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怪物の花園  作者: 賭命始祖


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33/35

33.三人目の一級

(ヴィア)

 場の空気が重い。私は横をちらっと見上げて、ヨミを見た。ヨミもヨミで退屈そうに唇を曲げている。顔が整っているのは変わっていないか。


 この場にいるのは、四人。ヨミ、私、フュスラ、アイナ。監獄の権力の一角を司る者が二名、最底辺を這いずるものが二名。一級の二名が話そうとしないから、私達も口を開かない。何か良いことを話せるほど器用ではなく、場の空気を和ませる必要があるとは思わない。恐らくヨミも同じように考えており、よって場の空気は意味もなく張り詰めていた。アイナの右手の爪が、座った椅子の肘掛けを叩く。コツリと音が鳴る。苛立っているのだろうか。


 こうして奇妙な顔ぶれが集まっても部屋の中で膠着している理由はただ一つ――――メイトが来ないから。


 そもそも私とヨミはメイトが呼んだから来たのだ。そのメイトも、何で私達を呼ぶのか言わなかった。メイトは奔放だし、それ故に強い。なら受容するしかない。この監獄では強さが全て。


 そう、強さが全て。一時期酷かった体調の崩れと頭の痛みはすっかりなりを潜めている。だが、ここ最近の好調の原因はそれだけではない。さすがに認めなければならない――――メイトと【絡の籠】を締結してから、毎日はおそろしく楽になった。絡まれることは最早殆どない。一体どこから情報を手に入れたのか、締結した三日後には、廊下ですれちがったとしても睨まれるだけになった。身体への負担が少ない。夜はよく眠れる。食事はとれる。訓練の他に怪我をすることはない――――素晴らしい。


 監獄は、実に単純な原理で動いているのだ。ここでは人とはかくも、脆い理の中で生きている。強さに服従するか、強さに蹂躙されるか、どちらでも結末は変わらない。


 こん。と、部屋の扉が叩かれる音。アイナとフュスラは少し顔を傾けた。


「どうぞ――」


 アイナが何も言わないのを見て、フュスラが言った。扉が開かれる。メイトではない。メイトがこんなに静かに礼儀正しく入ってくることなどない、だろう。


 白髪が覗いた。


 その人物は無言で歩を進めて、部屋の中に入ってくる。一級達は椅子から立ち上がるでもなく、何をするでもなくその行動を見つめていた。私とヨミは視線を交わす。一人増えたのに誰も何も言わない状況に痺れを切らしたのか、アイナがきつい口調で言った。


「――――遅いわよ。カーテ」

「悪い」


 端的に発された返事。その女性はかなり背が高かった。私よりも頭一つ分ほど高い。短く切られた白髪。透き通って大きな翠の目。豊かに張り出した胸。それは無表情な線の薄い美少女であった。とはいえ見た目は儚げだが、その言葉遣いも、その身体の筋肉も、少女をか弱いという印象からはほど遠いものにしていた。


 一級、カーテ。ここにて、一級全員集結。それはたいそう絢爛な眺めであった。方向性の異なる、とびきりの美少女が三人。まあ、それを見て私の頭に浮かんでくるのはシュナはどうやって【絡の籠】をこの三人と締結したのかっていう些末なことしかないけれど。


「カーテ、メイトはどうしたの?」


 カーテとメイトは同じ【派閥】に属している。静かそうなカーテととにかく賑やかなメイトがうまくやっていっているというのは想像がしづらいが、それくらいのほうが互いに楽なのかもしれない。


「治療中だ」

「状態はどうなの?」

「命に別状はない。だが随分、食われていたようでな。体中に骨に達するかという深度の噛まれた痕がある上、自分の《刻印》でも怪我をしている。とれた腕も足も見つからなかったから、治療に時間がかかりそうだ」


 カーテは淡々とそう言った。――――メイトが?あのメイトが?私は信じがたい思いでカーテを見た。メイトはアイナともほとんど互角にやりあったというのに。


「相手は誰なの?」

 

 フュスラの声は別段変わらなかった。メイトを気遣うでもなく、驚くでもなかった。それもそうか。


「君らももう会っただろう?」


 謎かけのような言葉であった。だが、一級の二人には通じたらしい。珍しいことに、二人の顔が同時にしかめられた。カーテはそれを見て、唇の端を僅かに上げた。


「さあ、始めようか」


 カーテは静かに椅子の一つに座った。長い足をぞんざいに組む。形の良い手が肘掛けに添えられた。カーテは風格を纏っていて、美しかった。


「状況は思ったより複雑ね」

「そうだね。メイトもか――――」

 

 会話は唐突に始まった。私とヨミはもちろん、一言も話さない。そもそもメイトが来ない時点で私達はここにいてはいけないだろう。身分の程はわきまえておかなくては。


「メイトが襲われたのは自室だ」


 弾かれたようにアイナとフュスラはカーテを見る。その顔に浮かんでいた表情を何かというのは難しい。驚き、喜び、恐れ、緊張、戦闘欲、およそ一級において見ることの少ない感情が雑多に交ざっていた。人間らしいと言えば、失礼か。


「どこから入ってきたのかしら?」

「分からん。少なくともどこも安全な場所はない」

「逃げられないってことかぁ。困ったね」


 話は進んでいくが、何について話しているのかは分からない。メイトは何に襲われたのか?そして一級もそれに襲われたことがあるのか?――――一級は負けたのか?


 ふと思った。私はとんでもない話を聞いているのではないだろうか。


 居心地が悪い。だが、ここでさようならという度胸はない。私とヨミは、じっと一級の会話を聞いていた。それは最早、耐えの時間。具体的な言葉の出ない一級の会話を聞かされるだけの時間。それほど苦ではないか。


「これ以上は話しても埒があかないわね」

「メイトの治療が終わったら、もう一度話そうか。とはいえ、そんな時間があるかどうかは怪しいかもね」

「だがそれが良いだろうな」


 かなりの間話し合ったあと、一級はそう結論づけたらしい。ぽつりとアイナが言った。


「――――監獄は堕ちるかしら?」

「打ち所が悪ければ」


 間髪いれずに返されたカーテの言葉に、ふふっと一級達三人が笑う。何が面白いのか私には分からない。ヨミも笑っていないから私は普通だ。


「ああ、そう、それでヴィア」


 不意に話の矛先が私に向いた。私はアイナを見つめ返す。アイナは躊躇っていた。言いづらそうだった。


「シュナは元気?」


――――え?


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