみせる自信があるんですけど……!」
薬草マニアのエレノアと、料理マニアのデボラ。
二人の興味のある領域が重なり、ワクワクした気持ちは共鳴する。
「ぜひ使って! ちょうど今日のお昼に焼くか、使わなければ冷凍して少しずつ食べようと思ってたんだけど」
「ありがとうございます。では指揮するので、調理していきましょう!」
エレノアが買うだけ買ってちっとも上手く活用できていないオーブンと、鶏もも肉と、薬草。
それらを前に、デボラは腕まくりをした。




