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怪物の花園  作者: 賭命始祖


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28.不在の管理人

 メイトと別れた後、私とヨミは、訓練室の一つで話し合っていた。


「どう思う?」


 ヨミは私に訊いた。さっきのメイトとの三人の会話では、話のスピードに乗れず、ほとんど喋らなかったがヨミはどうやら私の頭が追いつくまで待ってくれる気らしい。


「――――監獄には管理人が誰もいない」


 メイトの言葉がまざまざと思い出される。それはそうだ。私達は、スピーカーのみを通して訓練の指示を受け、勝手に組まれた相手と試合を行う。生きている人と会ったことがない。


「メイトの言葉は言われてみれば確かにそうだ。だが《ベラ》は支給されるし、日常は上の決めた通りに動く。生身の人がいないだけ」


「だが、それは大きな異変だ。あいつらは今も俺達を見ているのか?監獄から出されて戦争に投入されるはずなのに、その予告は一切ない」


 外界との繋がりを絶たれ、監獄に閉じ込められた種。大切に育てたとしても、果実を取るタイミングを間違えれば腐り落ちるのみ。


「まるで決まりきった日常を繰り返したいように思えるね」


 私とヨミは、頭に浮かんだことを呟きあった。互いの考えにいちいち反応することはせず、相手の考えに乗り移ったり、別方向に行ったりしながら深く潜ろうとする。考えの材料は私達の日常そのままだ。


「食事を調理している人は?食材はどこからきている?廃棄物はどこへいった?」


「治療は誰がやっている?仕組みは何か?少なくとも《刻印》ではない」

 

「なぜ管理人は姿を見せない?監獄の維持の費用はどうなっている?」


「監視の方法は?そもそも私達を本当に戦争に送り出すのか?私達は用済みになったのか?だが、生きていくために十分なものは与えられている」


「飼い殺し?毎日することは決められている。違反には《ベラ》がつきものだ。同じことをさせたいのか?」


「やることは同じ。変わり映えのない日々」


「同じことをやるしかないのか?」


「上は変えられない?変えることができない?」


「その権限がないのか?それとも、本当にできない、か」


「――――管理人は、人じゃない?」


 そこまでいったところで、私達は自然に黙った。証拠がない憶測で飛んだ話は、一応の着地点を見せる。それはふよふよとした結論だった。今まで私達がそうだと思っていたことが、覆されるからそう思うのか。どうだろうか。


「分からんな。人じゃないなら機械か?確かに手間は省けるかもな。だが、俺達が出荷に適したタイミングになっても野放しにしているのが分からん」


「だね。それに、それが正解でも脱出法に繋がらない」


 ヨミはそれを肯定しなかった。


「――――いや、それはそうでもない。機械が決められたことしからできないのならば、脱出法への対策にも限りがあるってことだろ。試行錯誤してりゃ、いつかは逃げ出せる」


 なるほど。私の思考は相変わらず狭い。柔軟さがない。


「そもそもヨミって、脱出しようとしたことある?」

「あるわけないだろ」


 ない。私もない。


 私達はここで育ち、ここ以外の環境を知らない。ここが私達の、こういう言い方は嫌いだが、家なのである。

 

 ここは地獄であろうか?知らないとも。私からしたら、死にかけの楽園か。でも悪くない。私はこの環境で形成された。


「脱出してみようと、周りを見てみるわ。本当に無理そうなら、メイトを止められるだろ。メイトに負担をかけすぎるわけにはいかない。あいつは俺達とは違う」


 そうだねと言って、私は頷いた。メイトに頼りすぎてはいけない。そもそも、ずっと援助してくれるという保証もないのだ。ヨミは立ち上がる。ここで話は終わりということか。


「ヴィアは図書室か?時間はないだろうけど」

「そうする。メイトのおかげで本を借りる《ベラ》があるから」


 私は立ち上がりながら、自然とヨミに訊いていた。


「ヨミは自由時間には何をしてるの?」

「――――訓練」


 なるほど。私の口はさらりと返した。


「そう」


 私ももっと幼い頃は訓練ばかりだった。図書室に行くようになっても、《ベラ》の貯蓄が怪しければ普通に訓練をすることはある。


「――――植物園に行きてぇの」


 私はヨミを見上げた。なんで言い直した?ヨミは言いづらそうで、私から目を背けた。ただの照れだろうか。


 植物園だから植物がたくさんあるのだろう。そもそもそんな施設があることを初めて知った。植物園は、おそらく入館に膨大な《ベラ》を必要とする。高位の《ランク》の人しか行こうとは思わないだろう。普通ならば。

 

「自然が好き?」

「文字と写真でしかならったことないけどな」


 それは肯定だった。ヨミはそうやって話す。少しだけわかってきた。


「ヨミは外に行きたいのか」

「そうだな」


 私は外に行くことを望むことはない。外に行けと言われたら行くだろう。その事実だけを受け止めて行くだろう。だがヨミは望んでいる。それは私とヨミの最も大きな違いだった。


「空の下は、風の音は、緑の色は、どんなものだろうな」


 私は少し、戸惑った。ヨミのその言葉は、多分、ヨミの深いところを表していた。それは容易に人に踏み込ませない領域。皮膚の内側を晒すようなこと。


「――――どんなものだろうね」

 

 私はそう、返答した。


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