表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おいしい薬の作りかた 〜近未来の魔法世界に転生したのに、なぜだかみんな薬草だけは生でかじってばかりです〜  作者: りっく
第1章 辺境の薬屋と無敵の騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/62

12.お薬クッキング〜その2〜

 二つの薬の説明を終えたエレノアは、できあがったキャンディのもとを型に流し込みながら、次の薬の説明に移る。


「あとは、スナックですね。これは薬というより、体に優しいおやつといったところでしょうか」

「へえ。それはかなり気になるな」


 レイモンドが興味津々に答える。おやつが好きなのだろうか。 

 スナックは、ディエゴたち街の工房の職人が買っていってくれるおかげで、エレノアの薬屋の主力商品になっている。

 いわゆる葉野菜チップスのようなものだ。


「薬草やハーブ、それから旬の野菜も入れてもいいですね。市場で安かったものを選ぶので、作るときによって中身が違うんですけど……」


 エレノアはすぐそばの食糧庫から適当な葉野菜やハーブを取り出す。

 食糧庫の中は魔法で温度が一定に保たれているので、葉っぱは新鮮なままぴんと青々伸びていた。


「これに油と塩を絡めて……」

「その油には何も仕掛けはないのよね?」

「? はい。普通の食用油です」


(まだ疑われてるみたい。レイモンド様が最初に言ったように、変なものを混ぜてるんじゃないかって思われてるのかな?)

  

 ロゼはエレノアに疑り深い視線を向けるが、エレノアはその意味を誤解していた。

 あくまでロゼは、エレノアがまた植物や食品に関する未発見の性質を言い当てるのではないかと思っているのだ。


「そう。何もないならいいの」

「はい。そもそも薬草は高熱を加えると苦味が減るので、特に工夫は不要、です」


 コンロの上の使い終わった鍋をどかし、代わりに鉄のフライパンをセットする。

 強火でフライパンを温め、熱が行き渡ったところで葉っぱを放り込むと、パチパチと油の跳ねる音が台所を満たした。


「……薬草は高熱を加えると苦味が減るって?」


 ロゼはエレノアの言葉を呆然とおうむ返しにしたが、その声は油跳ねの音にかき消された。



「そもそも、どうして薬草を調理しようと思ったの?」


 3種類の薬を作り終え、エレノアはロゼとレイモンドを食卓に案内した。

 先ほど揚げたばかりのスナックをレイモンドが食べてみたいようだったので、試食の場を持つことにしたのだ。

 淹れたてのハーブティーがほかほかと湯気を立て、まったりとした空気が場に流れている。

 

 ロゼは味見として渡されたキャンディ薬を口の中で転がしながら、エレノアに問いかけた。


「えっと……いろいろ説明すると長いんですけど。生の薬草だけでは治せなくて亡くなった人を、たくさん見たんです」

「まさか、あの竜災の経験者か?」


 食い気味に、レイモンドが質問を挟んでくる。エレノアは静かに頷いた。

 レイモンドは気まずそうに目を逸らし、絶妙な沈黙が一瞬、食卓に下りた。


「……治癒師の耳が痛い話だけれど、あなたはそう思わなかった。治癒師頼みでなく、薬草がもっと飲みやすくて効果的なら間に合ったかもしれない、と思ったのね?」

「そうです。あっ、そのときはそんな大きなこと考えてなかったんですけど。どうしてこんな非効率的なことを? と思ってしまって」


 エレノアはどこか恥ずかしそうにしながら、ロゼの言葉に首肯する。

 ロゼは顎に手を当てながら、考え込むように呟いた。


「非効率的、ね……。実際、あなたの薬の効き目はレイから聞いた。何か爆発的に治癒効率のよくなる要因が、今の調理に……?」

「治癒効率、ですか?」

「あぁ、治癒魔法の用語よ。なんていうか……治癒というものは()()()なの。治癒魔法は人の体を治す魔法ではなくて、回復力を高めるもの。だから完全に死んだ人は生き返らない――薬草も同じでしょう?」

「そうですね。でも、それで言うとレイモンド様の治癒力がただ人より抜きん出ているという可能性も……」


 二人の視線を浴びて、レイモンドは首を傾げる。あまり話の流れを理解していなさそうな顔だ。

 ポカンとしているレイモンドを見て、やがてロゼはくすくす笑い出した。


「いいわ。レイ、いい店を教えてくれてありがと。王都でもいろいろ報告しておく」

「? ああ、よくわからんがお前が納得したならよかった」

「ロゼさんはもう王都に帰られるんですか?」


 話を切り上げて立ち上がったロゼに、エレノアは尋ねる。

 せっかくこの街まで来たなら、ホリーの顔を見ていけばいいのに、と思ったのだが。

 いらぬ気遣いだったらしく、ロゼは照れくさそうにはにかんだ。


「……その、ね? ランチの約束があるの」


 大人っぽいと思っていたロゼの表情が、一瞬だけ少女漫画のヒロインのような可愛らしい少女に戻る。

 エレノアは、特大の愛を見せつけられた気分になってパチリと瞬きをした。


 そのまま、ロゼは軽やかな足取りで店を去っていった。

 残されたレイモンドは、ロゼが飲みかけで残していったハーブティーのカップを見つめながら苦笑した。


「悪いな、人を振り回すのが得意なやつで。しかし腕と知識は一流だから困る」

「仲がいいんですね。レイ、って呼ばれてましたし」

「ああ、レイモンドなんて格好つけた名前はもったいないとよく言われるんだ。君も呼んでくれてかまわないぞ」

「まさか!」


 薬草チップスをパリパリと咀嚼しながら、レイモンドは(てら)いのない笑顔を浮かべる。

 しかし相手は王都の二級騎士だ。エレノアは恐縮して、顔の前でぶんぶん両手を振った。


「俺もそろそろお暇しようかな。用は済んだし、いつまでも店を閉めさせてるのも悪いからな」

「あっ、はい。お気をつけて」

「この、スナックだったか? 気に入ったよ、帰りに一袋買っていっていいか?」

「ありがとうございます!」


 薬を買ってくれると聞くとエレノアの顔はパッと明るくなる。

 レイモンドを店の方に案内し、急いでスナックを紙袋に詰めた。


「こちらで3000ゴールド……はい、ありがとうございます!」

「こちらこそ。それじゃあまた」

「はい!」


 また、と言ってくれるのが何より嬉しかった。

 出会い方こそ不思議だったが、騎士のお客さんができるなんて幸せなことだ。

 彼が誰かのために戦う手助けになるのなら、薬を長年かけて研究してきた甲斐もある。


 自動扉に魔力を流して起動させると、すぐに機械音が鳴って扉が開いた。

 同時に目隠しの魔法も外れ、外の景色が見えるようになる。

 

 片手をあげて店を出ていくレイモンドとすれ違うように、店に入ってくる人影があった。


「いらっしゃいませ……」


 フードを目深に被った男性だ。この辺りで見たことのない出立ちを不思議に思いつつ、エレノアは笑顔を浮かべた。

 店の外で、レイモンドも違和感をおぼえたように振り返る。


「ここが話題の薬屋かぁ」


 小さな、低い声。地を這うような怪しい響きに、エレノアは直感した。

 この人は、お客さんじゃない。


「――きゃあっ!?」


 男がカウンターに走り寄る。

 エレノアの視界に飛び込んできたのは、振り上げられた鋭いナイフの光だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ