86.人形の余波と学年末試験
学院祭が終わって、またいつもの日常が戻って来たと思ったのだが、どうもそうはいかないようである。原因はあのライム人形である。あの人形がフェアフュアングをモデルにして作ったことが知れ渡ったので、学院祭で人形を買えなかった令嬢から、追加の注文がヘレーネとフランツィスカに殺到したのである。
注文を無視してもいいのだが、というか本当は無視したいのだが、あまりにも令嬢の語気が強いので、簡単には断れないのである。それと、あの人形はプレミアムがついて今では銀貨3枚の値段が付くそうであるが、誰も売ろうとしないようである。
結局、ヘレーネとフランツィスカはライム人形を作っているシャルルランス王国の工房に依頼して人形を作ってもらいその人形に今度は帝都の工房に依頼して服を作ってもらうことにした。これらの作業はいつものセルフホーフェン商会に丸投げした。いつものパターンである。
商会としては売れるものは売りたいのであるが、皇女殿下が学院生の注文以外は売ることを固く禁じたので、商会長もあきらめたようである。そのため、ヘレーネとフランツィスカの受けた注文だけ細々と販売が続けられた。
それと、ライム人形を買った令嬢たちはライム人形を枕元に置いて添い寝するという習慣が密かに広まったようである。この人形は幼い少女の着せ替え人形で、大人の女性が抱き枕のように扱い妄想する物ではないと何度説明してもわかってくれない。というか、わかろうとしない様であった。これも皇女殿下を悩ます問題の一つである。
悶々とした日々が続いていく。普通だったら、学院祭が終わると勉学にいそしみ、その後、期末試験となるのだが今年は、学院でのフェアフュアング人気は絶好調である。密かにフェアフュアングを見に来る令嬢も多く、学院では皇女殿下の気が収まる時がない。毎日ストレスだけが溜まっていく。
そのような悶々として日々が続いて、やっと今日は学年末試験である。今回は前回の反省を糧にフェアフュアングには勉強をさせなかった。試験が近づくとタマに相手をしてもらった。そして皇女殿下たちは離宮に帰ると猛勉強したのである。
試験の結果は非常であった。フェアフュアングは1位ではなかったが、2位をキープしたのである。1位はマリア、皇女殿下は3位であった。人形の余波のストレスが皇女殿下から集中力を奪ったようであった。授業中は寝て、試験前は勉強もせずに遊んでいる。それでいて試験を受けると学年2位、何ともフェアフュアングは優秀なようである。
当然のようにまた人間優秀論が再燃するのである。
もう皇女殿下はあきらめの境地である。
「旦那様、側室の件はまず第1儀に旦那様が判断してください」
もう、フェアフュアングに丸投げすることにした。
「いいのか、俺が気にいったら、側室にしていいのか」
「やっぱりダメ、無制限にはダメ」
「だろう、やっぱりお前が主だな。お前がいいと判断した女だけ側室にする」
結局また自分に帰って来るのであった。
今世は優雅に清談を語るのは無理なようである。そこで、皇女殿下は皇帝と皇后にまた相談した。何とか第1夫人の負担を軽減してほしい。これが思いである。
「フェアフュアングが今回の試験でも再度学年2位になりました。今回は試験前にタマに相手をさせ、勉強させませんでした。それでも学年2位です。また、人間優秀論が再燃しています。もうどうしていいかわかりません」
「そうだな、昨年出した通達でも側室を取るには夫と第1夫人の判断だったな、それでフェアフュアングはどう言っている」
「旦那様は、私に任すと。たぶん旦那様に任せると際限なく側室が増えます」
「そんなに、フェアフュアングは浮気性なのか」
「前世は、そこまで浮気性ではありませんでした。しかし、今世は少し違うようです。それに周りの女がほっておかないようです。町を歩いただけで、知らない女性から結婚を申し込まれたりします。旦那様には深くフードをかぶって素顔をさらさないようにお願いしています」
「わかった、宰相とも協議して、エルネスティーネの負担が少なくなるような方策を検討する」
「そうしてください。このままだと私は真実の愛を邪魔する悪女にされてしまいます」
「そうだな、早急に対応を考える」
まだ、いろいろ言いたいことはあったが、もう気力が付いて行かない皇女殿下であった。




