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怪物の花園  作者: 賭命始祖


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31/35

31.一級対二級 その後

(メイト)

決闘の最初は順調。といっても俺が人前で自分の《刻印》の能力を晒すのは八年ぶりとかだもん。正直、アイナが初撃にあんなに対応して見せたのが想定外。少しでも遅ければ首の深くを切れたのに。


 そんなことに構う暇もなく、二撃目、三撃目。このあたりは五分だった。俺がそんなに良かったとも思わないけど、アイナが良かったとも言えないね。


 でも花が俺の首筋に咲いたときはさすがに変な感触だった。視界の隅が花で赤く染まっていたし。特に考えずに、炎をむしり取ったけれど、ちょっと無茶だったかな。指に火傷の痕が残った。《刻印》は俺の身体に良く馴染んでいたし、炎と風は互いに絡め取ろうともがきあっていた。なかなか良い舞台だったのに。――――殺すにも、殺されるにも。


 戦いあっている相手のことは、不思議とよく分かる。人の心があんまり理解できない俺にも分かる。アイナは本気だった。俺も本気だった。だから、あと一歩だった。その一歩を踏み出す前に、決闘は急に中断された。


「――――中止せよ」


 スピーカーから突如その声は降ってきて、アイナの動きが束の間止まった。俺はそのままアイナを攻撃しても良かったけれど、やめておいた。殺すにたる動機は俺にない。殺そうとするなら殺すけど、殺したいわけではないからね。


 しばし、沈黙が流れる。スビーカーは続きの声を発さない。


「メイト、貴方強いわね」


 アイナは相変わらずのちょっと高くてつんととまった声をかけてきた。一度訊いたら忘れられないような声なんだよねぇ。俺は首を傾げる。


「ん――――。アイナを倒せなかったからそうでもないよ」


 ふんとアイナは鼻で笑った。俺もつられてにっこり笑う。俺はそのついでに上を見上げた。二階から何十人という顔が見下ろしてきていて、俺達に向かって叫んでいる。賑やか。っと、二階と一階の壁がせりだしてくる。ちょうど、あるべき場所に床が戻っていくように。俺達を覗き込み叫ぶ顔は次第に見えなくなって、俺達だけが残った。


 俺はアイナに視線を戻した。いつの間にかアイナは扇を閉じている。花も咲いていない。切り替えが早い。


「中継も止まっているようだしね。どうしたんだろ?」

「分からないわね」


 アイナは首をすくめて、それ以上、どうして急に中止になったのかについての会話は必要なかった。道理の通らないことについて考えても仕方がない。俺達はそれをよく知っている。


アイナは俺を見ていて、その口は開きかけて閉じた。何かを言いかけた?じっと見つめていると、アイナは観念したように口を開いた。唇の端に擦れて滲んだ赤い色がよく見える。


「メイト、カーテは元気かしら?」

「ん?元気だよ。でも、どうしてそんなこと訊くの?」

「――――最近、色々と奇妙なのよね」


 アイナが続けて何かを言おうとする前に、ガゴンと音を立てて、決闘場の壁の扉が開く。決闘中は厳重に鍵が駆けられていて、決闘終了と同時に空くような仕組みになっているから、今扉が開いたということは本当に決闘が終わったということだ。アイナはちらりと視線をやってから、俺をまた見た。


「一級の三人で、監獄のことについて話そうと思っているの。明らかにおかしな状況になっているもの。変な命令が上からでたことだし」


 それを俺に言うということは?ない智恵を振り絞って考える。う――ん。


「俺も参加して良い?」

「ええ」


 ぱっと俺は笑った。合ってた。その辺で、どちらからと言うこともなく出口に向かって歩き始める。決闘が急に中止されたことは、多分今考えても分からないから放置。横並びで歩いていると、アイナが再び話しかけてきた。今度は俺を見ていない。その薄い赤色の目はまっすぐ前だけを見ている。


「――――メイト、外に出たいかしら?」


 アイナの目は真剣だった。それは切実に、俺に訊いていた。ううむ、と俺は少し迷った。外に出ることについて、あんまり考えたことはない。どこでも俺はただ生きていくだけだと思ってるもん。


「どうだろ?外にでてまた違う世界が広がってるんだったら、悪くないかもね?」


 そんな答えがちょうど良いんじゃないかな。監獄での暮らしは、悪くない。いつも変わらないけれど、それでも人はいるし、訓練相手もいる。ちょっと刺激が足りないだろうか?


「さっき一級の三人で話し合おうと言ったけれども、ヴィアを呼んでくれるかしら」


 その言葉は唐突だった。首を傾げて、でも特に断る理由はない。でも、なんでだろ?――――まあ、いいや。


「りょ――かい。ヨミも呼んで良い?」

「ヨミって誰よ――――ああ、【絡の籠】を締結したもう一人?」

「うん。別にいいでしょ?シュナを呼んだっていいんだからね」


 アイナの顔が一瞬だけ曇った。相変わらず、アイナはシュナって人が関わると表情が分かりやすい。鈍い俺でも分かるんだから相当だ。


「分かったわ」


 その答えは微妙であった。アイナは肯定とも否定ともとれる言葉で場を濁した。ふとその表情から険がとれる。アイナはどちらかというと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「治療がいるかしら?」


 首筋には火傷の痕が酷く残っている。ひりひりとしていて結構痛い。俺自身は治療が得意じゃないから、毎回こういう傷には困る。傷を受けないように戦うのが俺のスタイルなんだけどなぁ。変わっていかなければ、生き残っていけないか。


「おねがぁい」


 アイナは扇を開く。戦闘中と同様に、俺の肌に赤い花が咲く。今回俺は無抵抗とはいえ、相変わらずむちゃくちゃな《領域》の浸食性の高さだ。人に花を生やすって、どうやってるんだろ?


「――――相変わらず、恐れない人ね」


 少し冷えた声。アイナのその言葉がどんな意味を持っているのか、俺は多分、理解はしている。共感はできないけれど。アイナはこう思っている――――私がこの花を発火させたら、メイトは死ぬのにどうしてそうも無防備なのかしら?


――――でもアイナはそうしないでしょ?


 信頼といってもいいかもしれないし、勘といってもいいのかもしれない。どちらにせよ、アイナにそんなことをする理由はないから、アイナが俺を傷つけるなんて心配はしなくて良い。俺は笑った。他の人はそうは考えないのだと、そう学んできた。


「なんで恐れるの?」


 俺は笑って訊いて、アイナは呆れたようにため息をついた。返事の代わりに《刻印》が行使される。


――――《丹零花(あかはな)


 花は炎へ。傷を埋める。


――――破壊と再生の炎。


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