89.波乱の魔獣討伐実習1
その後、問題令嬢アリーヌはなんとかフェアフュアングと接点を持とうと、休み時間になると皇女殿下たちのところへやって来るが、皇女殿下も取り合わない。問題のフェアフュアングは寝ている。呼びかけても無視である。
せめて、フェアフュアングの近くの席に代わりたいようであるが、後ろは皇女殿下たちの特等席、そして、その周りもフェアフュアングを狙う令嬢たちの席で固められており、隙がない。
ある意味アリーヌはフェアフュアングを狙う令嬢たちにとっても敵なのである。最初の自己紹介があまりにも衝撃的であったため、すぐに敵認定されたようである。適当にわめいて、休み時間が終わるとすごすごと自分の席に戻っていくのであった。
そのような迷惑な日々も何日も続くとそれはもう日常となって、誰も気に止めなくなった。またいつもの問題令嬢がわめいている。そんな感じである。
そのような日常が過ぎていった。そして今年も魔獣討伐実習の季節となった。昨年は人語を話す魔獣が出たということで開催が危ぶまれたが、将来国の騎士団に入った場合、魔獣と戦うのは必定である。そのためにもこれまで続けてきた魔獣討伐実習は是非行うべきという意見が大勢を占めたため開催の運びとなった。一応王宮にも伺いが立てられた。皇帝は皇女殿下の護衛の近衛師団とは別に、騎士団と宮廷魔法士を派遣するので、問題ないだろうとのことであった。
担任のハンスが
「今年も魔獣討伐実習をすることになった。今年は騎士団と宮廷魔法士が警護に付く。そして4人から5人ぐらいでグループを組んでほしい、組み分けは各自気のあった者同士で組めばいい。そして、そのグループで夜は順番に番をして若し異変があれば声を上げるように、すると近くの騎士団や宮廷魔法士が駆けつける手はずになっている」
グループ分けは当然皇女殿下とフェアフュアングと前世の妻たち4人で組むことにした。アンネリース侯爵令嬢たちも、彼女たちでグループを組むようである。
アリーヌが皇女殿下たちのグループに入れてもらおうとしてやってきたが
「もう私たちは5人になったので、私たちのグループに入れることはできません」
アリーヌが恨めしそうな目でフェアフュアングを見るが、彼は相変わらず寝たままで起きようともしない。
そのままアリーヌが突っ立っていたら、担任のハンスがやってきた。
「皇女殿下、アリーヌなのだが」
と言い出したので、皇女殿下は魔力を込めてハンスを黙らせた。ハンスは皇女殿下の魔力をまともに食らって立っているのがやっとである。
「ハンス様、私たちはもう5人でグループを組んでおります。それに実力の分からない者に私の背中を預けるわけにはいきません。アリーヌは他のグループに入れてあげてください」
そう言って、さらに魔力を込めた。もうハンスは気絶しそうである。
「そ、そうだな。アリーヌは他のグループに入れる」
それを聞いて皇女殿下は魔力を解除した。
「おい、アリーヌ、こっちへ来い。他のグループに入れてもらう」
そう言われて、アリーヌは離れていった。
魔獣討伐実習の日になった。昨年は人語を話す魔獣が出たということで、今年は騎士団と宮廷魔法士から10人ずつ計20人の護衛が付く。それに皇女殿下の近衛師団の護衛も昨年は3人であったが、今年は5人に増員された。
50人の学生に25人の護衛である。物々しい雰囲気の中で魔獣討伐実習は始まった。これだけ、護衛が多いと肝心の学生は気楽な雰囲気である。和気あいあいとおしゃべりしながらテントを張っていく。食事の準備も準備しているのか、しゃべっているのかわかないくらいである。
しかし、ある一角はすさまじい陣取り合戦である。皇女殿下たちがどこにテントを張るかによって、その後のフェアフュアングとの触れ合いの機会が変わるのである。
この陣取り合戦にアリーヌも参加したかったのであるが、彼女のグループはフェアフュアングに無関心だったのである。結局仲間の立てたテントの側にテントを立てた。そして恨めしそうにフェアフュアングのいるあたりを眺めている。
今回も皇女殿下はタマを連れてきた。タマは喜んでフェアフュアングの背中のリュックに入ってきた。そして、
「ライム様の貞操を狙うメギツネは私が排除する」
と息巻いている。
夜半にタマが急にうなり声を出して皆を起こした。皇女殿下が
「タマどうしたの」
すると、タマは人化して
「近くにライム様を狙うメギツネがいる。そして、この森に強い魔獣が数体いる」
これを聞いた皇女殿下は索敵を行って、近くに女子学生がいるのを把握した。また、森の中にも魔獣の気配がする。魔獣の気配は巧妙に隠蔽されているようで騎士団や魔法士は気づいていない。
「本当にレベルが低いのだから、うちの騎士団や魔法士は。猫に負けてどうするのよ」
「タマ、魔獣とそれを操る魔法士を倒すことはできる?魔法士は出来たら後で尋門したいから気絶させるだけにしてほしいのだけど、できる?」
「できる。魔獣は2つに切り裂く。魔法士は縛り上げておく」
「皇女殿下、メギツネはどうします」
「そうね。魔力を当てて気絶させますか」
「そうね、それがいいかも。少しぐらいお灸をすえないと」
タマは元の猫の姿に戻ると、隠密のスキル全開で闇の中に消えていった。
皇女殿下は暗がりの方に向かって
「どうしたのですかアリーヌ、貴方のテントは向こうです。ここは私たちのテントです。元の位置に戻ってください」
すると、暗がりの中から
「トイレに行ったのですが、迷ってしまって」
「そうですか。それでは私の護衛の騎士を1人付けますので元のところまで戻ってください」
「こちらにいることはできませんか」
「出来ません。ルール違反です。近衛の騎士、この令嬢を向こうのテントまで連れて行ってください」
そう言って、無理やり騎士をつけてアリーヌを引き離した。
そして、何事もなく夜は更けていった。少なくとも護衛の騎士団と宮廷魔法士はそう思っていた。




