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怪物の花園  作者: 賭命始祖


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18/19

18.一級指令

「ねぇ、どうして私達なのかしら?」

「一級だからじゃないかな」


 その二人は歩いていた。


 一人は赤い吊り目で絢爛な着物に身を包み、赤髪の混じる黒髪を結い上げている。もう一人は蒼い眼でワンピースを着ていて、細かな金髪は腰に届くほど長い。


 どこから見ても非の打ち所のない美しい少女であった。


 一級、アイナ並びにフェスラ。


「それは見たら分かるわ。私が訊きたいのはどうして戦闘の相性が悪いこの二人なのかってことと、どうしてカーテがいないのかってことよ」


 アイナは言葉の端に刺を生やしながら今この場にいないもう一人の一級の名前を挙げた。フュスラはとくに悩む様子も見せず邪気なく答えた。


「そんなの分からないよ。というか頭のよいアイナが分からないのに、私に分かるはずないもん」


 アイナは返事をしなかった。フュスラは気にしなかった。暫く無言の時間が流れた後、アイナは口を開いた。


「最近、上からの個別の命令が多いと思わない?特に治療で」

「う――――ん、そうだね。試合の日は多いね。みんな血気盛んだよね」


 アイナのフュスラの両名に回されたた収監者は全員、死にかけであった。であるのに血気盛んだよねの一言で片付けられれば世話はない。アイナはふんと鼻をならしかけて寸前でやめた。フュスラはそういう人だ。


 二人はエレベーターに乗った。いつもはスピーカー越しの命令だが、今日は呼出だ。


「上層にいくのかな?なにか不備があったとか?」

「どうかしら?――――そもそも私達はこの監獄がどこで管理されているのか知らないのだし、呼出であるから更に深いところかもしれないわ」


 《ランク》下位の者がすむ上層、そこにこの二人が自発的に足を踏み入れることはない。その必要がないから、そうしない。二人は最初から一級であったから、そもそも上層に住んだことすらない。


 二人の乗せたエレベーターは静かに出口を閉じた。高位ランク専用のエレベーターは広いとはいえ、それでも閉じられた箱という点に変わりはない。


「やっぱり上に向かっているね」


 持ち上げられていく感触。フュスラは確認のようにそう言った。アイナは赤く塗られた唇を引き結び、不機嫌そうにして何も言わなかった。ところがその状態のまま一定時間過ぎた後、二人の顔色が唐突に変わる。


「――――アイナ」

「・・・・・・そうね」


 二人の考えていることは同じだった。――――()()()


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 《領域》の使用を得意としている者は空間把握が並外れている。二人は自分の座標を客観的に捉えることが可能であった。間違いない。上に行きすぎだ。では、このエレベーターはどこに辿り着く?


「外?」

 

 フュスラは意図せずというようにしてそう零した。アイナはフュスラに目をやった後、唇の端を僅かに上げた。希望を開拓するのは結構だが、希望を与えられるのは性に合わない。だが、せっかくの希望を潰すのは愚かに過ぎる。


「どうかしら?」


 アイナの声にはさっきから一転して、楽しそうな響きがこもっていた。二人の雰囲気が変わる。パチリとスイッチが切り替わったかのように、二人の身体に闘志が灯された。アイナの右手が扇を携える。


 すぐにエレベーターは止まった。二人は扉を注視する。さて、なにがある?


「命令――――命令、一級指令」


 だが扉は開かず、かわりにエレベーターの隅に取り付けられたスピーカーから合成音が流れた。二人はちらりと視線をやって、扉に再び向かいあう。なにがおこるか分からない。アイナもフュスラも好戦的であった。


「アイナ、フュスラ――――《病》を排除しろ」


 簡素な命令、音はちぎれたように途絶え、そして二人の目の前で扉は開かれた。


 目をひくところはなにもない。ただ広く、がらくただけが存在する空間。人が住んでいる気配はない。冷たげな鉄筋が剥き出しになっているし、あちらこちらに鉄が押しつぶされて転がっている。戦闘の痕跡だろうか?不思議と埃っぽくはないが、二人がいつも暮らしている一級の住居とは雲泥の差があった。


 二人は笑みを浮かべながらも慎重に足を踏み出す。上がなにをさせたいのかはよく分からない。最悪、ここが二人の死地になる可能性もある。二人は危険の中にいた。だが、引き返す気は毛頭ない。二人が育った監獄の環境が、二人を無意識のうちに追い立てた。


 フュスラは上を見上げた。天井があった。ここは外ではない。アイナは横を見た。積まれた金属の何かが、無機質にアイナを見つめ返す。アイナは右手に持った閉じたままの扇を、自然にたてた。


「私が《領域》を展開するわ」

「私がするよ。アイナは休んでて」

「――――私がするわ」

「私がするの」


 アイナとフュスラは目を合わさない。二人はかなり離れて、背中合わせになるようにして立った。エレベーターはもう遠い。


「「お互い勝手にってことで」」


 次の瞬間全てはほとんど同時に行われた。


 アイナの手が閃き、音を立て扇が開かれる。黒い下地に鮮烈に赤花が舞っている。間を置かず香り高く見事な赤い花が至る所に花開く。どこまでも美しく、狂気的。アイナの《領域》――――《紅纖華(あかはな)》。


 微笑みを浮かべたフュスラを起点として、地面が水に覆われる。しんと静まる世界に仄かな光が幾千と降る。波紋が浮かび、干渉し合って新たな波紋を作り出す。フュスラの《領域》――――《慈しみの慰め(偽善)》。


 残骸を蹴散らし、轟音を立て、黒い影が踊り出た。それは人の三倍もある獣のようなものもあれば、人型もあって、どこから沸いてきたのか何十体もいた。それはどれものっぺりとしていたが、くるりと頭を回し、アイナとフュスラを捉える。


 一斉に黒い顔の中程が裂け、真っ赤な色合いが覗く。それはあたかも口が開けて笑ったような――――。


 アイナは笑った。フュスラは笑った。戦闘こそが、彼女達の生きる道。


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