90.波乱の魔獣討伐実習2
魔獣討伐実習2日目の朝、辺りは喧騒の中にあった。朝トイレに起きた学生が、テントの側で、引き裂かれたオーガの死体を発見したのである。それも何体も。昨日の夜は魔獣が戦う音など聞こえなかったのである。
騎士団も宮廷魔法士の護衛も気づいていないのである。強力な魔獣を一瞬で切り裂くことのできる魔獣がいる。もう恐怖でしかない。すぐに魔獣討伐実習はそこで終了となった。2年連続である。
そして、その切り裂かれた魔獣の側に1人の男が倒れていた。男の手には魔獣を操る笛が握られていた。宮廷魔法士の話では、この笛は魔獣を狂暴化させて操ることが出来る笛とのことである。
この男が魔獣を操って学生を襲おうとして、何者かによって逆に倒されたのではないかということになった。この男は騎士団で尋門することになった。
こうして魔獣討伐実習は波乱の幕切れとなった。
その後、昨年に引き続いて、辺り一帯の調査が行われたが、強力な魔獣は発見されなかった。
それもさることながら、強力な魔獣に倒された魔獣がどこから来たのか、それも謎であった。このあたりはゴブリンぐらいしかいない森である。そんな森にオーガが数体も居たのである。
「事前の調査はどうなっているのだ」事前にそのあたりを調査した騎士団に非難が集中した。それに夜半にオーガと魔獣が戦っていたはずであるが、これに騎士団と宮廷魔法士のだれも気付かなかったのである。「皇女殿下がいるというのに帝国の騎士団や宮廷魔法士はざるか」という話になった。
そして、さらに捕縛した魔法士の男が、尋門を開始しようとしたら、牢の中で自害しているのが見つかったのである。男は所属を示すものは何一つ身に着けておらず、証拠として残ったのは魔物を狂暴化させる笛だけである。
騎士団では、宮廷魔法士の協力の元この笛の出所を探ることにした。しかし、このような戦略的にも貴重なアイテムはふつう出回っていない。当然どこにそのような笛があるかといった情報などない。そのまま調査は暗礁に乗り上げた。
皇女殿下は帰ると皇帝に呼ばれた。皇女殿下は皇帝の元へ行くと人払いをしてもらった。
「昨日は大変だったな」
「はい、タマが夜半に異変に気付いて私たちを起こしてくれました」
「そうか、猫が真っ先に気づいたのか」
「そうです。魔獣は隠蔽の魔法がかけられていて、見つけるのが困難でしたが、動物の勘で見つけたようです。同時に私たちのテントの側にアリーヌ嬢がいるのも見つけました。
ここからは私の推測になるのですが、あの魔獣を引き入れたのはアリーヌ嬢の手の者ではないかと。そうでなければアリーヌ嬢が騒ぎの起きるような時間帯に私たちのテントの側にいるのは説明がつきません。
魔獣騒ぎで私たちや護衛の騎士団がテントを離れたすきにアリーヌ嬢が旦那様の貞操を狙ったのではないかと思われます。
『旦那様のテントで一緒にいたという既成事実を作れば、旦那様と結婚できる』と考えたのではないでしょうか」
「それは考え過ぎではないか。たまたまエルネスティーネ達のテントの側にいたのではないか。少なくとも彼女はそう言うだろう」
「幸い、タマが先に気づいたので、近くに隠れていたアリーヌ嬢は近衛の1人に自分のテントまで連れて行ってもらいました」
「そうか、アリーヌ嬢は問題なかったのだな。それで、魔獣はどうしたのだ」
「魔獣はタマに倒してもらいました。魔獣を操る魔法士もタマが気絶させてくれました」
「魔法士と魔獣数体を一度に周りの騎士団や魔法士に気づかれることなく無力化したというのか」
「それぐらいタマなら余裕で出来ます」
「どうやってするのだ」
「まず、最初に、周りに音を遮断する結界を張ります。つぎに魔法士に魔力を放って気絶させます。その後、魔獣を真っ二つにする。そして結界を解除する。これで終わりです」
「それだけのことを猫が出来るのか」
「出来ます。猫と言っても知能は人間並みです。『11番目の妻になりたい』と言っているくらいですから」
「そうだったな」
「今後どうなります」
「それが頭の痛いところなのだ。せっかく捕縛した男に死なれて、証拠が何もなくなってしまった」
「そうなのですか。それと皇帝陛下、騎士団と宮廷魔法士をもっと鍛え上げてください。猫にも劣るようでは頼りになりません」
「そうだな、今後は騎士団も魔法士も厳しく鍛えるように言っておく」
「私がじかにしごいてもいいですか」
「いいが、あまり手荒なことはするなよ」
「大丈夫、死にそうになったら旦那様に治癒魔法をかけてもらいますから」
こうして、皇帝との面談は終了した。皇女殿下は不満のはけ口を騎士団と宮廷魔法士に向けるようである。




