84.学院祭(1日目午後)
学院際の午前中は静かな物であった。場所を人がほとんど通らない校舎裏を指定したのもよかった。それに、アンネリース侯爵令嬢たちに情報がほとんど漏れないようにしたのも功を奏したようである。とにかく午前中は平穏な時を過ごすことが出来た。
しかし、その平穏も午後になるとは続かなった。
向こうを見るとアンネリース侯爵令嬢たちが大挙してやってくる。見つかったのなら仕方ない。後は適当に小物を売るだけである。
「フェアフュアング様、ごきげんよう。フェアフュアング様は何を売っていらっしゃるのですか」
「俺か、俺は皇女殿下と一緒に小物を売っている」
そう言われて初めてアンネリース侯爵令嬢は隣にいる皇女殿下たちを見たようである。驚いた顔をしている。アンネリース侯爵令嬢にとって、フェアフュアング以外は大根かカボチャに見えるようである。
「失礼しました。皇女殿下もいらしたのですね」
「そうよ、私もいたの」
皇女殿下が少し語気を強めてそう言った。
しかし、アンネリース侯爵令嬢は涼しい顔である。
「フェアフュアング様は剣術大会とか魔術大会には出ないのですか」
「俺は元平民、貴族相手に戦うと、後で恨まれるかもしれない。だから、俺は剣術大会、魔術大会には出たくない。
ちょうど皇女殿下たちが小物を売るというので混ぜてもらった」
「そうですか、言っていただければ、ご一緒したのに。私たちは小説を売っていますのよ」
アンネリース侯爵令嬢たちはあの「白馬の浮気男」の最新版を大量に持ち込んだようである。
「俺は婚約者をないがしろにすることはしない」
婚約者と言われて皇女殿下はうれしそうな顔している。反対にアンネリース侯爵令嬢の目が少し吊り上がっている。
しばらく、視線がぶつかり合っていたが、
「それで、フェアフュアング様は何をお作りになったのですか」
「俺は風鈴を作った」
「風鈴?」
「この綱に吊ってある音のする小物だ」
「このチリン、チリンと音のするのですか。これを何に使うのですか」
「何って、音を聞くだけだ」
「音を聞いて何かいいことがあるのですか」
「俺はこの音を聞くと幸せな気持になる」
「………」
アンネリース侯爵令嬢のキョトンとする顔を見て皇女殿下は
「勝った」
と思った。
「この風鈴の良さが分からない様ではアンネリースもまだまだね、これを風流と言うのですよ」
「風流ですか。よくわかりませんね」
「風流とは自然や季節の移ろいなどの様々なことに喜びを感じることですわ」
「皇女殿下、風流とはそれだけではないぞ、それ以外にも人々の行いや、作った物など様々なことに対して美しいと感じる心も風流だ。風流とは誠に奥深いものだ。一言では言い表せないものだ」
なんか風流論議になってしまって、アンネリース侯爵令嬢がついていけないと言った顔をしている。しかし敵もさるのもの、すぐに自分を取り戻して、
「それで、この風鈴はいくらするのですか」
「小銀貨6枚だ」
「そんなにするのですか」
「そうだ、作って、音を聞いて、気に入らないとまた作り直して、また音を聞く。ここに置いてあるのは、俺が最終的に気に入った音のする物だけを置いている。気に入らない物はすべて作り直した」
「そんなに音が大事なのですか」
「そうだ、この音一つで人生が変わる」
いつも勝気なアンネリース侯爵令嬢が引いている。どうもこの時代の人間には風流は理解しがたいようである。
結局アンネリース侯爵令嬢は?マーク満載の顔をしながらそれでも風鈴を1つ買った。他の令嬢も同様であった。
取り巻き令嬢の1人が
「この人形は」
「これは、ヘレーネとフランツィスカの作ったライム人形、小さい子供がいると喜ぶと思います。午前中もクラスの男子が妹のプレゼント用に1つ買ってくれました。服が高くつくので、小銀貨7枚です」
「そうなの、フェアフュアング様が作った物ではないのですね」
「そうです。小さい女子にあげると喜ぶと思います」
「そうね、子供の着せ替え人形ね」
すると、他の令嬢が
「でも、この人形何となくフェアフュアング様に似ていない」
他の令嬢も
「そうね、何となくと言うかよく似ていると思うわ」
「だとする、この服を脱がせると、きゃー」
と言って、取り巻きの令嬢は顔を真っ赤にして、それから手で顔を覆った。
フェアフュアングが
「その人形を俺に見立てて服を脱がすのはやめてくれ。それはあくまで小さい子供用の着せ替え人形だ」
「そ、そうですね。変な妄想はしないことにします。でも気になるので1つください」
「本当だろうな、変なことには使わないだろうな」
結局、ライム人形も1つ売れた。
こうして学院祭は始まった。




