21.初めての接客
✅21.初めての接客
レイモンドとロランの言い争いで慌しかった店内に、落ち着きが戻る。
やってきたのは、最近よく店を訪れてくれるようになった初老の女性だ。
彼女は店内をぐるりと見渡して、首を傾げながら微笑む。
「あら、新しい店員さんが増えたのねぇ」
「はい、新入りです! よろしくお願いします!」
誰が店員か一目でわかるように、腰に提げる緑色のエプロンを用意してある。
それをぐるりと雑に体に巻きつけて、ロランは笑顔で女性に挨拶をした。
「今日はどうされたんですか?」
「頭が痛くってねえ。天気が悪いと調子が出ないのよ」
「それじゃ毎回神殿に行くのも手がかかるし辛いですね〜。頭痛なら……薬茶っスかね?」
ロランはカウンターに入り、薬のストックが置かれた棚をぎこちなく開ける。
いざというときに手助けできるように、エレノアも体を半分カウンターの中に滑り込ませた。
「ええ、前もティーバッグを買ってすごくよかったの。少し多めにお願いしてもいいかしら」
「えっと……」
「一度に10回分までご用意できるんですけど、それでいいでしょうか? 使用期限は一ヶ月になります」
ロランが困っていると見て、エレノアは後ろから助け舟を出す。
カウンターの外で様子を見守っていたレイモンドが、つかつかとエレノアの隣に歩み寄ってきた。
「なんでロランに接客させてるんだ。俺は店員だって認めてないっ、愛想だけのクズだぞソイツは!」
「あぁ、ちょっと! 後で話は聞きますから、カウンターには入らないでくださいねっ」
声こそお客さんの前だからとひそめているが、レイモンドはまだ納得していないらしく、今にもロランを引っ張り出しそうな勢いだ。
エレノアはレイモンドの腕を掴んで、なんとか落ち着かせる。
そうしているうちに、ロランは接客を進めていく。
「じゃあ1週間分で、7つお願いできるかしら。毎日飲むわけじゃないから、一ヶ月ならそのくらいだと思うの」
「かしこまりました!1個500ゴールドなので、えっと7つで……」
計算は得意ではないらしく、たどたどしく指を折って数えているのを隣で見守る。
きちんと3500ゴールドを受け取って、薬茶のティーバッグを丁寧に箱に詰めていくロランの手先は器用だった。
「ありがとうねぇ」
「ありがとうございましたっ! またしんどくなったらいつでも来てくださいね」
「ええ、嬉しいわぁ」
女性はニコニコと微笑んで、店をあとにする。
その背中を見えなくなるまで見送って、エレノアは明るい声を上げた。
「ロランさん、すごいです! 期待通り、いやそれ以上に愛想が良くて接客が上手! お客さんが笑顔で帰っていくのって、すごいことよ」
「やった! ありがとうございます、店長!」
「待て、何いい雰囲気になってるんだ!? こいつは最低なやつなんだって! 騙されるな、エレノアっ!!」
カウンターの外に追いやられたレイモンドが一人、地団駄を踏む。
その隣では、静かに俯いたままソワソワと手をこねるデボラの姿があった。
「わっ、私にもできるでしょうか。不安になってきました……」
消え入りそうな彼女の声に、みな言葉を止めてデボラの方を見る。
確かに彼女にはロランのような、突き抜けた明るい印象はない。
ロランの接客を見ていて、同じようにできないと思ってしまうのも無理はないだろう。
エレノアはデボラに歩み寄り、その肩にそっと手を置いた。
「ロランさんとデボラちゃんの長所はまた別だから。きっとデボラちゃんの優しさは伝わるわ」
「そ、そうですかね……」
「私も一緒に隣に立つから、次はデボラちゃんが接客してみてくれる?」
「はいっ……! 緊張しますが、がんばり、ます!」
強張った顔に少しだけ笑顔が戻る。
二人でカウンターに入ったちょうどそのとき、次のお客さんが来て店の扉が開いた。




